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佐渡島庸平さん「自分の成長をどのように捉えてここまできたか」講演〜後編〜


前編では、佐渡島庸平さんが自己の成長のために意識していること、をお届けしました。今回は更に佐渡島さんが今の時代をどのようにして捉えているか、会場から出た質疑応答などをお届けします。

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前半でもお話しましたが、僕は迷った時に「自分が嫌だと思ったほう」を選ぶようにしています。
半年程前に、キングコングの西野さんと一緒にラオスへ行きました。ラオスへ行った際に、象が泳いでいる川があり、僕もその川に入り泳いだのですが、ちょっとタイミングが違ったら、僕らが泳いだ川は象のフンだらけだったんですね。それを見て西野さんと言ったのが、「フンだらけの川に入ったほうがネタになったね」と。笑
フンまみれになりたい訳ではないのですが、「嫌だなと思うことのほうが思い出話として面白い」。大抵の嫌なことは、後から振り返って話すと笑い話に出来ます。「予想もしないようなことが起きた時に楽しめるほうが人生って楽しい」そう思って行動をするようにしています。

感情の起伏が激しい人は、喜びの感情も大きければ悲しみの感情も大きいと思っています。ネガティブな感情は、生じた時にコントロール出来ないと大変ですが、自分が成長するために、あえて「嬉しい・楽しい」などの上のほうの感情だけでなく、「嫌だな」と感じる下のほうの感情を自ら取りに行くように心がけています。

僕は、「人間とはシンプルなもので、芯が通っていたらシュッとする」と考えています。
大学時代にダイビングをしていました。タンクを背負って潜るのではなく、素潜りです。素潜りをして、海の下のほう、下のほうへと潜って行くと、その途中でブラックアウトしてしまうかもしれない、という恐怖と対峙します。その時の恐怖心をどういう風にコントロール出来るのかにハマっていました。できる限り長時間素潜りを出来るように、お風呂の中で呼吸を止める練習をしたりして。お風呂の中で練習している際に意識消失などしたら、恥ずかしいな、とは思っていたのですが、練習の結果5分間くらい息を止めていられるようになりました。
呼吸をコントロールする、どういう風に歩くか、などのシンプルなことが好きなんですね。
物事を捉える際に、どうやってシンプルに考えることが出来るのかを意識するようにしています。

ここからは「ベンチャーを起業して、今の時代をどのように捉えているか」ということをお話しさせて頂きます。

会社をやっていく中では、日々目の前に起きることもやって行かなければなりませんが、CEOの仕事の一つに、「仮説を作っていくこと」があると考えています。10年後、20年後を考える時に、10年前、20年前、100年前、1万年前はどうだったのかも考える。「1万年前からずっとあったであろう感情もあるはずだ」という仮説を立てるんですね。今自分の中にある欲望の中のどれがずっと続くタイプのものかを考えるようにしています。

昔から変わらずにある人の欲望の中に、「人は自分にとって最適なものに出会いたいという気持ち」というものがあると思っています。インターネット、WEBというものは、無数のネットワークを作り出しています。今までだとそこに線が無かったものに対して、インターネットにより、線が生まれ出しました

インターネットが無かった時代には、旅行をするとなるとホテルや旅館に直接問い合わせるしかありませんでした。それがインターネットの出現により、HISなどの代理店が生まれました。そこからさらに進んで、今ではAirBなどで、その日その時に自分がいる場所での宿とのマッチングが可能になりました。それと同じことが車だとUberで起きています。今までは、今ここで自分が移動できる車に出会いたいと思っても、マッチングが難しかった。ほとんどのものがうまくマッチングされなかったから、自分で所有するしかなかったんですね。それがインターネットにより、細やかにマッチングされるようになりました。メルカリも、ユーザーの多くが出品して得た売り上げ金でメルカリ内で別の物を買い、それが不要になったらまた出品し、短期的に何かを借りるという超シェアリングツールとして使われているそうです。

人は何か自分に最適なものに出会いたい」という欲望を持っています。リアルな世の中は人が完璧なものに会うことを邪魔しています。男女の出会いも、昔はお見合いが主流で、当時は自分が望む完璧な人には出会えないけれど、そんなものだとみんなが認識していました。女性が外に働きに出るという前提がなかった為、お見合いが出会いの場として機能していたんですね。そこから女性も外で働くようになり、今度は「職場」が男女の出会いの場になりました。ただ、同じ学校、職場だけだと実際に出会える人の数にも限度がある。そこで、結婚相談所という出会いの場が生まれたし、更にもっと快適なマッチングがあるんじゃないか?という思いがインターネットにより実現可能になり、出会い系アプリが生まれました。動物である限り、男女で出会いたいというのは人間の中で上位にある欲望なので、人がより自身にとって最適な人を見つけたいと思い、出会い系アプリを利用する、というのはインターネット以後の現代では自然なことだと思います。

