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⑩モモナといねむりヒーロー

うたた寝達人のネムさんは、どうしてうたた寝旅をするようになったのか、話してくれました。
「物心つく頃には家中を布団持って歩いて、寝ていただよ」
「どうして普通の所で寝なかったの?」
モモナは尋ねました。
「普通っていうと、畳の上とか?」
「うん、そうだね」
「畳っちゅうのはさ、上に居る人が心地よく過ごせるよういつも規律正しく頑張って、とても誇り高いだよ。だから畳の上で眠るときは、ぼくも一所懸命寝るだ」
「へ~そうなの」
「ほんだから、ちょっと楽しく寝たいな~って時は廊下で寝ただよ」
「ろうか?」


「そうさ、家の廊下は遊び好きでね、夢の中で迷路を作ってくるだよ、グルグル歩き回って、ぼくが電気を点けたらあがりっ、てね」
「面白そう!」
「そうずら、寝る場所を変えるたび違う世界に行くだよ」
「え~すごいね、ほかには?」
「そうだな~縁側がいいね、晴れた冬の夜なんかは、宇宙に溶けて星になった心持ちだったね」

「風邪ひかなかった?」
「ぜんぜん、それどころか、なんかにあたって腹を壊したとき、ふっと庭で横になって寝てみたらすっかり治ってて、おまけに目の前においしそうなアメが落ちてただよ」
「なめたの?」
「甘かったよ」
ネムさんは愉快そうに大きく笑いながら続けます。
「目が覚めるといつも良いことが待ってるで、目を覚ますのが楽しみだよ」
「いいな~」
「それに、良いことは周りにも起こるだよ」
「ええ?どういうこと」
「ほうだね、公園で目を覚ましたら、ベンチに座って赤ちゃんを抱っこしたお母さんからお礼を言われたなあ……、ずう~っとぐずっていた子が、ぼくの近くに来たら急にご機嫌になったって」
「なんとなくわかる」
「それから、ビルの屋上にでも行ってみるかって思いついて、ゴロンとして目が覚めたら、隣にサラリーマンのような人が寝ていてね」


「久しぶりに熟睡できた、ありがとう、でも昼休みがもう終るから、良かったら食べて下さいって弁当をもらったなあ」
「食べた?」
「旨かったよ」

それまでじっと話を聞いていたまるるが言いました。
「ネムさんはいねむりヒーローだ!」
「ぼくが?」ネムさんは少しびっくりしたように答えてから、
「そう言われりゃ、ぼくが眠ると豊作になるから寄ってくりょ~って呼ばれて、田んぼの土手とか、ぶどう棚の下やら、時期が来ると寝に行くで、いねむり助っ人ってことになるかなあ」とうなずきました。
「ふふふ」
「ははは」
「へへへ」


笑ってお腹のすいた三人はおやつを食べる事にしました。
「ウサギのついたお餅だよ」
「ほう、こりゃありがたい、うんうん、うまいなあ」
「ネムさん、これからどこへ行くの」
「そうだな~川を下って海まで出るか……二人はどこへ行くんだい?」
「私たちは仙人岩に会いに行くの」
「仙人岩?そう言えばそこで寝たときに何か言われたような……」
「行ったことあるの?」
「うん。そうだ、きっと君たちの事だ、なんだったか……や、そうそう、『歌を探して、宝がなんとか、かんとか、まってるから』とかそんな感じのことを言ってたなあ」
「うた?」
「そう、だけんど、ぼくにも何の事かはよくわからんよ」
「ううん、大丈夫、ありがとう。ネムさんに会えたから、前よりももっと先へ行くのが楽しみになったよ」
「そうかい、良かったよ」
「やっぱりネムさんはヒーローだね」
まるるが呟きました。

川下と川上、手を振って分かれ、それぞれの旅が続きます。



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