リアル麻雀の競技化: 成績管理の現実的課題と解決策 (があったりなかったり)

このあたりの話を考えていきたい。主には国標を想定するが日式とも共通するところが多いはずだ。

イントロダクション: 実力評価のためのレーティング

対人競技にプレイヤーの実力なるものがあるとして、それをプレイ結果から評価するためには他の要素を取り除いていく必要がある。麻雀において、プレイヤーの実力以外に結果に影響を及ぼす要素として最も重要なのは偶然と他のプレイヤーの実力である。ある程度これらを取り除くことのできる評価システムがレーティングであり、麻雀では東風荘・天鳳などのオンラインプラットフォームで利用されてきた。

レーティングは各プレイヤーに与えられ1試合ごとに更新される評価値で「対戦相手の平均レーティングに試合結果の定数倍を足したもの」(パフォーマンス) に一定の重みをつけて現在のレーティングと加重平均をとることで計算し続けられる。対戦相手の平均レーティングがパフォーマンスに組み込まれていることで対戦相手の実力を、何百何万試合とこなすなかで計算し続けることによって偶然をコントロールしている。なお、偶然のコントロール度合いは重みの設計に依存し、プレイヤーの実力変化を評価することとのトレードオフが生じる。

レーティング評価システムの構成要素

オンラインプラットフォームは設計時に組み込むことでレーティング評価システムを実装している。そうではないリアル麻雀に適用するための構成要素について検討する。

計算主体: レーティング評価を主体的に行うための予算や労働力を確保する必要がある。

対象対局: レーティングが実力評価として機能するには、各プレイヤーについてできるだけ数多くの、異なるコミュニティでのものも含めた対局を評価対象とする必要がある。

対局データ管理: 対局者IDの同一性・対局結果の正しさの保証などを行う必要がある。現在、これは小さい単位の開催主体 (例: JIOM千葉支部月例会) 内で行われている。異なる開催主体によるものも含めた通算評価を行うには、開催主体と計算主体との間で適切な形のデータ共有が必要になる。

現実的課題

計算主体の負担: 計算・公開そのものは (たとえ初期開発投資や保守は私がボランティアでやるとしても) システム化によって解決できるが、開催主体との調整やデータ共有には人的負担が大きい。たとえば「新しい開催主体を創設したので、その対局をレーティング評価の対象に含めてほしい、なお開催から100試合プレイされており4割は私がトップだ」のような問い合わせに対応する必要生じる。計算主体としては「一定の要件をみたしていれば一様に対象とする」ような対応が考えられるが、要件を緩めすぎると信頼されず、要件を厳しくしすぎると当初の目的が達成されない。

対象対局の選定: レーティングによる評価が機能するためには、各試合とその評価が定義されていることが前提となる。そのような対象対局をゼロベースで作ることはたやすい。一方、既存の競技会において「1日の大会やシーズンで、優勝や入賞を目指す」ことと「そのなかの各試合で、レーティングに反映される評価の最大化を目指す」こととは必ずしも一致しない。これは開催主体や対局参加者をレーティング評価システムへの参加に消極的にする要素になりうる。「ただでさえ各試合の評価が曖昧だから大会形式をとっている」側面があるので、競技の本質にとっては大きな問題ではないと思われるが、開催主体の協力を得ることを難しくする要素である。計算主体としては「成績が公開されていれば一方的に対象とする」ような対応も考えられるが、公開方式の差異や変更への対応に限界がある。

開催主体の負担: 計算主体へのデータ提供や質の保証のため、開催主体の業務量が増加する。他人名義で大会に参加しているという話は聞いたことない (あればレーティングに限らず通算評価にとって深刻な問題だ) が、氏名の表記ゆれ (かなVS漢字, 誤字, スペース) などから同一人物が意図せず別IDを使用することを避ける方法が必要である。本人所有の別IDを使うことは、オンラインプラットフォームなどと同様に許容されてよいだろうが「悪い結果が出るたびに名前を変える」ようなことを許容するとやはり信頼性にかかわる。

対局者の同意: 成績を管理し公表する行為について、その際のIDは実名であることが少なくない。実名でなくても対局に参加している特定の個人を識別する情報は個人情報である。このような個人情報の扱いについて、対局参加者は対局開催主体に対しては同意しているとみなしてよいであろう。この情報を第三者である計算主体に提供し、そこで処理・公開されることについては新たに同意を得ることが必要である。しかし計算主体がすべての対象対局に出ていって同意を得ることは難しいため、開催主体に同意取得を移譲する必要がある。すでに開催主体から公開された情報を計算主体が勝手に利用するぶんにはこの必要がない (はず; 詳しい方、教えてください)。しかし、一方的なデータ利用には広報 (各参加者に利用されること) や協力の点で課題が残る。

結論

レーティング評価システムを機能させるための first step としては「そこそこ評価されている対局を適切な条件にもとづいて一様かつ勝手に対象として運用を開始する」ことが望ましい。開催主体や参加者のなかにはレーティング評価システムを必要としない、または邪魔と思うものもあると思われるが、ある程度の信頼性を先に確保することでこれらの問題が解決に近づくことを期待する。一方、そのためのリソースについては (「勝手に運用を開始する」という性質上) ボランティア以外の解決策が見いだせなかった。

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