人外との恋(短編)

「俺はお前が好きだ!!!」
と無機物の重機に顔を擦り付ける。
周りから見ると変人扱いされるのだが、気にしない。
ガレージに駐めてある重機(ベアトリーチェと名付けた)に
「行ってきます!」と声をかけ俺は仕事に向かう

俺の真横を通った小さい子どもが俺を指差しているのを隣にいる母親が止めている。
「ねーままー」
「こら、やめなさい」とそさくさと立ち去る。

子供の頃から重機が好きで好きでどうしてもショベルカーやダンプカー、ホイールローダーに乗ってみたかったその想いを叶えるべく、
車の免許を取得し、建設機械施工士の資格も勉強してショベルローダー等運転技能講習修了者の資格も取得した。

正直重機を使った仕事がしたいというわけではないのだが、3ヶ月の実務経験も行った。
俺はこのショベルカー(油圧ショベル)で公道を走りたいが為だけにナンバー取得もして、
通行許可の申請も行った。

こいつに乗って公道を走るのはとても気持ちがいい。正直いろいろと手続きがめんどうな気持ちもあったが、こいつの為に頑張った。
俺…頑張った。自分を褒め称えたい。

車庫もこいつの為に大きいやつを知り合いに頼み設計してもらった。
6台メーカーのうちどれも好きだし迷いに迷ったが、コマツにした。
知り合いは
「子供の頃の夢が叶ったな!!」と朗らかに笑ってくれる。

最初は正直馬鹿にされるかと思っていた。
あまり話したくはなかったが、免許を取った時に連絡を取り話したところ、
二つ返事で了承してくれた。

19歳で車の免許を取りそこから頑張った。
いろいろと心が折れそうな時もあったが頑張った。

何故、重機の免許を取ったのに建設関係の仕事をしないのかと不思議がられるが俺は建設の仕事がしたくて免許を取ったわけではないのだからだ。俺は理由を聞かれるたびに
前述のとおり答えた。

コマツと同じ名前の小松と岩橋だけは、笑わず
「お前らしいな」と言ってくれた。
この二人は同じ高校の同級生だ。

小松は天然パーマの小柄な男性。
岩橋は俺より背が高く肩ががっちりしている。髪の毛はスポーツマン風の髪型をしている。
俺はその中間の身長だ。
俺の髪型はコンパクトナチュラルマッシュというみたいだ。
短く言うと「マッシュ」だ。

よく間に小松を挟んで、
「囚われた宇宙人〜」と三人で遊ぶ。
因みに小松が建設の仕事をしており、デザインも設計も全部おまかせにした。
小松は美術系の仕事が本当はしたかったらしい。
岩橋はIT系の仕事をしていると言っていた。

久々に友人達と会って呑みに行った。

3人とも第一声が
「とりあえず、生で」だ。
そこまで飲める方ではないが頼むのはまず
生ビール。

「お前ら恋人いないのか?」と岩橋が二人に聞くと小松は
「僕は仕事が忙しいからそれどころじゃないんだよな」と髪の毛をかく
小松はなんだか忙しいらしい
「俺は恋人欲しいけど出来ねえんだよ…」変人だからと自分で言いたくないので、心の中に留めておいた。
小松は
「そういう岩橋こそどうなんだよ」と聞く。
岩橋は
「マッチングアプリで探してるんだけどさ〜ぜーんぜん…」とスマホを振りつつ答える。
三人して同時にため息をつく。

「同じ職場とかどうなのよ?」と俺が聞くと
小松は
「みんなおばちゃんなんだよな…」と机に突っ伏す。
岩橋は
「社内恋愛とか俺はパス!めんどくせぇ」
岩橋がおつまみの塩キャベツをつまみながら言う。
山田は?と聞かれて
「うーん、歳も歳だしなあ…今俺はベアトリーチェが(重機)いるから」とスマホの待受け
『ベアトリーチェ(重機)』を二人に見せつける

「お前疲れてるんじゃないのか?大丈夫か?」と二人がお互いの顔を見合わせ心配してくる。

俺はビールを流し込みながら、
「疲れてないし、大丈夫だって…」
たこわさをもぐもぐしている。

小松が何か察したのか、
「お前ってこっちなのか?」とそういう仕草をされて吹き出す。

「全然!!!違うってwww」と俺はかぶりを振る。
俺はまたビールを流し込み
「俺特にいないんだよな…タイプっていうか」
男同士でもこういう会話するんだなってらしくないというか…

「俺は清純系な子がいい…」ぽそりと小松がほろ酔いなのかビールを煽りながら言う

「小松なんか嫌なことでもあったのか?」と岩橋が聞くと
「いや、特になーんも!出会いがないってだけで」と小松

みんなそれぞれ悩みを抱えつつ前を向いて歩いてるんだと俺は思う。
俺は相変わらずベアトリーチェが好きだ。
いつかは俺にもきっと……

二人はお互いの顔を見合わせ俺を見て笑う。
3人で笑いつつまたビールを頼んだのだった。




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