インターネットの世界では、より細かな欲望に近づければ近づけられるほどいいんですね。
Facebook,Twitter,Instaglam、それぞれ別のものですが、つながり方の違いはあれど、「自分に最適な人と出会いたい」という人の根源的な欲望を満たすからこんなに多くの人が日常的に使っている。
僕の友人に、予防医学者の石川善樹さんという方がいるのですが、彼が「人々は現在では、レストラン側の事情に合わせて食べ物を選んでいるが、将来的にはインターネットサービスにより、自分の体調に合わせて食べ物が運ばれてくるようになる可能性も大いにある」と言っていて、非常に面白いなと感じました。そのようなことが可能ならば、エンタメでも、「ストーリーが自分の状態に合うものとマッチング出来るようにもなるのではないか」という仮説を僕は抱いて、コルクを運営しています。

ここまで、僕が講義形式で一方的にお話ししてきましたが、ここからは会場にいる方からの質疑応答という形で質問にお答えて出来たらと思います。

【質疑応答】
●質問1
「クリエイターと編集の立ち位置とはどういったものでしょうか?作家の方はコンテンツを作る上で自分の意思で断言して作っているのですか?」

−作家の方は、自分の頭の中にアナザーワールドがあります。「ドラゴン桜」や「インベスターZ」の作者である三田紀房さんの中にもリアルに近いアナザーワールドがあり、作品ではそれを描いています。僕は編集者として、その作家の頭の中にあるアナザーワールドには口出ししません。ベテラン作家の方は、自身の中にあるアナザーワールドに気づいている方が多いです。けれど、新人作家の場合だと、自身が持っているアナザーワールドに気づいていない方もいて、そういった場合には、質問を通してその作家さんが気づけるように、アナザーワールドを構築出来るようにしています。

ビジネスで考えた時には、世の中では「空いている席」というのがすごく大切です。空いている席の問題で、編集者が面白いと思うが当たらないものもたくさん存在します。ものすごくいいコンテンツだとしても、そこに席がないとヒットしないのです。席に空きがあるかどうかは、マーケティングの問題のため、作家の方は考えていないことが多いため、そこは誘導するようにしています。

僕がコルクでエージェントをさせて頂いている作家に、平野啓一郎さんという方がいます。「マチネの終わり」を書く時に、平野さんは40歳問題を一番のテーマに書こうとしていました。けれど、40歳問題という席はそもそも席として牌が少ない。恋愛ものの小説でヒット作は長らく出ていないので、席が空いていると思ったため、40歳問題はテーマとして二番目に持ってきてもらい、「マチネの終わり」では恋愛テーマを一番に持ってきてもらうようにしました。結果、「マチネの終わり」は20万部を超えるヒット作となりました。

「宇宙兄弟」の作者である小山宙哉さんは、「宇宙兄弟」の前に「ハルジャン」「ジジジイ」という作品を出しています。「ハルジャン」、「ジジジイ」はそれぞれスキージャンプ、怪盗老人がテーマなのですが、コンテンツは面白くても「宇宙兄弟」ほどのヒットに繋がらなかったのは、これらのテーマだと席が空いているかというよりも、そもそも席が存在しなかったからなんですね。笑
そこで僕は、家族ものと宇宙ものという枠ならば、席が空いていると思い、家族と宇宙をテーマにして作品を作ってみたらどうか?と小山さんに伝えました。何度も打ち合わせをする中で、小山さんのメモに「宇宙」と「兄弟」という単語が何回も出てきていて、「これそのままタイトルに使えるじゃん!」となって、「宇宙兄弟」というタイトル・作品が生まれました。

