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Duke Ellington / Money Jungle

Money Jungle / 1963

2004年8月30日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。==================================

マックス・ローチとチャーリー・ミンガス。凄い二人を従えている。

マックス・ローチといえば、ビバップを代表する名ドラマーだ。そんなローチがジャケットの写真では、まるで勝手口から入ってきた御用聞きの小僧のように下手に出ながら、ご機嫌を伺うように楽譜を覗いている。

チャーリー・ミンガスは頭にきてバンドのメンバーに顔面パンチを食らわし、前歯をへし折ったこともあるらしい。そんなミンガスがジャケットの写真では、まるで子供のように恐れ慄き、呆然としながらベースを抱えている。

そんな二人の視線の先にいるのは、好々爺のようにピアノの前に大人しく座っている初老の男。

この男こそ御大デューク・エリントン。

ジャズ界のドンの前では、マックス・ローチやチャーリー・ミンガスですら雑魚なのだ。

しかし昔のジャズバンドのリーダーは凄いニックネームの持ち主ばかりだ。

キング・オリヴァー / "King" Oliver は”王様”オリヴァー。
カウント・ベイシー / "Count" Basie は”伯爵”ベイシー。
デューク・エリントン / "Duke" Ellington は"公爵"エリントン。

デューク・エリントンはビッグバンドのリーダーとしての活動がメインで、ピアノ・トリオのアルバムは少ない。ビッグバンドでは、エリントン作の名曲のタイトル《It Don't Mean a Thing ( If it Ain't Got That Swing ) / スイングしなけりゃ意味がない》を地で行くように、楽しいスイング・ジャズを演奏していたが、このピアノ・トリオのアルバムから聴こえてくるのは、それとは正反対のものだ。

このアルバムでデューク・エリントンがマックス・ローチとチャーリー・ミンガスの二人を従えて、たった三人で作り出す音楽は、とてつもなくヤバい。こんなに過激で、ドスの効いた殺気溢れる音楽はそうあるものではない。「どこが"公爵"やねん!まるで暗黒街の顔役やないか!」とツッコミたくなる程の迫力だ。

一曲目の《Money Jungle》ではエリントンのピアノは荒っぽく空間を切り裂く。それは垂直に振り下ろされる斧のように、ざらついた迫力に満ち溢れている。ミンガスはベー スの弦から音をむしり取るように掻き鳴らし、ローチもいつもの冷静さを忘れたように、ドラムから音を打ち出す作業に専念している。

その他にも《Switch Blade》や《REM Blues》など、贅肉を鋭いナイフで切り落とし、ジャズの骨格だけを剥き出したような、異様なまでに説得力のある音楽がたっぷり収録されている。それはまるでジャズの原風景のようだ。

ここで鳴り響く音楽は、圧倒的な存在感と共に、高い壁のようにそびえ立っている。

見上げて聴くべし。そしてビビるべし。

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