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日記:大学病院を受診した

先月、歯磨きの後に鏡でなんとなく舌を見ていたら奥の方にプツっとした膨らみがあることに気がついた。
現代人であるところの僕はすぐさまインターネットで「舌 できもの」と検索する。
医学生だけどYahoo!知恵袋も見る。
いくつかのページの結果をまとめると、良性から悪性まで色んな種類があるけど、がんかもしれないから口腔外科を受診した方が良いというようなことが書いてあった。

がん、ねえ。
がん、かあ。
現代人であるところの僕はすぐさままたインターネットに戻り「舌がん 転移」「舌がん 予後」「舌がん 疫学」などと検索する。
怖くなってそのままインターネットで近くの口腔外科クリニックを検索して電話をかけて終了間際に滑り込み、そこの先生からも「なんかありますねえ」というコメントをもらった。
しかしそのできものが何者なのか(良性なのかがんなのか)は、切り取って病理検査をしなければはっきりとは分からないということで、大学病院へ紹介状を書いてもらった。

それで大学病院を受診したのが今日の話で、非効率な医療システムを呪いながら診察にたどり着くまでの1時間を過ごし、ようやく診てもらうことができた。
(待つのは仕方ない理由があるんだろうな、多分な、そのうち呪われる側にもなるからな、多分な)
診察室には若手の先生が待ち構えており、問診の後に実際に口の中を確かめてもらい、「なんかありますねえ」とコメントをもらった。
彼は悩んだ様子で上の先生を呼び、その先生にも舌を診てもらった。
上の先生が口を覗き込み、できものの存在を確認してすぐ、「バカヤロ」と若い先生を冗談混じりにたしなめていた。
「有郭乳頭だろ」

あ〜〜有郭乳頭ね〜〜〜。
知ってた。
俺は医学部5年生なので知っている。
舌には味を感じるためや食物を舐め取りやすくするために乳頭という出っ張りがたくさんある。
乳頭にはいくつか種類があり、舌の奥の方にある有郭乳頭はその中でも一番大きく目立つ構造物だ。
要するに全く正常な組織で、誰にでもあるものだった。
俺は2年生の時に解剖学の勉強をしたからね、そんなことは知ってるんだけどね。
クリニックの先生もね、大学病院の若手の先生もね、「なんかありますねえ」って言ったからね。
有郭乳頭なのにね。

無理やり教訓めいた話にするならこうだ。
インターネットで点の知識はすぐに手に入る。
舌のできものにはどんな種類の病気があるか、舌がんになるとどういう治療をするべきか、(Yahoo知恵袋ではなく)多少まともな情報源を選ぶリテラシーがあれば短時間で情報を得られる。
一方で、舌の生理的機能はどうなっているのか、神経や血管の分布は、筋肉は、構造物は、そういった線や面をなす知識は1ページのweb記事には収まりきらない。
面の知識がなければ、前提そのもの(舌にできものがある!)が間違っている可能性があるというワケ。
できものはなかったからね。
結果として解剖学の教科書には必ず書いてあるような基本的な知識を忘れたために、大学病院で1時間も待つことになったのだった。
ちゃーんと勉強せえよってワケ。
少なくともAIがあと数歩賢くなるまでは、体系だった知識はまだ重要性を失わないんじゃないかと思った。

と言いながら実は舌の側面には別のできものがあったので、無駄足というわけではなかった。
そちらについては手術で切除することになった。
そのままでも多分問題ないが気持ち悪いなら切ってもいい、とのことだったので切ってもらうことにした。
手術は10分くらいで終わりますが局所麻酔の注射が1番痛いと思います、トラウマになるレベルです。と言われたので、覚悟していこうと思う。
俺みたいなもんはたまには痛い目にあった方がいいから。

病気かもしれないと思いながら過ごす日々はなかなかに落ち着かず、医者は偉いし病気と闘って生きる人はもっと偉いなと、そう思いました。

おわり

東大出てても馬鹿は馬鹿