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妄想:冬の小旅行で出会う可能性のある小雪

小雪は松山ケンイチの妻となり、そして子を持つ母親となり、最近はあまりTVで姿を見ることがなくなりました。彼女が私の視線に入ってきたのは、世紀が変わる頃から。芸名と彼女が醸し出す雰囲気があまりにもぴったりだったのが印象的でした。しかし調べてみると小雪は神奈川県出身で雪深い北国とは無縁のようです。しかし芸名と透明感のあるひんやりとした雰囲気から、私の中で小雪は北国の寒いイメージと完全に結びついてしまいました。以下はそんな時に書きなぐった駄文です。

2003年2月13に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。==================================

冬の或る日、裏日本の福井県から石川県へぶらりと行った。

運転は苦手で面倒なので、車ではなく在来線を乗り継ぎながら行った。

のろのろ走る車内で暖かいカップ酒を飲んだり、みかんを食べたりしながら、暗くて、どんよりとした日本海側特有の鉛色をした冬空をぼけ~っと眺めながらの小旅行だった。

日が暮れ始めた夕方、雪が降り積もった片田舎の駅で下車した。特に目的のない一人旅、なんとなくこの辺りなら泊まるところもあるだろうと思ったからだ。それに雪が結構降り始めたので、そろそろこのあたりで泊まるところを探しておかないと難儀なことになりそうだと思ったからだ。

改札を出て、駅員から聞いた安い宿を探しながら雪の降る駅前通りをぶらぶら歩いていると、通りの向こう側にある小さな古い居酒屋が目に止まった。降っている雪が邪魔をして暖簾に書かれた屋号が読めない。キュッ、キュッ、キュッと雪を踏みしめながら、とりあえず通りを渡り、その居酒屋に行ってみることにした。とりあえず暖かいものが飲みたい。暖かいものが食べたい。

重い引戸をぐっと開けると、そこから古い裸電球の黄色い光と一緒に、しっとりとした暖かい空気がふわ~っと外へこぼれ出てきた。狭い店内に漂う煮物の美味しそうな匂いの向こう側には年配の女将がいる。そして地元の常連らしい年配の男が一人、カウンターに片肘をついて、所在無げにぼんやりとしながら飲んでいた。

とりあえず熱燗と湯豆腐を頼んだ。体を温めながら、ちびちび日本酒を飲んでいると女将と常連客の会話が耳に入る。

「ところで看板娘は何処へ行っとるんじゃ? 遊びに行っとるのか?」

「二階でちょっと片付け事をしとるから。もうすぐ手伝いに降りてくるわ」

「あの子の顔を拝まんと、帰りたいけど帰るに帰れんじゃろが」

「そんな言い訳せんでええよ、どうせもう一杯飲みたいだけじゃろが」

なるほど、この店には常連客が贔屓にしている看板娘がいるんだ。なかなかの美人なんだろうなぁ〜。そんなことを思いながらお猪口に酒を注いでいると、店の奥から、とっ、とっ、とっ、とリズム良く階段を駆け降りる足音が聞こえてきた。

ほっそりとした体に厚手のウールのセーターを着た、色白で頬がほんのり紅い娘さんが降りてきた。

長い髪を無造作にかきあげながら降りてきた。

裏日本の冷たい風に吹かれて、磨かれて

凛とした風情に陰りのある表情。

どことなく寂しげな上目づかい。

小雪にはひんやりとした裏日本の気候が良く似合う。

冬の寒さに磨かれた古い居酒屋で女将の手伝いをする娘の姿が良く似合う。

小雪にはモノクロが似合う。

小雪には昭和の匂いがする。

小雪は小学校の同級生だったのだろうか。

すっかり忘れていた女の子が突然目の前に現われたような、奇妙な親近感を小雪には覚える。

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