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【本の感想】『夜空にひらく』

今回、紹介する本はいとうみくさんが書いた『夜空にひらく』です。

あらすじ

アルバイト先で暴力事件を起こし、家庭裁判所に送致されたのち試験観察処分となった、鳴海円人。
補導委託先に選ばれたのは、煙火店(花火の製造所)を営む、深見静一の家だった。
深見と深見の母まち子、住み込みで働く双子の花火師、健と康と同じ屋根の下で暮らすうちに、円人は自分の居場所を見つけていく。

本の感想

はじめのうち、円人の感情が読めなくて怖い人なのかなと思いながら読んだ。
自分がやったわけではない罪を疑われたあげく、バイトを辞めさせられ、その上、それは大学生がついた嘘だと分かりイラッとしたのは分かる。
きっと説明したところで信じてもらえないという気持ちだったのだろう。
家庭環境がお世辞にもいいとは言えない場所で育ったから、自分の気持ちを伝えて理解してもらうという考えにもしかしたら至らなかったのかもしれない。

そんな円人だが、深見さんの職場で生活していくうちに人間らしさを手に入れる。
双子の日置兄弟にまち子さんと深見さん。
彼らと一緒に過ごし、コミュニケーションをとることで円人の様子が変わってきたことが分かった。

きっと誰にも迷惑をかけない生き方をしよう。
一人でだって生きていける力が欲しいと心の底から望んでいた円人だけど、人といる温かさを知る。
彼がすさんだ心から解放し、再生していく姿を見てこれからの成長が楽しみになった。

りっぱな花火職人になったときには、祖母を招待して花火を見せるに違いない。

印象に残った言葉

そう。どんな仕事でも、なんとなくじゃなくて、考えて動くの。どういう流れにしたら、無駄なく効率的に進めることができるか、どんなものを使えば効果的なのか、考えて行動してみて

59p

花火ってのはその小さな星が空で同時に弾けて一つの形に開くわけだけど、光の一つひとつは一瞬本物みたいな星になる

92p

同じ花火を見ても、感じ方は百人いれば百通りある。あっていい。花火は人の目を楽しませるものだ。単に楽しいでもいい。十分だ。でもおれはさ、観ている人の中で一人でも二人でもいい。誰かの感情を揺さぶるような花火を作りたい。で、そういう感受性をもっている人間が、どんな花火を作るのか見てみたい。単純にな

152p

だけど、自分じゃどうしようもないことだったり、不安になると、つい”神様”って思うんだよ。神様の存在なんて信じていない、そう言いながら。ぼくは手を合わせる。こういうのを『困ったときの神頼み』っていうんだろうけど。・・・・・・お守りって、祈りだと思うんだ

185p

大丈夫。おまえは、鳴海円人は大丈夫。おれが保証する

222p

花火ってのは、思い出箱みたいなもんなんだとおれは思う。いい思い出は人を支えてくれる。だから安全じゃなきゃいけない。それがおれの考える花火師としての一番いい花火だ

226p

恐ろしさも、喜びも、楽しさも、そして後悔も、あたりまえに抱えていける職人になりたい。
変わることを恐れずにいられる人間になりたい。

250p

最後に

人は誰しも間違える。
この物語では円人が主人公として動いていくけれど、深見さんの今後も気になるところだ。

深見さんの家族の立場だったら、加害者を受け入れる補導委託先をよしとするだろうかと考えた。
まだ深見さんのような過去があったわけでもないし、補導委託先として受け入れたこともないから実感がわかない。
けれど、許せるのだろうか。
怖くはないのだろうか。
どうしても、こちらからの想像で相手を見てしまう気がした。

そういう意味では、受け入れようとする深見さんはスゴイと思った。
今後、深見さんは元奥さんと和歌さんと少しずつでも話し合って和解していけたらと思った。

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