純喫茶 椿木

午後、大通りの交差点。外は晴れ。思いドアを開ける。
白いワイシャツ、ストライプのエプロン。ケトル、細く注がれる熱湯、湯気。コーヒーの香り。
カウンターの横に座っていた、朝日新聞を広げる男性客がちらりとこちらを見る。
大きなアンプ、ジャズ、食器をすすぐ水の音。女性客の話し声が店内にふわり浮かぶ。新聞をめくる音はどうしてこんなに心地いいのだろう。
オリジナルブレンド。プリン、カラメル。ガラスの器。机の上の水の輪っか。

食器の当たる音。カチン。

ガラス越しの冬の西陽、商店街、路面電車。陽に照らされた店内に飾られたアジアの国のお土産に見えるオブジェが、こちらを見つめる。

「まだ3時半か、長いね、今日は」
女性店員の声。唇の端を噛んで遠くを見つめる。きっと癖なのだろう。
プリンのカラメルが人差し指に付いていた。爪が綺麗。
「よし、ケーキつくろうかな」

何もない、何でもない一日。

オリジナルブレンドだけを頼み、それをゆっくり飲みながら、うとうとしてしまった。
持ち込んだ文庫本は、数ページしか進まなかった。

温まった身体を目覚めさせるために、立ち上がり、僕はよく晴れた冬の空の下に繰り出した。

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