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童女

 あれば春先だったか、 それとも冬の頃だったのだろうか。私には、今でも忘れられないひとりの女の子がいる。

 その子は、澄子ちゃんといって、私の小学校三年生の時の同級生だった。澄子ちゃんは少しふっくらしていて、ふわっとした丸みのある女の子だった。

 いつも、休み時間は机に座ってじっとしている、大人しい女の子だった。

 私はどうして澄子ちゃんが、いつも休み時間に他の女子と遊んだり、お喋りをしないのか、もしかしたら、私がただ単に、その光景を目にしたことがなかっただけだったのかもしれないが、とにかく不思議で仕方がなかった。

 そんなある日、何を思ったのか私はじっと座っている澄子ちゃんの右腕を、人差し指で一度だけ軽く突っついたことがあった。澄子ちゃんが誰かと話している姿を見たことがなく、それどころか、動き回っているところも見たことがなかったものだから、私は澄子ちゃんの反応を見たかったのだと思う。

 本当に何の悪気もなく、軽く突っついただけだったのだが、澄子ちゃんは蚊の鳴くような小さな声で 「痛い」と言った切り、俯いてしまった。

 私はその時、こんなに軽く突っついただけなのに痛いんだと思っただけで、澄子ちゃんに、「ごめんね」 の一言が言えなかったような気がする。

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