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分かりやすいことを言うな

こんばんは、栗林です。

分かりやすいことを言うなっていう話をします。
なぜなら僕は人に分かりやすく伝えるということが全くできないからです。
だからもし僕のことを3くらい賢いなと思ってくれてたら、僕の脳内には1200の賢さが詰まってると思っていただいてかまわないです。
この記事もきっと1600伝えたいことのうち4くらいしか伝わらないと思うんですけど、それはぼくが4しか理解してないわけじゃなくて、いや、そうかもしれませんね。
まあなんかそんな話をします。

そもそも人間というのは分かりにくいということを嫌う習性がありますね。
あるんですか?
あるんです。
この世界がどうやって動いてて何のせいでこうなっていて何のおかげで成り立っていて自分が今何をするべきなのか、何にもわかりませんね。
でも人間は分からないことは嫌いなんです。
するとどうするか。
物事を単純化して理解したことにするのです。
それが物語です。

ツイッターなんかを見てるとよくありますね。
貧乏人は勉強をしてこなかったんだから自己責任!
男は全員性犯罪者だから隔離しろ!
女は劣った生き物!
ものすごく単純に言えばこういうことを言ってる人たち。
自分だけの物語を信じてしまっている人たち。
賢明な栗林読者の皆様は全て真実でないということが当然のようにお分りいただけると思います。
僕の考えでは、彼らは賢いとか馬鹿だとかそういう軸で分類できる人種ではないんですね。
学歴とか社会的地位とかに関わりなく存在してる気がするので。
じゃあ彼らに共通する特徴とは何かというと、世界の複雑性に耐えられない人々ということです。

【ここから最悪読み飛ばしていいよ】

突然ですがここで科学の歴史を少し振り返ってみましょう。
ギリシャやらエジプトやらで色んな人が色んなことを考え始めて(中略)数千年後、天才ニュートンが恐るべき発見をします。
ニュートンの発見といえば万有引力が有名ですが、ここでは運動方程式の話をします。

(ここからもっと読み飛ばしていいよ)
高校で物理をやらなかった方々に説明すると、運動方程式とは「物体の運動というのはそれにかかってる力とその重さだけで決まるんやで。」ということです。
有名なF=maの式がそれです。
Fが物体にかかる力、mが物体の質量です。
そしてaが加速度です。
力が大きければ加速度もあがって速度はギュンギュンあがりますよ、物体が重ければ同じ力をかけてもなかなか速度は大きくなりませんよ、という当然のことを数学的に記述したわけです。
よくわかんない人はわかんなくても多分大丈夫です。
(ここまで)

これは!つまり!
かかる力の全てが分かれば未来永劫のその物体の動きが全て分かるということです!
また今の物体を観測すれば過去の動きの全てもわかるということなのです!
すげえや!
じゃあワタシたちも原子からできてるってことは意思とかなんかある気がしてたけど全部運動方程式で分かるならただの機械と一緒じゃん。
未来はもう決まってるってことじゃん。
加速度を時間で二回積分すればいいだけっしょ?
って思ったね?
思ったでしょう。

でもね
ニュートンの発見はほんとにほんとにものすごい偉業ではありますが、原子とか素粒子の大きさくらいのめちゃくちゃ小さいミクロの世界や光くらい早く動くめちゃくちゃでかいマクロの世界では成り立たないことが後から分かってしまうのです。
それが量子力学や相対性理論というやつですね。
量子力学では粒子の位置と速さは両方同時に観測することはできなくて常にどちらかは不確定だとか、光は粒子でありかつ波でもあるとか、波として振舞ってるはずなのに人間が観測することで粒子になってしまうとか、そんなちょっと分からないことがたくさん分かったわけです。
相対性理論でも、早く動くと空間が縮むとか、重い星では時間の進みが遅いとか、そもそも時間も空間も歪むんかーい!っていうよく分からないことが分かったんですね。
さらに!
カオス、複雑系という考えも出てきました。
仮に量子力学とか相対性理論とか一回忘れてニュートンの法則が完全に正しいとしても、どうやら根本的に計算で動きを求められないシステムもあるぞってことが分かりました。
たとえば振り子の先にもう一個振り子つけたらもう人間には計算できない動きをするんですね。
おもしろいね。

