daily-sumus note

画家、著述家、装幀家、古本憑き。著書に『喫茶店の時代』『ふるほんのほこり』『古本屋を怒…

daily-sumus note

画家、著述家、装幀家、古本憑き。著書に『喫茶店の時代』『ふるほんのほこり』『古本屋を怒らせる方法』『本のリストの本』『本の虫の本』など。編著に『喫茶店文学傑作選』。装幀本に『書影でたどる関西の出版100』『花森安治装釘集成』他多数。

最近の記事

本好きのこれが病ひでいよいよとなるまで下らぬ書物すら捨てかねるのであつた

今年3月4日の note に俳誌『九年母』に掲載された大岡龍男を引用した。 ………それを曲らずに右へ戻ると精進堂つて本屋がありますから https://note.com/daily_sumus/n/n969c62986950 小生、大岡龍男ファンとは言いながら主著四冊のうちの『なつかしき日々』しか架蔵しないのでたいしたファンではない。それはそれとして、本書から「銭湯」の一篇を丸写しして大岡龍男の良さを読者諸兄姉に味わっていただきたいと思う。(蔵書についての記述も出てきます

    • どうかしてシャトレエを逃げ出して、命のあらん限り、僕はお前を救ひ出す事に力を尽さう

      『マノン・レスコオ』は、7巻からなる自伝的小説集『ある貴族の回想と冒険』(Mémoires et Aventures d'un homme de qualité qui s'est retiré du monde)の第7巻に当たる『騎士デ・グリューとマノン・レスコーの物語』(Histoire du chevalier des Grieux et de Manon Lescaut)が一般にそう呼ばれている恋愛小説である。原著は1731年刊行。 広津和郎の「序」によれば、この作

      • 本を読んでいた 庭にたき木がほしてあった すると 雨が降り出した

        『全日本児童詩集第一集』(川端康成編、むさし書房、1958年10月20日9版、そうてい考案=竹中郁)を均一コーナーの棚に見つけた。編集責任者の名前がビッグ。川端康成、林芙美子、与田準一、丸山薫、村野四郎、梅木三郎、阪本越郎、久米井束、井上靖、安西冬衞、小野十三郎、竹中郁、坂本遼、足立巻一。 《さしえはこどものすきな絵の先生がたにかいてもらいました》とあってその先生方がまたなかなかの人選。小磯良平、吉原治良、井上覚造、川西英、須田剋太、山崎隆夫、前田藤四郎、田川勤次、池島勘治

        • まなぶことがあるだろうか 平和はありえないし、戦争はおわらないことを

          ボブ・ディラン「SLOW TRAIN COMING」(CBS SONY, 1979、日本盤)を行きつけのレコ屋エンゲルスガールにてもとめる。やはりジャケ買い。8年ほど前にフランスのCBSからリリースされたシングル盤「Animals (Man Gave Names To All The Animals) / Trouble In Mind」(CBS, 1979)を買ったことがあったのだが、それと同じほぼ同じイラストレーション(トリミングが異なる)。 ANIMALS https

        本好きのこれが病ひでいよいよとなるまで下らぬ書物すら捨てかねるのであつた

        • どうかしてシャトレエを逃げ出して、命のあらん限り、僕はお前を救ひ出す事に力を尽さう

        • 本を読んでいた 庭にたき木がほしてあった すると 雨が降り出した

        • まなぶことがあるだろうか 平和はありえないし、戦争はおわらないことを

          おお、おお、これはわたくしとあの方との秘密でございます。

          『未定』VII を古書善行堂で発見。たまたま前の日に矢川澄子の略歴を調べていて《1954年、同人誌「未定」に参加》という記述を読んだばかりだった。買うしかない。 『未定』は学習院大学の人たちを中心にドイツ文学やフランス文学などの翻訳、評論あるいは詩や小説などの創作を掲載していたようである。澁澤龍彦と交際を始めた矢川は『未定』へ澁澤を誘った。 その結果、以下の作品が『未定』に発表されている。 なお、Webcat Plus の『未定』データも参考までに掲げておく。復刻版が出

