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オマエ誰やねん? 5         『写真の中にある私の物語』のできるまで

 長いブランクの中で少しずつ思い出しながら展覧会の準備をしていた。経験として分かっていたことはなんとか出来たが、気持ちの中に大きな空洞(?)があった。
 アートの仕事から逃げ出してから、当時の仲間たちとは全く連絡を取っていなかったから、全てを失ったものだと考えていた。でも、展覧会の準備をしている間に、何度も彼らのことが頭を過った。いや、本当はずっと頭から離れなかったというのが事実だ。彼らは今どうしているのだろうか。当時のことをどう考えているのだろうかと。

 その中の最も気心の知れた男に、何度も電話をかけようとした。受話器を持っては戻し、持っては戻し、何度も繰り返した。意外に私は小心者なのだ。
でも、展覧会は近づいてくるし、どうしても彼だけには見に来て欲しかったし、意を決して電話をした。

 受話器の向こうからは変わらない声が聞こえた。
「ご無沙汰してます」
 という私に、
「うわぁ〜、ご無沙汰しすぎやでぇ〜!」
 という明るい挨拶。
 近況報告などしてから、当時私が仕事を急にやめたことに対して詫びをいって、今回また展覧会をすることを伝えると、
「みんな帰って来るの、待ってるんやでー」
 と、思いもかけない言葉をくれた。今でも忘れられない言葉だ。

 私の心の中にあった空洞、それは展覧会の不安ではなくて、本当にもう一度出直してもいいのかどうかという不安だった。当時捨ててしまった仲間たちへの思いや、好きではじめたアートの仕事をやめてしまったことへの後悔や、色々なものが渦巻いていた空洞(表現がヘン?)が、彼の言葉で変化していくのがわかった。
 随分遠回りをしてきた。まだまだきっとウロウロと回り道を歩くのだと思う。どの道が最短距離で、どの道が遠回りになるのか分からないけれど、歩き続けないといけないのだろう。

 後日談として、私が救われたあの言葉は、彼にとってはどうということない軽い言葉だったようだ。

今日の教訓
持つべきものは友だち。
言葉は剣。

次回で終わる予定


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