死神5人の録音データ


静かに、静かに。
足音を立てるな。静かに。
終わりを邪魔せぬよう。静かに。
多くの流派はあれど、私は静かに。
静かに、羽衣を肩にかけてやる。
この先は少しばかり歩く。どうか温かく、穏やかに。

[死神1]


はい。はい。はいちょっとね、お借りしますよ。
えぇ。えぇ。そうなんですよ。終わりの方をね、担当させてもらってて。
あぁ、ここ、ここは腕を大きく上げた方がね、評判が良いんですよ。
まぁまぁまぁ、安心してください。後から思い返して良いものにしますから。
貴方の指揮棒、ははは、温かいですね。
一生懸命握ってきたんですねぇ。
よし、じゃあ締めちゃいますね! いくぞ! ほっ!
——おぉ、良いフィナーレでしたねぇ。
あれだ、「すたんでぃんぐ・おべーしょん」だ。

[死神2]


次。

[死神3]


HAPPY! HAPPY! LUCKY! LUCKY!
こんなことは滅多にない!
君が主役だ! 主人公! サイコー!
あ! 生クリームも鼻につけちゃって! ケーキは火を消した後だよう!
さあさ! ローソクを立てて! 
HAPPY BIRTHDAY to YOU!☆
おめでと~~~~~~う!!!

次も始まりと終わりが同じ日だといいね。

[死神4]


はらりはらり。
私が涙するのはご法度ではありますが。
黒い衣を身に纏い大きな鎌を担ぎながら、前日からいつも涙が止まらぬのです。
ある少女が私の涙を見て「花びらみたい」と言いました。
柔い手をした、彼女こそ花のような子でした。
あの綿毛のような肌の首に鎌を添えることの、なんと酷なこと。
痛みはございません。嗚呼、誤解なきよう。

貴方が人に思い出された分だけ、貴方に花びらが降り注ぎます。
ほんの一片ほど、私も添えてよろしいでしょうか。
せめてでも、貴方との出会いに感謝を込めてよろしいでしょうか。

[死神5]




 観測された5つのデータ。
 敢えて「声色」と呼ぶべきそれは、人間の声ではないながらそれぞれ別個体から発されていることは確認できた。

 何もない空(くう)を見つめ、彼らの輪郭を探す。
 春一番、前髪がめくれる。桜の花びらが舞い上がる。
 1枚、小さな白い花びらが2メートルほどの高さで落ち着いた。

 今、私の祖父母に花びらは降り注いだだろうか。


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