【ここまで】

つまりね、極端で分かりやすい主張しかしない人ってのは、ニュートンの運動方程式だけを信じて生きてるようなもんだよ、ってことが言いたかったんです。
ニュートンの描いた世界はたしかにすごくスッキリするし世界の全てが分かったような気はするよ。
世界の一部はたしかに正確に記述してるわけで、惑星の動きとかはほとんど正確に予想できるしね。
量子力学とか相対性理論とかちょっと正直難しいし直感で理解できないしなかなか勉強しようってならないよ。
でも、世界の本当の姿はそこに(その先に)あるんですよね。

そのほんとの世界の複雑さに耐えられない人々は、単純化して、分かりやすい言葉で、自分だけの物語を語り出すわけです。
陰謀論なんかはその最たるものですよね。
いや、わかる!
この世は全部ロックフェラーとロスチャイルドの支配下なんだよ?わかる!
分かんないことを抱えたままでいるのは脳がすごいエネルギー食うから疲れるみたいな話もある!わかる!
ある程度単純な物語にしてみんなに伝わること言わないと世の中は動かない!わかる!
てか分かんなぃこと考えるの意味なくなぃ?わかる!ギャル?
でもな!
やめろよ!
分かりやすいってことはつまんねえってことだから!
ツイッターでムカついた上司とか店員について4ページ漫画にして分かりやすいこと言うのも禁止!
二万リツイートはバカにもわかるつまんねえこと言った証拠だと思え!

カントの言うアプリオリな思考の枠組みが多分僕たちには備わってて、それはただAとBをみただけで因果関係に結びつけたり、グループ分けしてみたり、そういう機能が多分生まれつき脳にはあるんですよね。
それは昔々の野生を生き抜くためについた力で、自分の群れと他の群れを見分けることだったり明日雨降るかどうかを予想したりで役に立ってきたし、もちろん今の世の中でも大いに役立ってるはずです。
でも原子の構造とか光の速さで飛ぶ物体のことを考える必要はなかったから、そういうことを直感で理解する力はないわけです。
同じように、70億人が関係しながらうごめいている経済システムとか、インターネットで遠くの人にクソみたいなnoteの記事を読まれる羞恥心とか、そういうことを認識する必要もなかったんですね。
だからそんな力は僕たちにはなくて、僕はいけしゃあしゃあとバカみてえなnoteを書くことができて、こいつは夜中に長々と何言ってんだ軽躁か?って皆さんに思われるわけです。

つまりね!
もうこの複雑極まりない世の中全体は僕たちの脳には理解が及ばないわけです。
理解しようと思えばそのごく限られた一面だけを取り出す必要があるんです。
それはごく一部だとしても、社会のためにもちろん必要なことだし、全体が理解できないからもうこの社会の全てを諦めようとはできないし(ほんと?諦めてもいいのでは?)ごく一部ずつ議論をやっていくしかないわけです。
でも!
本当の世界はわけわかんないとこに広がってるなってのを、ちゃんと分かっときたいですよね。
簡単で分かりやすい自己満足の物語に逃げ込んで楽してんじゃねえぞ。
ってことです。
このnoteが分かりにくかったとしてもこんなものを書く人間もいるのがこの世界だという事実をそのまま飲み込んでください。

理性的に考えを整理できることが人間の能力なら、矛盾をとりあえずそのまま抱え込んでおくことができるのもまた人間のすごく大事な能力なんだよなって最近ずっと考えてます。
男と女に分けることが理性の働きなら男も女も生きたい奴も死にたい奴もバスマットもゲイも老人もレズも猫も工場排水も何の判断も下さずそのまま心に入れておくというのが後者の力です。

今年のテーマは欲望と矛盾。
あと禁煙。

おわり

ヘッダ写真はクロアチアの前菜です。
加工肉は大腸ガンリスクを上昇させます。

東大出てても馬鹿は馬鹿