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スペインのガリシア地方で再確認したワインの正しい飲み方

これは1975年12月末、今から約45年以上前のお話です。

当時19歳の私はスペインのサラマンカという小都市でスペイン語を学んでいました。学校がクリスマス休暇の時期に入ったので、ちょいと小旅行にでも出かけるか... という事で、私はガリシア地方へ向かいました。

ガリシアはスペインの北西部、ポルトガルの北側辺りの緑豊かな地方です。

最終目的地は巡礼で有名な古都、サンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)でしたが、急ぐ旅でもないので、行き当たりばったり的にガリシア地方をぶらぶらヒッチハイクをしながら旅することにしました。まあ冬の寒い時期でしたから、1時間ぐらい親指を立てて待っても車が止まらない場合はバスを使うことにしていましたが。

さて、大晦日の2〜3日前の夕方、田舎の小道でヒッチハイクをしていると、軽トラック風の車が止まってくれました。運転していたのは、赤ら顔で歳の頃は50手前ぐらいの、がっしりとしたお百姓さん風のおばさんでした。

私はサンティアゴへ行きたい旨を伝えましたが、残念ながら、おばさんは小さな村の自宅へ帰る途中でした。しかしおばさんの住む村はさほどサンティアゴから離れている所ではないので、とりあえず乗せてもらうことにしました。

車中で特に急ぐ旅ではなく、今日中にサンティアゴに着く必要もないことを話していると、おばさんから今夜は自分の家で晩飯でも食って、泊まっていけと誘われました。

おばさんの名前はアンパロ。ご主人(名前は忘れてしまいました)と長女のテレサ、次男のラファエルと住んでいると話してくれました。ちなみに長男のハビエルはサンティアゴ大学の学生で、下宿先から大晦日に帰ってくるとの事でした。

そんな訳でアンパロおばさんの家に転がり込み、一宿一飯のお世話になったのですが、翌朝アンパロおばさんがそれ程急ぐ旅ではないのなら、長男のハビエルが帰ってくるまでここでゆっくりして、皆で一緒に大晦日を過ごそうと言いだしました。

そこは外国人が訪れることなどまず有り得ない片田舎の小さな村ですから、アンパロおばさん以下、迷い込んできた日本の若造が珍しく面白かったのか、家族全員に引き留められ、結局アンパロおばさんの家で大晦日を過ごすことになりました。

さて、そこは片田舎の小さな村ですから、遊ぶ所も無く、日中は暇を持て余します。何もする事が無いので、10歳ぐらいのラファエルと村の中を散歩したり、飼っている牛の世話をしたり、納屋の片付けを手伝ったりしていましたね。私と同い年のテレサはアンパロおばさんが畑に出ていることが多いので、家事全般を仕切っていました。

或る日の夕食時ですが、何時もは物静かなご主人が厳しい声でラファエルを叱りました。「お前は何と行儀の悪いことをしておるのか!そんな作法を教えた覚えはないし、誰かに習ったとしても絶対にそんな事はするな!」

「この方が美味しいから... 」目の前のグラスを握りしめながら、ちょっと膨れっ面でラファエルが言い返しました。

ラファエルが自分のグラスに注いでいたのは、赤ワインの炭酸水割りでした。

「ワインは炭酸水で割って飲むものではない!そのまま飲むものだ!そんな行儀の悪い飲み方はするな!ワインを飲みたければ、そのまま飲め!炭酸で割るぐらいなら水でも飲め!」ご主人の憤慨は止まりません。

今は変わっているかも知れませんが、当時のスペインでは喫煙・飲酒ともに年齢制限はありませんでした。だから私はラファエルがワインを飲んでいても、別に気にもしていませんでした。しかし炭酸水で割って怒られるのを見て、少しばかり驚きを感じました。

普通なら(?)ワイン初心者(?)である子どもには、普通の水か炭酸水で割って薄めて飲むのを勧めてしまいそうです。しかしやはりワインは薄めて飲むものではありません。ご主人の意見は正論です。その正論をガツンと息子に述べるご主人の姿勢、その言い方は多少荒っぽかったですが、良し!です。

保守的かもしれませんが、ワインには正しい飲み方ってものがあります。それを再確認させられた一夜でした。

しかしアンパロおばさん率いる(?)このご一家には本当にお世話になりました。感謝の言葉を今一度伝えられないのが残念です。

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偉そうな事を書きましたが、私も今や堕落したもので、愛すべき某有名的ファミリーレストランでは赤ワインを炭酸水で割って、ごくごく飲んでいます。ふと、ラファエルの事をを思い出しながら...

今や彼も50半ばぐらいのはずです。自分の息子にも正しいワインの飲み方を伝授したのでしょうか?

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