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劇団四季 ジーザス・クライスト=スーパースター ジャポネスク・バージョン: 日本オリジナル演出 十年ぶりの公演

劇団四季ジーザス・クライスト=スーパースタージャポネスク・バージョンを観に行ってきた。
チケット会員発売初日に売り切れてしまうという今まで劇団四季の舞台をずっと見ていて初めての状況に遭遇。
その後、ウィキッドも発売初日に全席完売してしまっていたので、どちらも待ち望まれていた作品というのがわかる。


●ジーザス・クライスト・スーパースターとは

●イエス・キリストの最後の7日間の物語

キャッツやオペラ座の怪人を作ったアンドリュー・ロイド・ウェバーの初期作品。
1970年にレコード音源化をして営業をかけ、1971年にブロードウェイ上演された。ジャンル的にはロックオペラと呼ばれる。

台詞はなく歌のみで構成され、ダンスもなく集団行動のような動きがメイン。
ブロードウェイ初演の際にはキリスト教徒による反対運動が行われた。(日本公演でもあったらしい)

●日本版(劇団四季)の2つのバージョン

ジーザス・クライスト=スーパースターは「エルサレムバージョン」「ジャポネスクバージョン」がある。

エルサレムバージョンはまさにエルサレムの荒野をイメージした砂を感じる傾斜舞台。とにかく絵面が茶色い。

一方ジャポネスクバージョンは真っ白な舞台に白い大八車。
メイクも白塗りに歌舞伎の隈取のようなメイクで現代美術のような舞台。
とにかく絵面が白い。

そして楽曲にも尺八や三味線、小鼓など和楽器が使われている。
ただし、シリアスなシーンの歌の背後にポン♪ポポポン♪と聞こえる小鼓はふと我に返ると微笑ましくなってしまうので要注意。

エルサレムバージョンは多くの人がキリストの物語として想像するイメージに近いが、浅利慶太氏の演出された日本オリジナルのジャポネスクバージョンはまさに「ニホン!ファンタスティック!」という印象を受ける。

以前はエルサレム、ジャポネスク両方とも連続公演をすることが多かったが近年はエルサレムバージョンの公演が続き、最後にジャポネスクバージョンが上演されたのは2013年12月
かなり間が空いたため前人気も高かったように思えた。

シャイロックを被害者と捉えた四季版「ヴェニスの商人」もそうだがこういう斬新な演出はもっと再演をしてほしいと思う。

●2023年の公演はジャポネスクバージョン

●構成

キリスト教や初見の人には構成は分かりづらいかもしれない。
まず楽曲ありきで後に舞台が作られたせいもあるのか、1曲1曲が独立している上に台詞がないので説明がされない。
群衆の心の動きも一転するため戸惑う。
私もキリスト教はあまり知らないのでざっくりで申し訳ないがこの作品の中ではこんな流れである。ただ、個人の解釈なので違っているかも知れない。

<前半> 民衆に崇拝されているジーザス。このままではいけないと言うユダ

<中盤>ユダジーザスをよく思わないカヤパに密告。ジーザスも余裕がなくなり民衆を冷たくあしらう。

<後半> 民衆が手のひらを返しジーザスを処刑しろという。ジーザスたらい回しの上、鞭打ちからのはりつけ。

この作品のジーザスは「苦悩する一人の男」。
英雄でもなければ聖人でもない。
能力を持ってしまったために弟子への態度に悩み、頼ってくる民衆の数につい本音を言ってしまい、皆の理想に応えようとするあまり壊れてしまう繊細な男に見える。
運命と受け入れつつも、民衆に服を剥かれ自分が磔される十字架を背負ってゴルゴダの丘を歩く姿は惨めな空気を纏っている。
ピラトに「しおたれた男」と言われてしまうくらい。

ユダが前半「反抗期か?」と思うくらいジーザスに対して物申すのも、好きだからゆえの助言をしてしまうというファン心理からの愛情なのだなあと思う。
口調は荒めなため初っ端にしては喧嘩腰で心配になるが、だんだん自分の思いを歌にのせ、不器用なだけで本当に想っていることがわかる。
この流れが本当に好きだ。

