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「“みんなの大ナゴヤ大学”になるため、学長制度を廃止します」〜山田卓哉×大野嵩明 対談〜

ここ数年、新しい授業のスタイルがいくつも生まれてきた大ナゴヤ大学。一人ひとりの「つくりたい」気持ちを大切にしたいからこそ、新たな試みとして「学長」制度を廃止します。

大ナゴヤ大学は「さまざまな学び・学び合いの場を提供するプラットフォーム」という位置付けに。学長ではなく特定の目的の授業をつくりたいメンバーが中心となり、各自の意思に基づいて授業づくりを進めていく体制に移行します。

ここに至るまで大ナゴヤ大学がどのように変化してきたのか。今後の組織の在り方をどう考えるのか。法人の理事で3代目学長として活動してきた“ヤマタク”こと山田卓哉と、理事長の“たかさん”こと大野嵩明が語り合います。

“3代目学長誕生”からの5年間を振り返って

大野:まずは、ヤマタクが学長になってから現在までの変化を振り返れたら。大ナゴヤ大学を運営するなかで、整理しなくてはならないことも結構出てきたと思うけれど、どうだろう?

山田:2017年6月からDNU(NPO法人大ナゴヤ・ユニバーシティー・ネットワーク)の理事になって、学長になったのは同じ年の9月からでしたね。最初の2年くらいは、チューニングの時期だったなと。有料・無料の授業の棲み分けや、クライアントワークの位置づけ……。特に、学びの場を通して地域との接点をつくる自分たちの活動に、金銭的な価値を付けることはシビアに考えていた。でも、それと同時に「今のカタチが本当に“大ナゴヤ大学らしい”のか?」「“大ナゴヤ大学らしさ”とは何か?」と悩み始めるようにもなった。

大野:お金になるか・ならないかだけを判断基準にするのではなく、「誰でも自由に学べる」という開校当初からの価値観を大切にすることも必要だと感じたんだよね。そこであらためて、気軽に参加できる“ひらかれた学びの場”をつくろうと、参加費無料で始めたのが「大ナゴヤの日」。キャッチフレーズに掲げている「まだ見ぬ、面白いに出会う」は、ヤマタクが中心となって考えた言葉だった。

山田:大ナゴヤ大学のこれからを見据えて、僕は“価値”を築いていきたかった。学長を引き継いだ当初は「価値=応援される=お金が入る」という考え方で、コンテンツを安売りしないほうが良いんじゃないかと思っていて……。でも、有料授業も無料授業もやっていくうちに、それぞれに異なる価値があると気づいたんです。有料授業には同じ趣味や同じ知識を持った人たちが集まりやすく、興味関心から人と人をつなげられたり、密度の濃い学びが得られたりする。一方で、無料授業にはお試し感覚で来てくれる人も多くて、そこから偶然の出会いが生まれる。誰でも自由に学べる参加費無料の場はなくてはならないものだと実感して、“学びの入り口”として「大ナゴヤの日」を設けました。

誰もが自由に、大ナゴヤ大学という“器”を使えるように

大野:2021年4月から「大ナゴヤの日」を本格始動させてからも、この枠におさまらない授業やクライアントワークもあって、どう区分し、まとめていくかという課題と向き合っていた。2020年に始まった名古屋城とつくる学びの場「城子屋」や、2022年に立ち上げたばかりのまち歩き形式の授業「まちシル」、それ以外にもプロジェクトから授業が生まれることもあった。そうした背景も踏まえて、なぜ学長制度を廃止しようと思ったかという話をしていこうか。

山田:「大ナゴヤの日」を始めるときに、僕が学長になる以前からの大ナゴヤ大学を振り返ってみたんです。初代学長・加藤慎康さんの時代は「学びを通してナゴヤの新たなコミュニティをつくる」、2代目学長・加藤幹泰さんの時代は「ナゴヤを面白がる人を増やす」というビジョンがあった。じゃあ、僕には何ができるのか。強いリーダー像でプロジェクトを推し進めると、個人の意思が際立った「僕の大ナゴヤ大学」になってしまう。そうではなく、一人ひとりを大切にした「みんなの大ナゴヤ大学」をつくりたかった。