          おお、おお、これはわたくしとあの方との秘密でございます。

          両親は、4歳のぼくにはじめて大人向けの本、『美しい花とその育てかた』をくれたのだった。

          デレク・ジャーマン(1942-94)は映像作家であり、舞台美術も手がけた画家、作家である。個人的には、独特な艶かしさをもった映像が非常に印象的だった映画「カラヴァッジョ」(1986)の作家として認識している。メープルソープらとともにエイズ・カルチャーのスターの一人だったと言っていいかもしれない。洗練の果てにたどりついた退廃といった雰囲気がいかにも80年代的だった。 そのデレクがエイズを抱えながら晩年を過ごした場所がイギリスはケント州の海岸ダンジュネス(Dungeness)だ

          両親は、4歳のぼくにはじめて大人向けの本、『美しい花とその育てかた』をくれたのだった。

          学校に出ては 書物を読ミ 又手習すべし◯書物は事物の理を知り 手習ハ 文字の形を学ぶ

          水渓良孝図解・國井應文書『小学入門便覧』(文求堂、明治8年5月官許、同年7月刻成発兌)。明治検定以前の教科書(明治6年-13年)。 題言/四十七字/五十音/濁音/次清音/數字/算用數字ノ図/羅馬數字ノ図/加算九九ノ図/加算九九暗誦読方/乘算九九ノ図/乘算九九讀方/單語図一〜八/連語図一〜十/線及度之図/面及體ノ図/色図/色図略解/體操図解/跋/奥付 これ一冊で明治初期の日本の小学校の教育レベルが判るというだけでなく、その生活がかなりクリアに見えてくるような気がする。書物に

          学校に出ては 書物を読ミ 又手習すべし◯書物は事物の理を知り 手習ハ 文字の形を学ぶ

          大阪は今も"喫茶店ワンダーランド"であり続けているように思う

          田中慶一氏による三都喫茶店案内が完結! 『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』、『KYOTO COFFEE STANDARDS』につづく待望の大阪編が刊行された。『大阪 喫茶店クロニクル 個性に満ちた憩いのワンダーランド』(淡交社、2024年4月14日)。 読みどころはやはり「第一章 大阪の喫茶史を紐解く 1868-1945」であろう。幕末から太平洋戦争での敗戦まで激動の近代を大阪の喫茶店やカフェーがどのように生まれて発展したのか、実に丹念な資料追跡がなされており、感嘆を禁

          大阪は今も"喫茶店ワンダーランド"であり続けているように思う

          いいか悪いか、意義があるかないか、作家には決してわからない。一流作家にも。

          ポール・オースターはわりと好きな作家なのだが、フランスでの貧乏話がいちばん面白い。小説は、自分の好みから言えば、まずまずの面白さ、だ。本書には小説家になる前の評論家、書評家としての原稿が集められており、フランスを中心とした世界文学が対象である。それはそれで悪くはないが、読んで面白いのは巻末にまとめられたインタヴュー集であろう。 父親の死によって生活苦から抜け出し、小説家になることができた、など具体的な話も面白い。だが、それ以上に文学に関する考え方が興味深いように思う。例えば

          いいか悪いか、意義があるかないか、作家には決してわからない。一流作家にも。

          わたしが一番きれいだったとき 街々はがらがら崩れていって とんでもないところから 青空なんかが見えたりした

          ある古書目録から『茨木のり子の家』を買った。書斎やアトリエの写真が好きなので、集めるともなく、集めている。 この本は、ほぼ写真ばかりで構成されており、その合間に10篇の茨木のり子の詩が挿入されているだけ。巻末に宮崎治「伯母と過ごした週末」という短文が収められている。それによれば1958年に保谷市東伏見に従姉妹の建築家といっしょに設計したこの家を建てた。第二詩集『見えない配達夫』が刊行された年で、それ以降の詩はすべてこの家で書かれたことになる。 写真集で見る限り、階段の本は

          わたしが一番きれいだったとき 街々はがらがら崩れていって とんでもないところから 青空なんかが見えたりした

          彩色の渋い、鮮明さ、形態の日本人ばなれしたとらえ方

          彫刻家の船越桂氏が亡くなった。直接は存じ上げないが、1988年の銀座西村画廊での個展は印象深く、今もはっきり思い出すことができる。 1988年11月、ちょうど私も銀座の中央画廊で個展をしていたので世田谷の友人宅に泊まって毎日銀座へ通っていた。当時の日記にこうしたためている。 西村画廊を出て銀座の街を歩いていると、まさに、彫刻と同じようなスノッブな男女が闊歩している、そんな時代の空気をつかんだ、リアリティがその頃の船越氏の作品には宿っていた。 銀座の画廊がまだまだ元気だっ

