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前略・市川実日子様

僕があなたの存在を知ったのは、2003年に日本テレビで放送された連続ドラマ『すいか』を観た時が初めてでした。

あなたは、スリランカに行ってしまったいい加減な父親に押し付けられて、行き掛かり上仕方なくオンボロ下宿「ハピネス三茶」を一人で切り盛りする大学生の娘「ゆか」を演じていました。

毎日、朝昼晩と下宿人の為に献立を考え、食材の買い出しに出掛け、食事を作り、そうかと思えば掃除をしたり、洗濯をしたりやることがたくさんの毎日でも、自然体で楽しく生きるそんな女の子を演じていました。

あの時のゆかちゃんが、僕の頭の中ではそのまま残っていて、その後、あなたが役者としてどんな作品に出たのか、僕はあまりにも知らなすぎたのですが

この間、たまたまBS東急松竹の連続ドラマ『A Table!~歴史のレシピを作ってたべる~』に主演しているあなたの姿を目にし、あの時のゆかちゃんではなくなりすっかり大人になったなぁと、なんとなく嬉しかったのを覚えています。

それから間もなくNHKのテレビドラマ『探偵ロマンス』で、あなたが男装の麗人として出演するということを知り、そのクラシカルな衣装を身に纏った姿を拝見しました。

もうすっかり大人の女性なのに、どことなく少女というよりは少年のような可愛らしい雰囲気をそのまま残していることに、私はとても嬉しく思ったことを正直にここで白状しなければなりません。

幸運にも、僕はあなたと直接会う機会を得ました。とは言っても、僕の夢の中なんですけどね。 

その時僕は、あなたに次のように言いました。

「2003年の『すいか』で初めてあなたを見ました。この20年間、こうして女優を続けて来てくれたこと、本当に感謝しています。ありがとう」

すると、あなたは鼻にクシャッとしわを寄せ、なんとも困ったような照れているような、そんな顔を僕にして見せてくれましたね。

僕はそれだけ言うと、あなたが座っているカウンターを後にし二、三歩歩みを進め、あなたの姿が見えなくなったところで私はこっそり立ち止まりました。

そこから私は卑しくも、あなたの座っているカウンターの方へ視線を移しました。

すると、あなたは泣いていました 。

「あんなこと言う人がいるなんてね」

そう言って、ポロポロと涙を流していました。 

私は見てはいけないものを見てしまったような気がして、急いでその店を後にしたのでした。

早いもので、私があなたを初めて目にした時から二十年の歳月が流れました。

そしてあなたはその間、ずっと女優を続けていました。それを私はハピネス三茶の下宿屋の娘・ゆかちゃんのまま、あなたの活躍を長いこと目にすることなく、この20年を過ごしてしまいました。

こんなんじゃファンとは言えませんが、それでもやはり僕はあなたのその独特な雰囲気が、どうやら好きなようです。 

これはあくまで夢だったけれど、あなたに直接会うことが出来たとしたら、僕はきっと夢の中であなたに言ったことと同じことをあなたに伝えることでしょう。

これからあなたがどんな役を演じ、どんな女優になっていくのか僕には分かりませんが、それでもあなたはやっぱり僕の心の中ではずっとハピネス三茶の下宿屋の娘・ゆかちゃんであり続けることでしょう。

それでも、あなたが女優として示したキャラクターが、一つでも僕の心の中に強烈に残っているということは、あなたのその存在感が確かなものであるということの表れである証です。

これからもハピネス三茶の下宿屋の娘・ゆかちゃんを心の中に、緩やかにあなたの活躍を見守っていきたいと思っています。

気がついたら、季節は冬から春に移っていた。

そんな、何気ない季節の移ろいのようにあなたがこれからも女優として、僕の心の中にフッと風が吹いたように入り込んで来てくれる、そんな自然な存在であることを願ってやみません。

市川実日子様。

『すいか』から20年間、女優を続けて来てくれてありがとう。改めて、ありがとうをあなたに伝えます。

2023年2月21日・書き下ろし。







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