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『ピアニストという蛮族がいる』に見る我が家の元・ピアニストと言う人種

私の父はクラシック好きである。

日曜の朝はNHKラジオ「音楽の泉」で始まる。子供の頃は日曜日と言えばクラシックで定着していた。ゆえにシューベルト「楽興の時」の初めの部分を聴くと、日曜の朝の光景が鮮明に蘇る。

そんなクラシックで育った私ですが、音楽とは無縁の道を歩み、理工系街道真っしぐら。父のクラシック愛は息子には…と言いたいのですが、結婚したら妻は音大ピアノ科出身…。意外と音楽は身近にいるのです。

さて、そんなクラシックをちょっとだけ聴く私も知っている今は亡きピアニスト中村紘子さんの著書「ピアニストという蛮族がいる」をご紹介したいと思います。ピアニストのイメージがかなり変わりますよ。


ピアニストという蛮族がいる

ピアニストというと繊細な音楽を奏でる存在。88個の鍵盤、3つのペダルを自在に操り音楽を奏でる魔法のような技は、それはもう鮮やかと、簡単に真似できるようなものではない。

その繊細さが、鍛え上げられた筋肉により生み出されていると知ると、それはもう驚きである。中村さんは本書でハンガリーのピアニスト「アンドール・フォルデス」について、以下の記述している。

そして或るリサイタルでのこと、ステージに現われてピアノの前に座った彼は、何気ない様子で、両手でピアノをつかむとグイと手元に引寄せてしまった。一瞬会場を覆った吐息とも嘆声ともつかぬ聴衆のざわめきをご想像いただけようか。

ピアニストは練習1日休むと取り戻すのに3日かかる」と妻が言っていたが、そりゃ、筋トレを1日サボったら取り戻すのには3日かかる理論だわ。そういうことなのか!

ちなみにYouTubeで「ピアニスト 筋トレ」と検索すると、まぁ…出てくる出てくる…。業界では当たり前なのね。


ショパン手型、

ショパンを知らない人は居ないと思う。そのくらいショパンは有名だが、その手型を欲しいか?と聞かれて…欲しいか?

中村さんは本書でショパン、リスト受け継がれた浪漫派のピアノ技法がラフマニノフのピアノ協奏曲 第3番 ニ短調によって絶頂と終焉を迎えると語っている。その直後、話変わって突然「ところで」とショパンの手型へ。

ところで私は、ショパンの左手を手首の上まで石膏で型どったものを持っている。昔、ワルシャワのショパン協会で記念に貰ったものなのだが、それを見ると彼の手が女性のものと見紛うばかりに細く小さく華奢であるのに驚かされる。

手の大きさと表現力の話を持ってくるところなんだろうが「有名人の手型を持っている」しかも「手首の上まで」がメチャクチャインパクト強い!つまりは手を握手できるくらいマルっと型取りしたものだと思う。

これ、欲しいか?

流石に初版の譜面とかなら理解できるのだが、貰った時の反応に困るアイテムだろう。うわぁ~前から欲しかったんですよ!

そんなこと思いながら妻にショパンの手型について聞いたら欲しいらしい。しかも、手型があるのは知っていた。有名な話みたい。

「ショパンは華奢(きゃしゃ)なのよね。逆なのはリストとかラフマニノフかな」本書を読んでいない妻も流れは本の流れは分かるみたい。対比される手の大きさと音楽表現。ピアニストにはならなかったが、ピアノを学んできた人々の考えることは似ているもんだ。

ちなみに前フリのラフマニノフピアノ協奏曲第3番ニ短調、Youtubeでも色々な人の演奏が聴ける、観られるので聴き比べてみるのも面白い。作業用BGMとしては壮大だな…。



ピアニストとは結婚するな!?

妻はコミュニケーションが苦手だと毎日聞かされる。聞いているこちらは言うほどか?と思うが、人付き合いに日々悩まされているようだ。

あ、中村さんも本書にそんなことを書いていた。

その楽器の特質の影響をピアニスト自身も受けて、一般にピアニストというのはあまり人づき合いがよい方ではない。幼い頃から一日に六、七時間も一人で部屋に閉じこもって練習に励んでいれば、人との協調性など身につけないまま成人してしまっても仕方ないことなのかもしれない。

なるほど、確かに家具のようなピアノを気軽に外に持ち出して「ねぇねぇ、ちょっとコンチェルトしよ?」なんてバンドの練習みたいには行かないよね。そりゃ孤独にレッスン室でメトロノームと譜面の格闘…あぁ。

確かに妻の悩みが分かる気がする。

以前、オーケストラの楽器別にみる奏者の性格について「オーケストラ楽器別人間学」を読んだ事がある。サファリパークのごとく、様々な人間が華麗なる舞台では集まっていて、ひとつの音楽を織りなしているという面白さを知ったものだ。

ピアニストはこれともちょっと違う。コンクールで戦い、頂点を目指し挫折と苦悩の日々、そしてレッスン漬け。そうなれば…

女性ピアニストというのは、どうしても性格的には勝ち気で負けん気で強情でしぶとくて、神経質で極めて自己中心的で気位が高く恐ろしく攻撃的かつディフェンシヴで、そして肉体的には肩幅のしっかりとした筋肉質でたくましい、というタイプになってしまう。

なるほど。密室のアスリートたち。

ゆめゆめピアニストなんぞを女房にするものではない。


おわりに

いや、ピアニストとはそれ以外の世界からは全く知らない世界があり、内側から描く本書は実に面白い。周りにピアニストがいれば本書の内容を聞いてみると「あるあるだよね」で帰ってくるかもしれいない。

我が家にも『元・ピアニストという妻がいる』。

それでは、またね!


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