色々な黒ギャル13「子供と触れ合う黒ギャル」

 ガキは嫌いだ。ギャーギャーうるせーし、聞き分けはねーし、頭悪いし。親になったヤツらはみんな、「でも、子供って可愛いよ」って言うけど、そうは思えねぇ。今だってそうだ。ガキはギャーギャー泣く。泣くなって怒ると、もっと声を大きくして泣く。これだからガキは嫌いなんだよ。
仕事でガキを預かることになったとき、最悪なことが起きそうな予感がした。うちとガキの相性は最低だ。うちはガキが大嫌いだし、ガキもうちみたいな人間のことが嫌いだ。通りすがりのガキでも、うちの香水とか化粧品の匂いを嗅ぐと、露骨に顔をしかる。あいつもそうだった。うちの事務所に連れてこられたとき、何も言わなかったけど「なんでこんなヤツと一緒にいないといけないんだ」っていう顔をした。嘘を付ける年齢じゃなかった。あのガキは確か6歳だった。ま、ガキに年齢なんて関係ない。ガキはガキだから。
 うちの仕事は一週間、そのガキを預かることだった。ガキは無口で、手間がかからなかった。その点に関しちゃ、最初は助かると思ったもんだ。だけど、そんな思い込みは、ガキが小便をもらすまでの間だった。うちはキレた。「なんで黙ってんの!」ガキは笑って謝った。思わず殴りそうになったよ。だって、こっちは怒ってんのに、笑われたら、普通にバカにされてると思うじゃん?でも、うちは殴らなかった。ガキを殴るのは気分が悪いし、殴って泣かれても面倒だから。うちはもう一度同じことを聞いた。「なんで黙ってんの?」そうすると、ガキは答えた。
「怒られるから」
「どういうこと?」
「僕が、おしっことすると、怒られるから?」
「誰にだよ?」
「お父さんに」
「ちょっと……意味分かんねぇな」
「叩かれるんだ。『うるさい』って」
「てめぇの親父はバカかよ」
「お、お父さんにそんなこと言っちゃダメだよ!」
「なんで?」
「だって、怒られるし……」
「ここに親父はいねーよ。バカをバカだと言って何が悪いんだよ?ああ?」
そのとき、そういうことか、って思った。こいつは親父に殴られて育ったタイプなんだ。この街じゃよくある話さ。鬱憤をぶつける先が、自分の女房や子供にしかない、クソ野郎なんていっぱいいる。こいつは「小便に行きたい」って言うのも怖がってたんだ。それこそ小便を漏らすほど。怖くて言い出せなくて、それで漏らした。そして怒られて笑うのは、こいつが分かってるからだ。怒られて泣いたら、もっと酷い目に遭わされるってことを。
気の毒なガキだなとは思ったよ。でも、それはよくあることだし、うちになって事情がある。うちにできることは、一週間、このガキを家から出さず、その間に、クソ親父よりはマシな生活をさせてあげることだけだった。マシな生活って言っても、ガキを殴らず、好きなときに好きなことをして良いって言ってやるくらいだったけどね。
だから、あの時、なんであんなことをしたのか、自分でもよく分からないんだ。一週間経って、うちはガキを引き取りに来た連中を家に招き入れた。連中は「すまねぇ、手間賃だ」って言って、5万渡した。そんで、うちに言ったんだ。「こいつ売った金で、また飯でも奢るよ」うちは返したね。「やっぱり売るんだね」「ああ。こういうガキが大好きな金持ちはいっぱいいるのさ」分かってたことだよ。でもね、何か不思議な気分になったんだ。心の奥底の、今まで考えたこともないような箇所から、何かが噴き出してきそうになったんだ。何もかも無茶苦茶にしてやろうっていう、そういう気分さ。
うちがガキを預かるのは、これが初めてだったせいもある。こっちは本職じゃないからね。うちが女っていうだけで、連中はこれを押し付けて来たんだ。うちは冷静になろうとした。
「ありがとう。とっても楽しかったよ、お姉ちゃん」
ガキがうちにそう言った。そのときだ、うちは動いていた。こっちが本職だからね。一度手を出せば、あとは早いもんさ。気が付くと、うちは連中を殺していた。ガキの頃、命は平等だって習ったけど、うちはそう思っていない。だって、うちは1人を助けるために、5人を殺したんだから。
 うちはガキを連れて逃げた。どこに?目的地なんてないよ。ただただ逃げたんだ。きっと、何処かに逃げ切れる場所があるって思ったから。でも、現実は甘くないね。うちはすぐに追っ手に追いつかれた。組織は裏切りを嫌う。特に殺し屋に裏切られるなんて、最低さ。面子にかけて、連中はうちを追ってきた。腕には自信があるけど、数には勝てないよ。うちは思ったね。「警察にいこう」ガキがそう言ったけど、無理だって分かってた。だって、警察の中には連中から金を貰ってる奴がわんさかいるんだ。
 うちは考えた。やるしかねぇって。生き残る可能性があるのは、一つだけだ。組織の頭を潰すこと。そうすれば、組織は崩れっちまう。殺し屋とガキになんて構ってられなくなる。うちは賭けたんだ。そして勝ったんだよ。うちはレストランに現われたボスを撃った。あいつの頭が吹き飛んだ。今までやったことを考えれば、似合いの死に方だろう。
 そして家に帰ってきた。するとガキが抱き着いてきたんだ。そして、ああ、やっぱりガキだな。ギャーギャー泣きやがるんだ。
 足から感覚がなくなってゆく。 
 体温がドンドン下がってゆくのが分かる。
 寒いよ。腹に食らった銃弾の冷たさまで分かる。
 でも、ガキ、おまえは助かったんだ。
 だから泣くなよ。助かったんだべ?なんで泣くんだよ。泣くなって言ってるだろ。
 ったく、これだから、子供は嫌いなんだよ。

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