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12. チャレンジ

その部室は、大学の本館1階の隅にあった。

「失礼します」
と声をかけ、ドキドキしながら小さな灰色のドアを開けてみると、細長い2帖ほどのスペースに、男の人が5,6人座っていて一斉にわたしに目を向けた。


「何か用?」

「あの、、入部したいんですけど・・・」(“だから来たんじゃないの、馬鹿じゃないのっ!?”)
手前にいた人があまりにもぶっきらぼうだったので、内心ムッとしたけど、ためらわずに答えた。

沈黙というか無反応。

“なんなのよ、感じ悪い奴ら!”
 
「中に入ってもらって、説明してあげたら?」


一番奥に、ふんぞり返っていたおじさんみたいな男の人が、機嫌悪そうな顔で、後輩らしき人たちに指図した。
どうやらわたしは、場違いなところに来たようだった。でも、入部しようと決めてきたのだから帰るわけにはいかない。


それは、写真部の部室だった。

“何かをしなくちゃ、流されてしまう!”


あれこれ考えた。
挫折したバスケットをまたやり直そうかとも思ったが、女子学生が極端に少ないので、バスケット部自体が存在していなかった。

軽音楽部、フォークソング同好会、ロック研究会…。音楽の類を見てみた。でも、チャラチャラしていて肌に合わなかった。


考えに考えた末、家業の写真なら少しだけ知識はあるし、広島にいる両親に「親孝行娘だ」と安心させられるんじゃないかと思って入部を決めた。


名前や学部を聞かれた後、下っ端らしき男子学生から、
「じゃあ、部長のところへどうぞ」
と言われ、引き合わされたのがさっきから一番奥でふんぞり返ってるおっさん。


“え~~~~この人、4年生?どう見ても40代じゃん”


「はじめまして。いきなりで悪いんやけど合宿があるんですよね。出られますか?」


「はい。わかりました」
「じゃあ、合宿のときまでに、1フィート以上の長巻フィルムを撮り切って、現像、プリントをして、作品として持ってくること。時間がないから、さっそく現像から彼らに教えてもらって。女も男も関係ないんで、それだけは合宿の参加条件やから。時間ないけど、頑張ってな!」

合宿は、1ヵ月後だった。

長巻フィルムというのは、36枚撮り相当のフィルムが10本取れ、長いまま缶に入ったフィルムのことである。

「無理やったらいいんやで。日にちも迫ってるし、撮れるだけとってみて」 
比較的若い先輩らしき人が、そう言ってくれた。

さっそく、フィルムの分配のしかたと、現像の仕方を教えてもらった。


やぼったくて、無愛想な男の人たちが、珍しそうにわたしのことを見ていたが、そんなこと全然気にならなかった。

“なんだか、頑張れそうな気がする!”今まで、不安と焦りでいっぱいだったけど、俄然やる気がでてきた。


部室を出たのは夕方の6時を過ぎていた。暗室の中にずっといたからわからなかったけど、もう日が暮れかけていた。こんなに遅くまで、大学に残っているのは初めてだった。

ひっそりとしたキャンパスを、ウキウキしながら歩いていた。

“これから、わたしのキャンパスライフがはじまるんだ!”
そう思うとたまらなく嬉しかった。  


翌日から講義の合間を縫って、気になる場所や人々にカメラを向けシャッターを切りはじめた。
大学にも、カメラを持って行った。
今まであまり話したことがなかったクラスメイトが、珍しそうに話し掛けてきたりもした。

“大学生してるよね♪”って感じがした。


しかし、入部3日目に、思わぬアクシデントが…。
父からもらった、大事なカメラが動かなくなってしまったのだ! 

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