パワフルに変化をつくる『ポジションチェンジ』を身につける ⑦

今回の記事はポジションチェンジのゴールの話です。

ポジションチェンジのワークは何を目指して行うのでしょうか?

答えはスッキリした状態です。

これは実はポジションチェンジに限らず、基本的に全てのセッションのゴールはスッキリした状態なのです。

当初の感覚がシフトした(切り替わった)状態。例えばモヤモヤがスッキリしたり、重苦しい感じがスッと軽くなったり。そういう状態になることが大切なのです。

これは単に気づきがあったとか、思考が整理されたというのを超えて、心(無意識)や身体が落ち着いた状態なのです。

スッキリと落ち着いた状態だからこそ、クライアントは迷いなく進めるわけですし、リソースフルに状況に対処できるのです。

リソースフル=内外のリソースを活用できるような心理状態

ただし気をつけないといけないのは、単にスッキリするだけではダメだということです。

実はスッキリするのは簡単です。サウナの後に水風呂に入るのを想像してください。最初は寒いけど、少し我慢してから冷水から出ると、心身ともにスッキリした状態が感じられると思います(笑)。

肩で息をするくらい全力疾走してから、深呼吸して身体を落ち着けてもスッキリします。好きな曲をカラオケで大熱唱したらスッキリします。悲しい映画を見て大号泣したらスッキリします。

でもこれらは別に現実を何も変えていません。現実にどう対処するかの指針も得られていないはずです。

だから単にスッキリするのではだめです。スッキリするのは結果としてです。その手前で大切なのが

相手とアサーティブなコミュニケーションを取ることで今後の指針が決まった

ということなのです。

アサーティブ=自他尊重のコミュニケーション。お互いの考えていることを伝えあい、理解しあい、今後の方針を決めるコミュニケーション。

今後の指針については前回の投稿に引き続きコヴィー博士の『7つの習慣』から考えてみましょう。第4の習慣は

Win-Winを考える

第4の習慣

なのですが、その中に「Win-WinまたはNo Deal」という考えがあります。Win-Winにならないようなら、取引しない。なんらかの合意をしないという合意をする。そんな考え方です。

ポジションチェンジを経ての指針もこれです。

お互いの事情、お互いの考えていること、お互いの目的。そのようなものを理解しあった上で、協力し合えることがあるなら、そのことに向けて進む。それが無いようなら、適切な距離を取ることを決めるのです。

いずれnoteでも解説しますが、僕が作ったコンテンツで「コーチング12の物語」というものがあります。これはコーチングカウンセリングで目指すと良いゴール集、落とし所集のようなものです。コーチングカウンセリングには12種類の結末があるというような話です。

この12の結末の中には
⑨この人なりの事情があった!◯◯の点では協力できる!
⑩この人なりの事情があった!適切な距離を取るのがよい!

というものがあります。これがまさにポジションチェンジワークのゴールです。

僕らは共有ゾーンと呼んでいますが、思ったよりも多くのケースで、お互いが協力し合えるような方向性が見つかります。ただしそのためには、クライアント自身がまずは自己理解を深めること。そして相手の理解も深めること、その両者が欠かせません。

共有ゾーン発見プロセス

上の図で、青とピンクの輪が重なっている部分が両者の共有ゾーンですね。この共有ゾーンを発見するためには、自己理解を深め、相手理解(他者理解)を深めることが大切なわけです。

そのようなプロセスの結果、相手と協力し合える共有ゾーンが見つかれば、

⑨この人なりの事情があった!◯◯の点では協力できる!

という結末になってスッキリとします

もしくは、このようなプロセスの結果として現在は共有ゾーンは無さそう、という結果になれば

⑩この人なりの事情があった!適切な距離を取るのがよい!

