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豊かな社会

少し前の話になってしまうのだが、4月の中旬に会議に参加する為、スイスに行ってきた。元々の動機は不純で、学校から金銭面でサポートしてもらえて、これまでに行ったことのないスイスに行けるなんてナイスじゃないか程度のものだった。

会議の内容はさておき、一番驚いたのはスイスの平和さと物価の高さである。最初に訪問したスイスの都市はチューリッヒの近くにある街だったのだが、おそろしく静かだった。24時間パトカーとか救急車とか車のクラクションが奏でるシンフォニーから逃れられないニューヨークとは大きな違いである。街に世界遺産か何かに登録されている大きな教会があるのだが、その鐘の音が一番騒音レベルが高いと地元の人がジョークを言っていた。生活のスピードがゆっくりしていて、夜はすぐお店が閉まり、日曜日も殆どのレストランや店が閉まっていた(いつもお世話になっているサブウェイだけは開いていたが)。治安も良さそうで、平和な国家が行き着く先はこういうものなのかと思った。

物価はニューヨークも十分高いと思うのだが、一番の衝撃はケバブ屋で食べたケバブサンドが日本円に換算して1200円ぐらいもしたということだった。ニューヨークでも5ドル程度で食べられるので、まさか10ドル以上をケバブサンドに払う日が来るようになるとは驚きだった。会議の間は基本的に食事や飲み物は全て提供してもらえたのでちゃんと価格を見なかったのだが(ケバブサンドはどうしても食べたくなり、おやつということでポケットマネーで買った)、現地で会った日本人によると親子丼は20ドル以上するそうだ。これでどうやって生活しているのか不思議に思うのだが、これも地元の人によると最低賃金が1時間当たり20ドル近くあるらしく、ヨーロッパの他の国で普通に働くよりも、スイスでバイトをして最低賃金をもらった方が豊かになれるとジョークを飛ばしている人がいた。

以前にスイス人で国際機関で働いている人に会ったことがあるのだが、自分の国の政府で働こうと思わないのかと素朴な疑問をぶつけたところ、スイスは特に問題とか抱えてないから政府で働いてもあんまりやることがないんだよと言っていた。また、今回の会議で会ったスイス人の学生が将来は外交官になりたいと言っていたので、スイスの大きな外交問題は何なのかと聞いたところ、(スイスはEUに加盟していないのだが)、EUとどう付き合うかが一番大きな外交問題だと言っていて、北朝鮮のミサイルとか、シリアの内戦など色々な外交上の問題が世の中にある中で、なんて平和なんだと改めて思ってしまった。経済も状態は良いようで、失業率に至っては常に2−3%程度を推移しているようだ。所得格差の指数も北欧ほどではないが、先進国の中でも十分に低いようだった。

このような状況を目にして考えたのは、そのあまりの生活の落ち着きについてである。全くスイスの人にとっては余計なお世話なのかもしれないが、僕の目からみるとあまりに平和で街行く人も特に急いだり焦ったりしている様子がなく、ダイナミックさに欠けているような気がした。特に現在住んでいるニューヨークと比べると、その騒々しさ、格差、人々の急ぎ具合など真逆のような気がした。ヤンテの法則という北欧の社会を形容する際に用いられる法則があるのだが、これは穏当にみんなが横並びでいることへの執着心を表したもので、ものすごくざっくり言ってしまうと既にみんながほぼ平等に豊かなこともあって、枠にはまらないスーパースターのような人材が生まれにくい社会のようだ。以前に何かの授業でその是非について議論をしたことがあったのだが、確かに(アメリカの例で頻繁に出てくる)スティーブジョブズなどの極端に尖った別次元の人というのは、これだけ既に豊かであれば出て来にくいのかもしれない(他の人以上に頑張るインセンティブが働きにくいのかもしれない)。

というような話を他の会議の参加者と議論していたところ、ボツワナ人の参加者が確かにそれはあるかもしれないけど、スーパースターが出ないのが悩みっていうのはある意味贅沢な悩みよねと言っていて、なるほどその通りだと思った。その参加者はこれまでの人生でマクドナルドに行ったことがないらしく(だからスイスでマクドナルド人生初体験をしようと試みたのだが)、これだけ豊かにモノやサービスに囲まれて生活ができて、それで十分じゃないかという論点だった。これは以前ブログでも触れたアメリカンドリームと格差についての話と同じで、どちらサイドにもそれなりのポイントがあるのだろう。個人的には自分自身は少なくとも若いうちはニューヨークのような社会で過ごし、でも国全体としてはスーパースターが生まれないことを心配しないといけないぐらいみんなが豊かな社会の方が良いのではと思ったのだが、それは結局最終的には国民の選択にゆだねられるべきなのだろう。

(写真が会議をした場所の近くの風景)


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