一方冒頭助けを求め崇拝していた民衆
トップオタのシモンの煽りもあってニッコニコで手を振ったりするが、ジーザスは塩対応。

自分は高い香油を使ってるのに民の貧しさには何もできないから身を任せろと言いだし、市場で楽しく売り買いしていたら「ここは祈りの場だ!」と荒らしまくり出ていけ!と言われ、病気を治せると聞いて頼みに来たのに「自分でなおせ!」とはねつけられる始末。

カヤパがやってきてジーザスを逮捕する事になったときにあっさりとジーザスに見切りをつけ「殺せ」を連発。
子供の頃から聞いているが、ここの掌返しは本当に人間の気持ちが一瞬で変わるのは怖いと思った。

この作品はとにかく男主体で進み、名のあるキャストで女性はマグダラのマリアのみ。(マリアはマリアでも聖母マリアではない)

そのマリアも特に二人の間に甘々モードがあるわけでもなく、ひたすら助けてもらった感謝から甲斐甲斐しく尽くし、娼婦の身だったものの初めて「一人の男」としてジーザスを観ているのみである。
ほのかに見せるジーザスの「(尽くしてくれて)ありがとう。私の心を知るものはお前だ」の台詞にカチンときてしまうユダに嫉妬されそうな立場の可哀想なヒロイン?である。

エルサレム版にはあった、ラストの十字架に磔されているジーザスを訪れるという演出がなかった。

●音楽

楽曲自体は長年愛されてきたメロディアスと変拍子がマッチした楽曲ばかりでもちろん申し分ない。
ただ、音源面で気になっていた点が。

ジーザスは録音音源である。
四季がオーケストラをやめて録音音源になる前からジーザスは録音音源を使用していた。
ギターやドラムやシンセは他作品では出番がなく四季の音楽部で賄えなかったからだろうか?

以前からなのだが音質が気になる。
途中で音量が変わったり、役者が正しい音程で歌っているのにオケが違和感ある時もあった。
1970年代ならテープ音源だったろう。
新録音はしないのだろうか?

デジタルが出回ってデータに落としたにしても、劣化した音源のままなのでは…?とやや懸念が残った。
もしかしたら近年CD化されないのもこれが原因なのでは?と疑ってしまっている。
オーケストラ生音源とまでは言わないが、もう少し立体的な音で聞きたい作品である。

●舞台面

今回は自由劇場。無事S席最前列が取れた!
普段は前の席にはこだわらずお安い席で全体を楽しむのだが、大好きな作品というのとほぼ値段が変わらないということで狙ってみた。

通常画角
広角レンズ

傾斜舞台は変わらず、後方に大八車がありこれを角度をつけることによってお立ち台になったりより急な坂を演出したりする。
主要人物の登場シーンの多くは斜めにした大八車から登場する。
高い位置からの登場なのでとてもインパクトと威圧感があった。

今回はあえて上手側(ステージ向かって右側)を選んだが、そこが一番お気に入りのユダという役をよく観ることができるからだ。
演出が変わっていたらどうしようとおもったが、思惑通りいい角度で観ることができた。

その他、ジーザスを野次ろうと集まる民衆の柵となる棒も、エルサレム版では鉄の棒なのだがジャポネスク版では竹の棒になっている。

●衣装・メイク

近くで観たことにより、白塗りの隈取風メイクでもかなり表情がよくわかった。
むしろ白塗りで目元が強調されているから余計際立つのかもしれない。
一見無表情に見えるがかなり繊細な表情が見て取れた。
一方、民衆の動から静の動きなどはスッと表情がなくなるため恐ろしさが倍増していた。

衣装は白いジーンズ生地っぽいボトムスにベージュの紐や縄や麻布のような服が基本。男性は上半身がほぼ見えていて女性はおヘソが見えている。
主要人物の足裏には滑り止めがついたサポーターがあったがアンサンブルのみなさんは裸足だった。

主要キャラクターの衣装も興味深い。
ジーザスがベーシックなものに対し、ユダジーザスと同じデザインの黒いトップス。群衆の中でシモンは赤い肩掛けやバンダナを巻いていた。

ユダジーザスを神だからという立場ではなく一個人の人間として愛し、皆から崇拝され自らを追い詰めていく様を観ていられなくて自分の手で終わらせようとする。
それ故にデザインが同じで表裏一体の黒という衣装なのだろうと思う。