という結果になってスッキリする

このようなわけです。ここでも

彼を知り、己を知れば百戦殆(あや)うからず

孫子

というわけです。

このことを押さえていないと、ポジションチェンジでそれぞれの椅子に座り、好き勝手言ってみたけど、却ってモヤモヤが増したとか、混乱したということになりかねません。もしくは感情的にワーワー言うことで、スッキリしたような気がするけれど、現実の指針は不明確なので、現実は変わらないままというようなこともあり得るわけです

ご注意ください。

では、今回も実際のケースを出してみましょう

これもコーチングスクール内での公開セッションです

ケース紹介「兄に引き取られた母」

クライアントはアラフィフ女性。一人暮らしをしていたお母さんが体調不良で、兄一家に引き取られたといいます。ただしお母さんは口うるさいタイプのようで、兄の家族からは煙たがられているそうです。

クライアントは「お母さんはかわいそうだが、自業自得とも言えるし、そもそも兄一家の問題なので、自分にできることは何もない」

と言います。「でも、母のことが気になって、モヤモヤしている」と。

僕は早速、今の状況を椅子で表現してもらうことにしました。

CO「では、早速ですが、お母さんを取り巻く人間関係を椅子をつかって表現してもらっていいですか?」
CL「。。。。。。。。(作業中)」

椅子で表現

そして置かれたのがこのような椅子でした

初期配置(上から見た図)

この配置にはおかしな点が2つありますが、お気づきですか?

1つは、クライアント本人の椅子がない点です。そして
もう1つは、あまりにも幾何学的な配置である点です

人間関係を表現してもらっているわけですが、円や三角、四角、もしくは直線などの配置になっているときは、正確に表現されていない可能性があるのです。

例えば「将来あなたのチームがどうなればいい?」と質問すると、クライアントは椅子を円状に配置することがあります。和を大切にしているのでしょうが、本当にそんな没個性の状態が理想なのでしょうか?それがいい状態なのでしょうか?

参考:円状の理想

このような状態を本当にここにいる全員が望ましく思うでしょうか?これがもっともWin-Winであり、シナジーが起こる配置なのでしょうか?怪しいと思います。

そして現状もそうなのです。食卓を囲んで座っている物理的な配置なら上の家族の初期配置図もありですが、一人一人の心理的な状態を正確に表しているかというと怪しいのです。

ということで、コーチはクライアントに問いかけました

CO「なるほど!ところであなたの椅子はどこですか?」
CL「ここには私の椅子はありません」
CO「あら、どうしてですか?」
CL「ここは兄の家だからです」
CO「なるほど、では外側にでもいいので、あなたの椅子を置いてもらえますか?」
CL「うーん。。。。。。(配置)」
CO「どうしてここなのでしょう」
CL「私はどちらにも肩入れせず中立だからです」

自分の椅子を加える

ということで、以下の場所に椅子が置かれました。まだ幾何学的な模様ですが、クライアントの椅子が置かれたのは大きいです。

椅子がなければ、この関係に関与しようがないのです。というか、クライアントはここは兄の家であり、自分の居場所はないと言っていました。

そんなふうにイメージしているから「自分にできることは何もない」となってしまうのです。でもコーチの働きかけで椅子が置かれました。

中立でもなんでも、ここに置かれた以上は、何かできる可能性が出てきたのです。

クライアントの椅子が加わった図

次のコーチの働きかけで事態は急速に進展します

CO「ところで質問です。お母さんのことを一番煙たがっているのは誰ですか?」
CL「。。。。。娘2だと思います」

感情を動かす1

娘1と娘2は双子で中学生だそうです。そのうち妹の方が、とくにおばあちゃん(クライアントの母)を煙たがっているとのことでした。

ところで、僕がなぜこの質問をしたかわかりますか?

