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飯田医院 第3話

小学6年生の頃、オヤジに言われて毎朝ジョギングするようになった。無論当時はジョギングなどという洒落た言葉はなく、ランニングと言っていた。近所を普段着で1周するだけだが、少し運動をした気にはなった。

ある朝メンド臭いので・・・

サンダルでランニングに出た。町内の看板屋の前を通った時に事件は起きた。
「いてー---っっっ!!!」
一緒に走っていた弟が、俺の声に驚き駆け寄ってきた。その場に座り込んでしまった俺の左足の真ん中あたりから長い錆びた釘が飛び出していた。
「あんちゃん、だいじょーぶけ?」
弟の呼びかけに応える余裕もなく、その釘を足の裏から引っこ抜いて、大量の唾を塗ったら痛みが減った気がした。その出来事を親に言うと叱られると思った俺は、何も言わずに学校へ行った。ズキズキとした痛みが歩くたびに足の裏から伝わってきた。

弟の告げ口で事件が発覚した

母ちゃんが飯田医院のせんせに相談したらしい。担任から「今外でタクシーが待ってるぞ。すぐに飯田医院へ行け」と言われた。
えーっ、イヤじゃー!なんかされる!!絶対切られるー!
無理やりタクシーに乗せられ、飯田医院に到着。しぶしぶ診察室へ行くと、飯田せんせがメスを眺めてニヤニヤしている。
「おう、おめーなー、釘踏んだらすぐ来いや。足腐ってまうぞ。」
診察台にうつ伏せにされ、せんせが注射器を手にした。
「切っても痛くないように麻酔打つぞ」
おー、なんや、麻酔するんかー。ほんなら大丈夫やな。

足の裏に打つ麻酔は・・・


この世の言葉では表現不可能なくらい痛かった。しかも傷口の周りに何本も打つので泣いてしまった。その後傷口を切って何かしたらしいけど、感覚がなくて分からなかった。その日は学校へは戻らず家でしゅんとしていた。

くっそー、あのヤブ医者めー、とうとう切りやがったなー!

お陰で変なことにはならずに済んだようだ。

大した名医・・・かも知れない

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