また、シモンは群衆の中でのリーダーという立場もあるが、純粋にジーザスを崇拝している。シモンがメインで歌う楽曲「狂信者シモン」でもわかるがジーザスに期待し群衆を焚き付ける。
そんな無垢な部分と熱狂的な赤なのだなと思う。

ジーザスユダが並ぶと白黒、シモンジーザスに向かい合うと紅白。
この対比が面白いと思っている。

また、衣装といったら度肝を抜いてくれるヘロデ王
エルサレムバージョンでは「エジプトかな?」という贅沢な衣装に対し、ジャポネスクでは青いパーマのウィッグに入れ墨、仁王襷、六尺褌、金をあしらった特性大八車、扇子といういでだち。
下半身が派手めとはいえ褌なので、履き忘れたのかな?と心配になる。

●以前の演出(記憶が頼り)

かなり昔の公演は平たい舞台上に大八車を目まぐるしく動かしていた演出だった。
ユダが一歩一歩歩いてカヤパのところへ行く際は大八車が通路となって舞台ツラから奥へ進んでいった。(ユダの背中を追う感じ)

ヘロデ王、かなり昔の公演では下村尊則さん(現、下村青さん)の花魁風や助六風の衣装のバージョンもあったはず。

昔のCDではエルサレムバージョンの鞭打ちのカウントは英語だったらしい。
「トウェンティシックス!」とかあの速さで言うのは大変そう。
「さんじゅうなな!」も大変だけど。

●キャスト

四季劇場春や秋はキャストボードも液晶ディスプレイになってしまったが、自由劇場は昔のままの重厚なキャストボード。
自由劇場はその造りや空間も含めてアンティークに楽しむ場所なのでこのままでいてほしいと願う。

神永東吾さんのジーザスは何度も観ている。
繊細でやや意固地な感じをストレートに受ける孤高のジーザス
ハイトーン、ロングトーンはさすがだ。特に市場の雑踏の中から聞こえるハイトーンは時が止まるようだった。

佐久間仁さんのユダ
長年、芝清道さんのユダを観ていたので初めて見るキャストに不安もあったが、丁寧に歌う部分と荒々しい部分と情深い部分、とてもよかった。

当初のキャストからカヤパペテロが変更されており、パンフレットにも追加の用紙が挟まれていた。
飯田洋輔さんのカヤパは初めて見たが、デュティユル(壁抜け男)ビースト(美女と野獣)でよく観ていたので低音にびっくり。
思えばグロールタイガー(キャッツ)とかもあったか。とてもいい低音だった。

●公式PV

●(番外編)映像で観れる世界のジーザス・クライスト・スーパースター

日本のジャポネスクバージョンのみならず、海外で演出される際も独自の世界観によっての演出がなされる。
有料だったり配信されていないものもあるがぜひ予告版だけでも観て雰囲気の違いを楽しんでもらいたい。

1973年(映画)「ジーザス・クライスト・スーパースター」
若者が砂漠で「ジーザス」の物語を演じるという設定。
衣装や道具類は現代のものを使っているがロケ地は本来の現地に近い。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00JEZB8JO/ref=atv_dp_share_cu_r

2000年(スタジオ収録)「ジーザス・クライスト=スーパースター (2000)」
パインウッド・スタジオで舞台劇風に演出・撮影し、公開。
鉄骨むき出しのビルの上に革ジャンの男がいたりパンクのビョウがついてたり、ドレッドヘアがいたりする。
個人的にシモンのジーザス好き好きオーラが楽しい。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00HMD8QR2/ref=atv_dp_share_cu_r

2012年 「ジーザス・クライスト=スーパースター アリーナ・ツアー」
バーミンガム・ナショナル・インドア・アリーナでの公演舞台収録版。
RENTっぽい感じの若者達。 ジーザスがイメージされるロン毛ではない。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00K2NDSEU/ref=atv_dp_share_cu_r

2018年 「ジーザス・クライスト・スーパースター・ライブ・イン・コンサート」
特別番組として生中継された。
ジーザス役にジョン・レジェンド、ヘロデ王にアリス・クーパー。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07HP94JPY/ref=atv_dp_share_cu_r


※劇団四季作品は子供の頃から観ているが、1公演中に1〜2回観に行くくらいなので複数回観てチェックしたりは出来ていない。
また、役者個人個人に対してもあまり知識はないのでご了承願います。

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