ポール・オースターはわりと好きな作家なのだが、フランスでの貧乏話がいちばん面白い。小説は、自分の好みから言えば、まずまずの面白さ、だ。本書には小説家になる前の評論家、書評家としての原稿が集められており、フランスを中心とした世界文学が対象である。それはそれで悪くはないが、読んで面白いのは巻末にまとめられたインタヴュー集であろう。
父親の死によって生活苦から抜け出し、小説家になることができた、など具体的な話も面白い。だが、それ以上に文学に関する考え方が興味深いように思う。例えば、詩と小説の違いについて。オースターは詩人としてスタートした。
作品に対する誤解ということについて。
そして「孤独」の意味について問われたときはこう答えている。
オースターと言えば「偶然の技法」だが、それについては最後のインタヴュー(マーク・アーウィンとの)で、ペーター・ハントケとヴィム・ヴェンダースとジャンヌ・モローとオースターをつなぐ実例が挙げられていて、これはなかなかの偶然である。ただ、ここでは、執筆中には寓話や象徴は全く頭に浮かばない、ページに記したこと以外は特別な意味はない、と述べた後で語っているサミュエル・ベケットと初めて会ったときの思い出を引用しておこう。
要するに、いいも悪いも、文学にそんなものはない、ということであろう。