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やまねの塒日誌|vol.39|初春、氷河の森から

里ではすっかり春がきてウカれているのだけれど、標高800mくらいの森のなかは、まだまだ初春。
谷間に融け残った雪が氷河のようにあり、うっかりすると深いところでひとり膝下まで嵌る。

こりゃ、このあたりのヤマネはまだ冬眠しているかもしれないなあ、とぼんやりと思う。(ちなみにニホンヤマネは、平均気温8.8℃くらいになると冬眠から目覚めるといわれている。)

この寒さの中でも生きものたちはたくましく、倒木の陰には掘りたてほやほやのノネズミの巣穴と、その上ではコケが胞子体をのばして胞子を飛ばしている。

夕方のおやすみ前のひととき、春の鳥たちは鳴きながら忙しく餌さがし。
遠くではキツツキの仲間であるアカゲラのドラミングの音が響く。
岩に腰を下ろしてじっと息を潜めていると、結構近くでシカの鳴き声がした。南に20mくらいかなあ。

ブナをはじめとした木々たちはまだまだ芽吹く気配もなく、白い木肌はうつくしく。

低木でほころびかけの冬芽は、たぶんアジサイ。
かと思えば、瑞々しくすっかり開いた葉っぱや、青々ピカピカのまま雪の下でじっと耐えた葉っぱもある。

芽吹き、成長し、花を咲かせ、結実するタイミングや方法はそれぞれ。
しかも、全ての種子が必ずしもそうなるとは限らない。
でも足元の土の中では、きっと無数の種子が眠っているし、だれかに食われてその一生を終えたものも、ちゃんとだれかの命を繋ぐ役割を果たしている。
偉いなあ。
それはヒトの生きざまにおいても(比喩的に)一緒のことだと、すこし安心して、森を出た。

最近なぜか朝から晩まで動きっぱなしで、帰ってごはんをつくってたべたら、もう瞼が閉店寸前。余力がない。
春だからか、歳のせいか。

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