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Such a 悲惨なグルメ Never Again ! それは実にレアな経験でした

グルメ関連の記事は「美味しかった話」がほとんどです。グルメ / Gourmet とはフランス語で食通や美食家を意味しているのだから、それはそれで当然だと思います。しかし長い人生、時にはとんでもない料理と出会うこともあります。それは曲がり角から突然飛び出して来た自転車と衝突するような、予期できない事故みたいなものです。それを「悲惨なグルメ」と言い表すのは”グルメ”という言葉の正しい使い方ではないかもしれませんが、その辺りは大目に見てください。

2001年7月17日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。==================================

暑い夏が訪れる少し前の頃、社用で大阪から京都まで出向きました。

21時頃に用を終えて、同僚4人と四条河原町駅から阪急電車・京都線で大阪方面へ戻ることになりました。

途中、大阪駅に隣接する終点の阪急・梅田駅ではなく、手前の十三(じゅうそう)駅で降りて、とりあえず遠い京都まで出向いてお疲れ様ということで、久しぶりに昭和の香りが漂う懐かしの“トリスバー”で一杯飲むことになりました。酒飲みは何かと理由を付けて、自分の行為を正当化するものです。

なぜ手前の十三駅で下車することになったのかというと、トリスバーも原因の一つですが、メンバーの一人が阪急電車・神戸線で灘方面へ帰るためです。十三駅は阪急電車の全路線が乗り換え可能な便利な駅であると共に、周辺には大阪でもかなりディープな繁華街が広がる”酒飲み御用達駅”の一つだからです。また、かつては世界各地の地名を冠したラブホテルが乱立していた”世界一周”ができるエリアでした。

十三駅に着いたのは22時頃。流石に腹も減ったので、トリスバーで一杯飲む前に何か少し腹に収めておこうということになり、店を探し始めました。しかし時間が時間、街中華やうどん屋はもう閉店間際、飲んだ後のシメでラーメン屋も満員。なかなか手頃な店が見つかりません。

寂れた路地の奥に電気のついた提灯が見えたので、覗いてみるとお好み焼き屋が未だ営業しているようでした。もう他の店を探すのも面倒なので、お好み焼き屋で直ぐに料理出来て食べられる焼きそばでも注文して食べることにしました。

入ってみると、80歳ぐらいのお婆さんが一人で切り盛りしているような狭いお店でした。我々は4人でしたが、とりあえず焼きそばを2人前と瓶ビールを2本頼みました。その後、ちょっと落ち着いてから店の中をぐるっと見回しました。

お好み焼き屋の命とも言える鉄板ですが、油っ気無しで冷えきっていました。お婆さんが使う調理用のまな板を見たらカサカサに乾いていました。鉄板、まな板、どちらを見ても今夜お客さんが来ていた痕跡はありませんでした。

後ろの壁を眺めてみると、数枚貼られているメニュー短冊横にかなり旧型の壁掛け扇風機が取り付けられていました。それだけなら何の問題もないのですが、その扇風機に針金ハンガーを引っ掛けて、そこにブラジャーを2枚吊るして干していました。お婆さんのブラとは違うようでしたが、一体誰のだったのでしょうか? 娘さん? お孫さん?

お婆さんは焼きそばを炒めるために鉄板に火を入れてから、おもむろに扇風機のスイッチ入れたのですが、ブラジャーはそのまま、ほったらかし。そんなもの眼中に無い、みたいな感じでしたね。これは視力の良し・悪しの問題ではないと思うのですが。

さて焼きそばです。焼きそばはキャベツ等の野菜と豚肉と中華麺を炒めて、適当にソースと調味料をかけて、青海苔をパラリとふりかけたら誰にでも出来るものです。誰が作っても普通はそこそこの味になるものです。しかし残念ながら、そうはなりませんでした。

まずは火力不足ですね。機材の問題で火の出が悪いのか、弱火でジョワジョワと炒めるだけです。焼きそばは強火で一気に炒めなければいけません。おかげで野菜はフニャフニャ、肉はネチョネチョ。しかし決定的だったのは油です。残念ながら油は酸化していたようです。そして出来上がったのは、妙にこってりして、少し酸っぱい焼きそばでした。

「お婆ちゃん、この油、けっこうヤバイよ〜」と言ったのですが、帰って来たのは「はぁ、さよかぁ~」の一言。聞く耳持たず、です。これは聴力の良し・悪しの問題ではありませんね。

なんとか食べられる味にしようと、テーブルにあったソースを焼きそばにドバッとかけてみました。しかしそのソースも気が抜けていたようで、味はあまり良い方に変りませんでした。七味唐辛子も試しましたが、少しピリッとするだけで効果はありませんした。

昼から何も食べず、腹を空かした大人4人が焼きそば2人前を頼んだのですが、そのほとんどを残してしまいました。この事実だけで、これがどれ程悲惨なグルメ体験であったか、ご想像いただけると思います。

結局、このお店では大人4人で瓶ビールを2本飲んだだけみたいなものでした。ビールはちゃんと冷えていましたが、それは単に冷蔵庫で長い間冬眠していただけで、ひょっとすると賞味期限はとっくの昔に過ぎていたかもしれません。

その味、その店内の雰囲気でここまで驚かせてくれたお店は初めてです。これはある意味、実にレアな経験でした。事情を知ってる「常連さんお断り」、事情を知らない「一見さん大歓迎」みたいな感じのお店でしたね。

その後はトリスバーでハイボールを3杯飲んで、ちゃんと胃袋のアルコール洗浄に務めた次第です。

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この「悲惨なグルメ」体験からほぼ20年が経ちましたが、未だにあの焼きそば以上のものには出会っていません。もうあれ以上のものに出会いたくありませんが、”怖いもの見たさ”で出会ってみたい気持ちも少しばかりあります。しかし次回は胃袋のアルコール洗浄だけでは済まない様な気もします。そこがちょい問題ですね。

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