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灯台下暗し

以前にある社会人の方にお会いしてお話を聞く機会があった。その方は僕からみれば極めて競争の激しく、また報酬も高いポジションに就いて活躍されており、また年齢を聞いてみるとなんと32歳だった。これは同業他社で同じポジションについている人が軒並み50歳以上だという事実を鑑みるとすごいことである。その時は僕が色々と質問をする形でお話を伺おうと考えていたのだが、途中から相手の方の独壇場になってしまった。

その方によると今のポジションに就くまでは色々とラッキーなことが重なったそうだ。期待に応えようとして、常に背伸びをした状態で長時間労働も厭わずに働き、それなりに認められたものの、もう昇進も出来ないぐらい上り詰めてしまったし、果たして自分はこのままどこに行こうとしているのか自分でもわからないとおっしゃっていた。そして、大学院を卒業したら一応新卒として色々な職業に就けるチャンスがあるのだから、よく考えてそのチャンスを十分に活かすと良いと言われ、とにかく"How Will You Measure Your Life"(邦題:イノベーション・オブ・ライフ)という本を読んでみなさいと言われたのだが、この冬休みにようやく読むことができた。

この本は有名な本らしく(恥ずかしながら全然知らなかった)、内容としてはハーバード大学のビジネススクールで教えている経営学の大家と言われている教授が、人生についてのアドバイスを贈るという内容だった。色々なケースが文中に出てくるのだが、例えば一つの例としては、その教授の同級生の相当数が、キャリアの序盤は昇進を重ね、結婚をして家庭も持ったものの、家庭を顧みずに仕事をしたこともあり、中盤以降に離婚や結婚生活がうまく行かなくなり、失ったものの大事さにようやく気付いてから大変後悔したというエピソードがあった。(離婚や結婚生活は一例で他には職業選択や人間関係などのケースも例として挙げられていた)

これらの例を引き合いに出して、著者は若いうちに人生の目的について考えることの大切さを説いていた。彼によると「(学生に語って)じっくり時間をかけて人生の目的について考えれば、あとで振り返った時、それが人生で発見した一番大切なことだったと必ず思うはずだ。そして学校にいるいまこそ、この問いをじっくり考える最良の時なのだ。社会に出れば、ペースの速いキャリアや家族に対する責任、成功の目に見える報酬などに時間をとられ、周りが見えなくなることが多い。学校を終えて、舵ももたずに世の中に漕ぎ出せば、人生の荒波にのまれるだけだ。自分の目的をはっきり意識することは、長い目で見れば、活動基準原価計算やバランススコアカード、コアコンピタンス、破壊的イノベーション、マーケティングの4P、ファイブフォース分析といった、ハーバードで教える重要な経営理論の知識に勝るのだ。」だそうだ。

僕なりの解釈としては人生において何を大事にするのかを今一度しっかりと考えておくことで、他のことに気を取られてその大事なものを見落とさないようにしなさいというメッセージなのではと思った。そしてこの本ではその見落としがちなものとして家庭や人間関係、職業選択(の時の基準)などが例として挙げられているのだろう。(先程のケースでもあくまで(おそらく多くの人にとって)大事なものであるが見落とがちな例として結婚生活を挙げているのであり、離婚がいけないと言っているわけではないと思う(そしてそれぞれの人が何を大事にするかによるのだろう)。これを読んで自らも何を大事にするのか立ち止まって考えるとともに、本を紹介してくれた方はこれを読んで何を思ったのだろうかと考えてしまった。

また、長期の目標やゴールについても考えた。最近は長期の目標は何ですかとか最終的にはどこを目指していますかという質問が多いような気がするが(そして自分の場合は特にそういうものがなく答えに窮してしまうのだが)、これも考え方によってはトリッキーなのかもしれない。人によって違うのだろうが、個人的には長期の大きなゴールに重点を置きすぎると、現在起きていること、目の前の幸せに目が行きにくくなるような気がする。自分自身を振り返ってみても長期のゴールを掲げてやっていた時は色々と周りにも迷惑をかけていたし、自分も楽しめていなかったかもしれないと反省するに至った。長期のゴールを前にしては現在や近い将来はあくまで「プロセス」になってしまうのだが、本当はそのプロセスにも幸せや充実感、達成感などがあるのかもしれない。

毎度ステマのようになってしまい恐縮なのだが、Joi Itoが「僕はゴールは作らない。常に毎年楽しくなっていっているし、僕の夢はこのまま毎年楽しくなっていく事だ。」「一言でいえば今に集中するべきです。だから私はフューチャリストという言葉は嫌いです。私たちはナウイストになるべきなんです。」と言っていたが、確かに今を楽しめていればきっと大事なことを見落とすケースは減るのだろう。大学院での最終学期に突入し、さてこれから何をしようかと考えていた時にこの本をきっかけに色々と考えることができて、最高のタイミングであった。飛び込み営業のような形でお会いしたにも関わらず親切に本の紹介までして頂いたその方には感謝の気持ちでいっぱいである。

(写真は全然関係ないがニューヨークで好きな72ndストリート周辺)




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