'DX'の「変革」部分を定義から説明してみる。

はじめに

職場でもDXに関ることが増えてきて、調べたり講演を聞くにつれ、何が変革なのかきちんと説明されていないと思うようになりました。他の記事にも書いていますが、人間の基本的な認知システムであるシステム1/システム2で考えると、「変革の本質は不連続性で、これはシステム1による帰納的な認識に由来している」と説明できます。

変革とは

DXのD (digital)は「ITを使って」という手段であり、X (transformation、変革)の方が目的です。変革の本質に迫りたいわけですが、まず、変革に似ているけど本質的に違うと思われる「改善」や「改良」と対比して考えてみると、「不連続性」という性質を持っていないといけないのではと仮説が立てられます。改善などは、徐々に(連続的に)変化させるのに対し、変革は不連続な変化であり、改善とは本質的に違うという性質をよく表しています。

次に、変革が「何を」変えるのかを考えてみます。もちろん、様々なものを変革することが考えられます。DXは「ITを使って」と手段しか規定していないので、何を変えるかは自由です。そこで「変革とは、それまでの常識や当たり前と思われていることを変えるもの」と仮に定義してみましょう。様々な分野の常識や当たり前があり得るので、対象は何でもよいわけで、しかも、これまでの常識が変わるくらいの変化であれば変革と言ってよいでしょう。

しかし、「慣習」や「文化」という似た概念もありそうですし、「常識」や「当たり前」を厳密に定義することは難しそうです。そこで、認知の面から考えて「認知が自動的に自動的に起きるもの」を常識、当たり前、慣習、文化などとしましょう。認知が自動的に起きるかどうかは観察、実験などすれば分かるという立場です。色を認識するのような、生物として自動的にできるものもあれば、玄関に入るときに靴を脱ぐというように後天的に見つにつけたものもあり得ます。

システム1/システム2

この自動的に起きる認識が、心理学の分野では「システム1による認識」であり、注意力が必要で自動的ではない認識がシステム2によるものです。これらの言葉を使えば、変革は「システム1による認知を変化させる」ことになります。自動的な認知や認識が変わるので、行動変容などと呼ばれることもあるでしょう。

この考えでいくと、変革とは新たな常識や当たり前を作ることと言えますが、その状態になると以前の当たり前とは非常に異なったもののように感じられ「不連続」な感じがします。卑近な例でいうと、自転車に乗るとか逆上がりができるのが似た感じです。出来るようになると、出来なかった頃に戻ることはできません。これで「変革は不連続な性質を持つ」ことが自然に示されました

変革の起点

さて、最後に「変革」を推進するには、最初に起点となる考えが必要です。この考えが連続的に導けるものであれば、連続的な変化にしかならず、変革にはなりません。そのため、不連続なアイデア、考えが必要ですが、これがシステム1による自動的な認知です。例えば、リンゴが落ちるのを見て閃いたという類いのものです。

システム1による認知は、論理的かどうかは関係なく、ある種の類似性で自分の中の異なる認知や認識を繋いでいると考えられます。そのため、夢のなかでどんどん場面が変わっていくのでしょう。システム1による認知は誰にでもあり、その意味で誰にでも閃くことはできますが、「リンゴが落ちた」を「重力」や「引力」とつなげるためには、それまでに物体や星の動きを十分に考えていることが必要で、その意味ではニュートンには「つながる材料があった」から彼こそが閃いたと言えます。

これまでの経験からある種の仮説を閃く認知プロセスは「帰納的」と呼ばれますが、これはある種の飛躍であり、不連続性はここから来ています。閃いたことは、単に閃いたことであり、正しいかどうか、あるいは、人に受け入れられるかどうかとは別問題です。そのため、つながる素材がまだない人たちは、聞いただけでは納得できず、変革の初期の段階では反対にまわることが多いわけです。つまり、変革に反対することは人間の自然な反応であるということも分かります。

さいごに

さいごに、このようにきちんと変革を定義すれば、「変革」と謳っているけど、実はそうではないものの判断が容易にできるようになります。「上司に言われてDXを始めた」としても、途中で飛躍したアイデアがでるかもしれませんが、単に論理的に正しいことだけであれば、それは改善の範疇であることに注意しましょう!

一般に、誰かに命じて何かをさせるというのは、命令が文書や言葉による伝達ですので、基本的にシステム2による認知です。そのため、行動変容につながることはありません。逆に言えば、言っただけ(システム2)で部下や学生や患者の行動(システム1)が変わるわけではないのです。

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