          彩色の渋い、鮮明さ、形態の日本人ばなれしたとらえ方

          寒い夜に丸太町橋際の古本屋で「ダダイスト信吉の詩」を読む

          『ポエム』創刊号の中原中也特集に続いて『ユリイカ』第2巻第10号(青土社、昭和45年9月1日)の「増頁特集中原中也」を見つけた。 直接、中也を知っている吉田健一、諸井三郎、吉田秀和の文章がやはりもっとも興味深い(大岡昇平は座談会の参加者として登場)。例えば諸井三郎の語るこんな中也。 中也は河上徹太郎からの短い紹介状を持っていたという。そして部屋に招かれた中也と諸井はすっかり意気投合したらしい。諸井がピアノを弾いたり、中也が詩の朗読をしたり…… もうひとつ、北川透「中也に

          寒い夜に丸太町橋際の古本屋で「ダダイスト信吉の詩」を読む

          周到なことばの群れにわれわれは取り囲まれている

          金澤一志『小説集 サリとリサ』(Hitoshi Kanazawa, 2024)が届く。小説集という冠が付いた作品集。表紙が何とも素敵だ。もちろん本文にもさまざまな工夫が凝らされており、こんな文字組見たことない、という驚きの連続。 個人的には読めそうで読めないくらい(拡大鏡を使えばちゃんと読めます)小さな文字で四角く組んである文字列が気に入った。雪のように降り頻る文字が何ページにもわたって続くのも風情があっていい。詩(小説?)は文字の形がすべてではないか、などと極端なことを考

          周到なことばの群れにわれわれは取り囲まれている

          おれという人間は全然存在していないのかもしれないぞ

          『月刊ポエム』創刊号(すばる書房、1976年10月1日)特集・中原中也。これもまた、姫路で購入したものである。この雑誌、これまでも何度が目にしていたのだが、表紙がちょっと好きになれないため(装幀・レイアウトは渋川育由)スルーしていた。最近、例の中原中也の肖像に興味がつのっているので風向きが変わったというわけ。 創刊号だけあってかどうか、オールスターという感じの内容。吉本隆明、谷川俊太郎、和田誠、つげ義春、沢渡朔、大岡昇平、谷岡ヤスジ……。谷川・和田「ナンセンスカタログ」、つ

          おれという人間は全然存在していないのかもしれないぞ

          読書は彼女の最大の情熱だった。読んで得たものは、ほかの何にも代えられない宝物だった。

          『本を読む女』は、タイトル通り、本を読む小説。タマラさんという朗読を仕事としている女性の周辺に起こる奇怪なできごとを短編連作として八篇収める。それぞれにフルーツがからんできて、なかなかにジューシィな作品群になっている。 ジヴコヴィチは同じく書肆盛林堂から昨年刊行された『図書館』で初めて知った作家。一九四八年ベオグラード(旧ユーゴスラビア)生まれ、セルビアを代表する作家の一人だそう。 『図書館』(渦巻栗 和訳、書肆盛林堂、二〇二三年) https://sumus2018.e

          読書は彼女の最大の情熱だった。読んで得たものは、ほかの何にも代えられない宝物だった。

          嫌っていた父の家で、アンリは文学の好みと素養を培った

          石川美子『山と言葉のあいだ』を文学ソムリエ善行堂のイチオシということで購入。なんというか、優しい読み心地で、気分よく読み了えられた。主にフランスの山岳と文学を平易な語り口で綴った長短のエッセイ十一篇を収録する。 ベルリブロ https://twitter.com/yuzuogata いずれも好篇だが、なかでも「セザンヌの山とミヨーの家」は印象に残る。著者が留学中に出会ったアパルトマンの女主人との交流、そしてその歿後にあきらかにされていく彼女の過去。その叙述の背景としてサン

          嫌っていた父の家で、アンリは文学の好みと素養を培った