●質問2
「自分が成長するための身の回りの10人をどういう10人で設計していますか?」

−今まで編集を担当していた作品により、他業界のエンタメの方達、経営者の方達と出会えるようになりました。コルク起業の2年前くらいから現在に至るまで、IT企業経営者の方たちと一通り飲みました。IT企業の方達の話は面白く、僕自身も非常に刺激を与えてもらっています。今は自身の会社、組織を見つめ直さないといけないと思っているので、コルク社員の人たちと頻繁に飲んだりしています。
また、自分の神経を起業の方からコンテンツの方に戻そうと思っているため、最近ではコンテンツ寄りの人と会うようにしています。
その時によって自分が求めるものと、身の回りに接する人とのグラデーションを作るようにしています。

●質問3
「作家さんにスランプが起きた時の対処法は?」

−ライバルを決めて競わせるようにしています。誰と誰を嫉妬し合わせるか、競争させるかを設計して、作家の方がスランプに陥らないように意識しています。なかなか描けないという状態は、自意識が邪魔していたりするんですね。すごいところを見せようとする「結果に対するイメージ」が強すぎて描けなかったりする。漫画家というのは自分の頭にある世界をこねくり回すのが大好きな方が多いです。漫画家の中の一流の人で、他人の漫画を読んでる人はほぼいません。笑  人が描いたものよりも、自分で面白いものをかけた時が気持ちいいと思っています。だからこそ、魅力的な作品を描きだせるので、そんな方がスランプに陥ったら、「あれを描いているあの人は、今こういった状況だよ」などと、うまく伝えます。人はやはり適切なライバルがいると伸びる。スポーツ選手などでも一人でやるよりも自分より少し上なライバルと競うと、よりタイムが伸びたりする。作家・漫画家の方は普段孤独な作業を強いられます。自分一人でスランプに陥ったらなかなか抜け出せない。そんな時に「あの人は自分のライバルだ」という存在がいると、その人に負けない気持ちで、スランプから抜け出せたりするので、僕はライバルを設定するということでそのお手伝いをします。

●質問3
「人に根源的にある欲望とはなんでしょうか?」

−「人に根源的にある欲望」とは「会話をしたい」という気持ちだと思っています。「ドラゴン桜」を担当しているときに、人の脳が活発化するのは、「知らない人と会話している時」だと学びました。人間の脳は「会話をしている時」それも特相手が「知らない人」の時に一番活発に動くそうです。それを学んでから、僕自身が運営しているコルクラボ内では、定例会の際に、毎回アイスブレイクを行ったり、ゲスト講演中にはオンラインの掲示板に質問や感想を書き込むようにしてもらい、口でも手でも常に会話している状態を作り出すように設計しています。
今は簡単に情報に接することが出来るために、目にするコンテンツは日々大量にあります。そんな中で、いいコンテンツというのは、「会話を生む」コンテンツだと思っています。そう考えると週刊文春はいいコンテンツですが、寿命が短い。シェイクスピアは400年前の人ですが、いまだに人はシェイクスピアを語ったりします。時を経ても「会話が生まれるコンテンツ」とは何か、ということは僕自身よく考えます。
人は毎回違うことを話すのは大変です。そのため、同じ会話を他のファン・別の人ともずっと出来るということはコンテンツ作りにおいて非常に重要だと思っています。

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前編でお届けした自身の成長のために「嫌だと思うほうを選ぶ」という佐渡島さんの姿勢の徹底にも驚いたのですが、今回の後編での「恐怖心をどれだけコントロール出来るか」のために、素潜りにハマり、ひたすらお風呂で息止め練習をしていた。というくだりには吹き出してしまいました。どれだけストイックなんだろう、と。。。笑
でも、そこから更に、そのような一見嫌だと思う行為でも、後から笑い話になる。だから『嫌だと思うことを「いいね」と思って選ぶ』ように意識し、自分を成長し続けるような状況に設計していると聞いて、さすがだなぁと思うと同時に、私自身も疲れて呟いたり書く意欲が湧かない時にも、それでも書こう、綴ろう!と強く思わせてくれた佐渡島さん講演でした。
「人は自分に最適なものと出会いたい」。きっと私を含めた普通の人は、そんな欲望を意識しないで日々を過ごしていると思います。私がこの講演で聞いた内容を、主人や友人に「こういうこと聞いたんだよね」と話すと、「使ってる人はそこまで考えてないでしょ」と言われ、そこから会話が生まれます。これぞまさにいいコンテンツだ!!と思っています。。。

長文お読み頂きありがとうございました(^^)

前編はこちらです(^^)

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書けども書けども満足いく文章とは程遠く、凹みそうになりますが、お読みいただけたことが何よりも嬉しいです(;;)