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「生産性」って言うの、やめませんか

〇転職市場でも目立つ「労働時間削減」の取り組み

今月、東京国際フォーラムで開催された『マイナビ転職』イベントへ行った。120社以上の企業ブースを眺めていると、残業時間や休暇取得についての説明がやたらと目に入ってきた。

「月残業30時間内」「年間休日120日以上」「5日以上連続休暇取得可」などの表記を見るたび、私が以前勤めていた職場とのギャップに驚く。
いくつかブース担当者の話を聞いてみても、新卒・既卒に関わらず求職者の「働く時間」へのこだわりは高まっているという。

長時間労働が是正され、休暇が取りやすい職場が増えるのはよいことだ。
しかし、働く現場で耳に痛いコトバが使われるケースも増えているのではないか。生産性というコトバだ。

「もっと生産性考えて仕事しろよ」の様な上司のお叱りは、言い回しは違えどどこの職場でも多いのではないだろうか。(私は死ぬほど聞いてきた)
働き方改革が社会課題となったことで、長時間労働やサービス残業の状態化を見直さなければならなくなった分、多くの働き手が短い労働時間でこれまでと同じ、もしくは上回る成果を求められる様になっている。

〇人間は生産マシーンではない

谷本真由美『日本人の働き方の9割がヤバい件について』では、労働生産性を下記の様に定義し、日本企業の生産性が主要先進国(G7)の中でも最も低いランクにあると述べている。

  「生産性が低いとは、企業が投入する資源(お金、時間、人)に
対して生み出されるお金が少ないという意味です。
労働生産性というのは、生産量(GDP)を、総労働者数もしくは
総労働時間で割ったものです」
(谷本真由美『日本人の働き方の9割がヤバい件について』PHP研究所)

この定義を見ると、生産性を意識する立場にあるのは国家や企業のはずだ。
働く個人が、限られた労働時間で効率的に売上を稼ぐ、収益を上げようと工夫することは大事だが、「生産性を高めよ」という号令だけで高まれば苦労はしない。

経営コンサルティング・リンクアンドモチベーション代表である小笹芳央氏は、著書『モチベーション・ドリブン 働き方改革で組織が壊れる前に』で「組織全体の生産性向上」が働き方改革の目的である、としている。組織内の関係性やシステムの組み方、マネジメント改革を巧妙に行えば、企業全体の生産性が高まり、従業員のモチベーションとエンゲージメント(相思相愛度)を向上させることができると書かれている。

指示通りに数値を出せるのは機械だけだ。現場で手足を動かして、頭で考えて働く生きた人間に「もっと効率的に稼げ」「時間をかけるな」と命令するだけでは、機能できない。組織として成果を挙げつつ、働く個人の欲求や生活を満たしてくれる環境や制度が整わなければ、結果的に長時間労働や非効率的な働き方はなくせない。

〇これからは「個人の生き様」が価値を生む

仮に組織やマネジメント方法が改められ、組織が効率的な業務を実現できたとして、働く個人が生み出すお金(=価値)を増やすにはどうすべきなのか。

先述の谷本氏、小笹氏らの書籍では「働き手が自分をひとつの会社(商店)としてとらえ、企業への売りとなるスキルやノウハウを磨く」ことがこれからの労働市場では必要だとされている。同じ組織で成果を挙げ続けるだけでなく、どこの企業でも活躍できる、応用可能なスキルを持っている人材が求められている。

さらに菅付雅信『はじめての編集』では、クリエイターは作品よりも「生き様・生き方」が情報として伝わり、評価される時代がやってきていると書かれている。もはや仕事に関するスキルだけでなく、働く一個人のキャリアや生き方、価値観までもが武器になる。

今いる会社のこと、目の前の仕事のことばかりを考えていては、結果的に高められる労働生産性には限界があるだろう。労働時間短縮や効率化が図れても、個人のスキルや魅力のレベルアップをしなければ、新しい価値も生まれないからだ。そのためには、仕事を含めた人生丸ごと、時間の使い方を見直さなければならない。

〇仕事ばかりじゃない「ライフホリック」になれるか

四六時中、仕事のコトを考えて生活をおろそかにしては「仕事だけ」のワーカホリック人生となってしまい、個人の価値は一定以上増やせない。100年続くと言われる長い人生を仕事も含めて楽しみ、自他ともに夢中にさせる「ライフホリック」な生き方を送れるかが、働き手ひとりひとりに求められていると言える。

近年のeスポーツ大会で活躍する梅原大吾選手、ときど選手などプロゲーマーの著作を読むと「ゲームばかりの生活にならない様に心がけている」様子がうかがえる。仕事としてゲームの練習をする時間を取りつつ、ジム通いや空手をする時間を生活に取り入れ、自分のパフォーマンスを整えている。
彼らはプロとして、人生をゲーム時間だけに費やさない方が勝ちにつながる、と判断して生活を組み立てているのだ。

プロとして大切なのは、1回だけ優勝することではない。
常に適度なパフォーマンスを維持し、能力に見合ったステージで
闘い続けられるようにしておくことだ。
(梅原大吾『1日ひとつだけ、強くなる。』中経出版)

確かに、生産性向上は日本全体の課題である。しかし、目先の効率化だけに囚われてしまっては、結果的に生産性が向上する未来はやってこないのではないか。働く意義や価値を考え直し、長い人生を楽しみながら稼いでいく。中長期的な視点を持って、仕事を含めた人生を価値ある方向へデザインしていく。そんな考え方を働くひとりひとりが持てる様に、ちょっと「生産性」というコトバは忘れてみませんか。

〇参考文献


10年ほど企画・マーケティング関連の会社にいました。 その時の激務で出会った仕事やすごい人々のお陰で今の自分がいるので、本noteでもよりよい仕事や働き方について模索していければと思います。