感情に働きかけたかったからです

感情に働きかけると以下のようなことができるのです。

CO「では娘2の席に座ってください」
CL「。。。。。。はい」
CO「さてお嬢さん。おばあちゃんのことを見てもらえますか。。。。どんな気持ちかな」
CL「(娘2になりきって)。。。。うるさいのでうんざりします」
CO「うんざりする。。。。あなたは本当にそこに座っていたい?」
CL「。。。。いやです」
CO「では、ここにいたいという場所に動かしてみてください」
CL「。。。。。。。。。(椅子の移動)」

感情を動かす2

移動先がこちら

娘2の移動

これが感情の力です。感情にアクセスすると、思考で思っていたのとは違うことを身体が教えてくれるのです。

コーチは続けます。

CO「あなたはそこにいたいのね。。ところで上のお嬢ちゃんは、あそこにいたいかしら」
CL「いや。。。。ちがいます(椅子の移動)」

感情を動かす3

ということで以下のようになりました。

娘たちの場所

それはそうですね。おばあちゃんが嫌だったら、こっちの配置のほうがリアリティがありますね。

こうやって幾何学模様から離れて実体に近づけていったのです。そこでさらに

CO「あなたはお嬢ちゃんたちの気持ち分かるんじゃないですか?」
CL「。。。。そうですね。私も母に色々言われて育ったので」
CO「では、あの子たちの話をきいてあげるとしたら、あなたの椅子はどこに置くことができますか」
CL「あああ。そうですね。このあたりできいたあげられるかな。。。(椅子を移動)」

役割を見つける1

このようにして、役割(これも共有ゾーンの一種)を見つけていくわけです。

クライアントの役割の発見

あとはこのパターンを展開させていけばよいのです

CO「ところで、お兄さんは、本当にこんなところにいるのでしょうか。座って確かめてもらっていいですか」
CL「(兄の椅子に座る)。。。。。。。違いますね」
CO「違いますか!どう違うんだろう」
CL「うーん。母と、兄の家族の真ん中あたりでキョロキョロしてる」
CO「何が起こってるんだろう」
CL「母のことも気にしてくれてるけど、そっちにばかりいられない」
CO「そうするとお兄さんの居場所がなくなっちゃう?」
CL「あはは。そうですね。立ち位置に気をつけていると思います」

役割を見つける2

ということで

兄の椅子の変化

になったので

CO「こんな風に苦労しているお兄さんの話をきくとしたら、どこでききますか。もう一つ椅子をもってきて置いてみてください」
CL「。。。。。。。。。。(配置)」

役割をみつける3
2つ目の役割

いかがでしょうか。何もできることがないと言っていたのに、もう役割が2つ見つかりました。さらに

CO「お母さんとお兄さんの間にいるんですね。どんな話ができたらお兄さんにとっても、お母さんにとってもいいでしょう」
CL「うーん。。。兄には『本当にありがとう。。大変だと思うからできることなんでも言ってね。母にも私から話するよ』と言います。母とは、愚痴をきいたり、あとは何か楽しくやれそうなことを一緒に探したりはできるかな。。。」

役割を見つける4

これだけでも十分ですが、ダメ押しで

CO「お義姉さんはどこにいるんでしょうか?」
CL「。。。。義姉もここではないですね。。。彼女はバランスよく関わってくれる人なので。。。案外。。。。(配置)」

役割を見つける5


義姉の移動

となりましたので、

CO「お義姉さんと話すための椅子も置いてください」
CL「はい。。。。(配置)」
CO「何を話したいですか?」
CL「お義姉さんのおかげで、母も居場所があって助かってます。ただ気難しい性格でご迷惑かけてると思います。私でできることならなんでもしますから、遠慮なくいってください。。。。かな」

役割をみつける6

のように終了しました。これも10分ちょっとのセッションでした。

感情にアクセスしてもらうことで、思考から身体にフォーカスが移り、気付いてなかった無意識のデータベースが活用されて、共有ゾーンが見つかった例でした。

感情にアクセスすること。動かせそうな椅子を動かしてみること。一つ椅子が動くと、他のものも動くこと。共有ゾーンを見つけようとすること。

ぜひ覚えておいてください。

ということで、次回は実ケースを解説しながら、ここまでの総復習や、未紹介のスキルなどをお伝えしたいと思います。

また、簡単な練習法の紹介などもする予定ですので、ぜひポジションを使っていってください。

ということで、このシリーズはもう少し続きます

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