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のぼせた信号

 炎天下、先ほどから我が家の木陰にはポニー便の荷車が置かれています。
小包達は木漏れ日を浴びながら、配達されるのを静かに待ち、配達員のポニーのニポと鳥のリトは土間のヒンヤリした空気にホッと一息ついているようです。
 リトが自分の翼で顔をあおぎながら言います。
「ほんとにね、長い坂を下ってくるうち段々と暑くなってきて、荷物を届け終わる前に、ニポが倒れてしまうんじゃ無いかと気がきじゃなくて、もちろん私がニポの顔をあおいであげていたんだけど、え?目の前がチラチラして邪魔だった?」
 腹を立てて、たてがみを引っ張るリトをなだめるべく私はとっておきの提案をしました。
「もぎたてのトウモロコシがあるんだけど、いかがですか?」
ブヒヒンとニポ。
「生が良いそうです、私も生で頂きます」
 一本をニポに、その一粒をリトにお出ししました。
2匹がモロコシにとりかかっている間、私は夕べの不思議な話をすることにしました。
「昨日の夜、お風呂に入っていた時の事なんですけど……」
ニポは忙しく口をモギュモギュしながらも、こちらを見て話の続きを待っていてくれます。
「湯船につかってボーッとしていたら、目の前に二つの円が信号みたいに交互に着いたり消えたりし始めたんです。せんべいくらいの大きさで、稲の苗のような緑と、桃の花の色。とってもキレイだなって、しばらく眺めていたんだけど、まばたきをしたらす~っと消えてしまったんです…………」
二匹は考えるように口を動かしています。
「何だったんでしょう」
「おそらく……」リトが羽づくろいします。
「稲の苗と桃、つまり春です。春が来たということでしょう」
「……今は夏です」
ヒン、ヒヒン、ヒヒヒヒン。
「ん?ああなるほど!ニポ。そう、その通りだ、つまり、頭に春が来たんですよ」

 私が麦わら帽子の頭に開けた穴からニポは耳を出し、リトは励ますように飛び回り、ポニー便は道を下って行きます。



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