大野:いつのまにか、「学長が決定権を持つ」という認識が当たり前になっていたんだよね。

山田:大ナゴヤ大学はこれまで2回も学長が交代してきた組織だけど、大事なのは「学長が誰になろうが活動がブレないこと」。そう考えると、そもそも学びの場づくりの権限を学長個人が持っていることは健全ではないという結論が浮かび上がってきた。リーダー不在では活動が成り立たない、でも、必ずしも学長がリーダーシップをとらなくてはならないのだろうか?と。プロジェクトごとの“長”や目的を持ったメンバーに権限がある新体制は、一人ひとりの「やりたい」を応援できる仕組みとして、すごくしっくりきています。

大野:これからの大ナゴヤ大学は、みんながやりたいことをやれる“器”(=プラットフォーム)になっていく。法人全体の理事は別として、大ナゴヤ大学には権威を示すような肩書きはなくてもいい。大ナゴヤ大学内に生まれていた“違和感”を解消すると同時に、強いリーダーとして一人で前を走るのではなく「みんなでつくる」ことを重んじるヤマタク個人の動き方とのギャップも埋められた。仕組みなんて、人に合わせて変えれば良い。そういう組織づくりのほうが、僕らには合っていた。

山田:大ナゴヤ大学は、明確な社会課題を直接的に解決していく役割を果たす場ではなく、ゆるやかな関わりからきっかけを提供する場。「みんなの大ナゴヤ大学」になれば、「あなたがいれば、カタチが変わる」という大ナゴヤ大学が大切にしている言葉もフィットする。

大野:実はこの言葉、開校当初は中心に据えられていたわけではなかったんだよね。パンフレットの後ろのほうに載っていたくらいで。活動目的の言語化が必要になってきたとき、「これ、いいじゃん!」と表に引っ張ってきた。


学長ではなく、これからはプレイヤーのひとりとして

大野:もう少し、これからのことも話していこうかと。大ナゴヤ大学は“プラットフォーム”になって、そこにのるコンテンツとして、学びの目的に応じたブランド(=プロジェクト)がいくつも生まれる場所になっていく。理事としての責任はもちろんあるけど、学長ではなく“学びをつくるメンバーのひとり”となったとき、ヤマタクはどうしていくんだろうか?

山田:マネジメントする立場ではなくなったことで、物事をクリエイトしていくプレイヤーに振り切っていけますね。誰もが“長”になれるからこそ、やりたいことを直接的にやれる環境になった。「大ナゴヤの日」を丁寧につくってきた一方で、“学びの入り口”にはそぐわないからと、一旦据え置きにしてきたプロジェクトの構想もいろいろあった。入り口より先に進んで、学びを深められる有料授業もつくりたい。アウトプットする機会を提供して、このまちでアクションを起こす人を増やすことが、僕の次のフェーズだと思っています。

大野:これまでの縛りがなくなって、ヤマタク個人の「つくりたい」気持ちが実現できるようになった。具体的にはどんなプロジェクトを立ち上げる?

山田:今年チャレンジするのが、“まちのコミュニティマネージャー”を育成するプログラム「Co-Cultivate Community Class」(略:CCCC)。錦2丁目エリアプラットフォーム、N2/LAB(エヌツーラボ)の協力のもと、官民連携まちなか再生推進事業の一環として補助金を活用しながらスタートさせました。地域内外のコミュニティをつなげて、新しいローカルビジネスの可能性を広げることをめざせたら。地域でプロジェクトを立てるということは、解くべき課題を定義して、現状に対する“問い”を立てること。CCCCは、自ら“問い”を立て、それを社会に実装する訓練ができる場です。

山田:身近なまちで“問い”を実装していくためには、ナゴヤ圏に根ざした大ナゴヤ大学で授業を開催するのが適している。大ナゴヤ大学にもN2/LABにも相互の活動に価値を提供し合える、良い循環が生まれるのではという予感がしますね。一方で、「大ナゴヤの日」の授業もつくらないわけではなくて、ちょっとずつやれたらいいなと。

大野:学長制度をなくしたのは、現状をより良くするため。今後、プロジェクトがもっと増えたときに管理する人が必要になれば、制度を復活させる可能性もゼロではない。学長不在でこれからどんな変化が起きていくのか、まずは楽しみに。


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