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モビリティ

今週もお気に入りのGlobal Inequalityの授業を受けてきた。学期の最初の授業でされた質問が、「どこの国にも生まれることが出来るが、その国の中の誰になるか分からない場合、どこの国に生まれたいか?」というものだった。学生に聞いていくと、スウェーデンなど北欧の国を挙げる人が多かった。なぜかと教授が聞くと、一人当たりの所得が高いからという回答があった。では、なぜ一人当たりの所得が同じぐらい高いカタールを選ばなかったのかと聞いたところ、それは格差がスウェーデンよりあるので、カタールの中の貧しい人として生まれてしまう可能性があるためだという回答だった。これはもっともな回答で、確かにスウェーデンに生まれる方がはるかに貧しく生まれる可能性は低いだろう。(ちなみに一人の学生は自分はユダヤ人だからカタールには生まれたくないというブラックジョークを飛ばしていた)

この議論の続きを友人としていたのだが、彼は自分ならスウェーデンじゃなく、アメリカを選ぶと言っていた。理由は、アメリカであれば貧しく生まれても頑張ればアメリカンドリームの精神で成功できるからという理由だった。この、親世代の所得に関わらず、子ども世代はもっと所得が高くなる可能性のことをintergenerational mobilityと呼ぶ。平たく言うと、子ども世代が親世代よりも高所得の階段を上っていくmobilityのことを指しているのだが、アメリカではアメリカンドリームに代表されるように頑張って成功すれば所得が上がるという意味で、intergenerational mobilityは高いと考えられている。

教授によると同じ人種(白人や黒人、ヒスパニック等)の中で見た場合にはアメリカには確かにintergenerational mobilityがあるのだが、実は人種を一緒くたにして見た場合にはintergenerational mobilityは低いそうだ。以下のグラフがその内容なのだが、ここでは数値が低いほどintergenerational mobilityが高くなっている。これで見るとOECDに入っている先進国の中ではイギリスが最もmobilityが低く、その次に低いのがアメリカになっている。逆にデンマークなどの北欧の国はmobilityが高い、つまり親の所得に子の所得が影響されにくくなっていると言える。言い換えるとアメリカンドリームよりもダニッシュドリームの方が可能性が高いことになる。

また、こちらのリンクからはアメリカのどのエリアがmobilityが低いかがわかる。色が赤に近いほどmobilityが低いエリアになっているようだ。

http://www.nytimes.com/2013/07/22/business/in-climbing-income-ladder-location-matters.html?pagewanted=all&mtrref=www.google.com&gwh=EDFCE541B7C7A76FF0703AD52D5562EF&gwt=pay

他に教授が見せてくれたものに、The Great Gatsby Curveというグラフがあるのだが、これはintergenerational mobilityと所得格差の関係を表している。このグラフによるとintergenerational mobilityが低い国ほど、所得の格差が大きい。アメリカはこのグラフでは一番右上にある為、mobilityが低く、かつ所得格差も大きくなっている。日本も真ん中よりやや右上にあるので、あまり好ましい状況とは言えないだろう。The Great Gatsby CurveはF. Scott Fitzgeraldの同名の小説から取られた名前なのだが、主人公が貧しいところから大金持ちになった(mobilityがあった)のをもじっており、この名前を付けた人はそのネーミングセンスからワインを一本プレゼントされたそうだ。

以前のブログでも触れたようにアメリカンドリームの精神は今でも健在で、僕のアメリカ人の知り合いにもそれを信じて頑張っている人が多い。ただ、今回の授業では、皮肉にもアメリカンドリームがいかに難しいかということが明らかになってしまった。さらにアメリカでは格差が大きくてもmobilityがあって頑張れば成功できるのだから、格差がある程度容認されるような議論があるのだが、これもmobilityが小さいことがわかった以上、難しい議論なのだろう。今日の授業ではここでディスカッションが終わってしまったのだが、感覚で議論をするのではなく、丁寧に調べてみると違う景色が見えることの好例と言える内容だった。

(写真は快晴のキャンパス)

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