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106. めぐってきたチャンス

職場に復帰して、仕事と家庭の両立にも慣れ始めた頃、所長から、新しい仕事の話を受けた。
「ほんとですか?その仕事、わたしにやらせてもらえるんですか?」

「そうや。ムネちゃんが、今までの仕事の中で経験したことを伝えながら、ムネちゃん流のやり方で、この仕事やってみないか?これは、人事からの依頼でもある。営業所の仕事とかけもちで大変やと思うけど、ムネちゃんやってみるか?」

新しい仕事というのは、本社で行なっている新入女子社員研修のトレーナーの話だった。
会社が急成長をしていく中で、採用人員は年々増えてきていた。
わたしが入社した頃から比べると、女子社員だけでも倍以上に増えて、そのほとんどが全国の営業所に配属されていた。

今まで新入女子社員の研修は本社のトレーナーが行なっていた。しかし、採用人数が増えたことで、本社のトレーナーだけでは十分な対応が難しくなってきた。また、配属後も、各事業所で新人の指導育成できるようにすることを目的に、営業所の女子社員にもトレーナーの資格を取得さようという方針が決まったらしい。

「期待に添えるかどうかわかりませんが、頑張ります!」
わたしは、その仕事を受ることにした。

入社した頃、担当したかった仕事に4年の時を経てやっと辿りつけた瞬間だった。早速、トレーナーの資格を取得するために、親会社が主催する2泊3日のトレーナー養成研修を受講した。

その研修には、グループ内の他の会社からも、女子社員が多数参加していた。みんなわたしと同世代で、同じような経験を持つ前向きな人たちだった。研修の時間はもちろん、夜遅くまでおしゃべりが続いた。お互いの仕事ぶりや、前向きな姿勢に共感しあい、充実した時間を過ごしながら、トレーナーに必要な知識と技術を学んでいった。

担当したかった仕事だったが、一番の気がかりは〝人前で話すのが苦手、上手く伝えられない”
ということだった。
しかし、講師の方が

「トレーナーにとって大切なのは、上手く話すことではないんです。伝わるように話すこと。そのためには、しっかり準備を整えることです。どういう手順で、何に重点を置いて話せば相手が納得してくれるのか?これは、持って生まれた才能や素質ではなく、誰でも習得すればできるようになります!」
と、熱く語られていたことに、背中を押されるように夢中で実習に取り組んだ。

“今だから、この仕事ができるのかもしれない。いろいろな失敗や経験をしたからこそ、それが裏づけになって人に伝えることができる!最初に本社に配属にならなかったのは、営業所でそういう経験を積みなさいってことだったんじゃないだろうか?だから、こうして、今、そのチャンスを与えてもらえたのかもしれない。会社は、わたしの目標や願いを忘れてはなかった。ちゃんと覚えてくれていたんだ!”

『研修参加者の前で、参加者を新入社員と想定して、与えられたテーマについての10分間の模擬講義を行う』という研修の課題に取り組みながら、ふとそんなことを思った。

そう思うと、まだまだわたしは経験が足りないし、人間的に未熟だということを痛感させられた。

研修から戻ると、今までの仕事がとても新鮮に感じられた。
仕事の進め方は基本どおり行なえてるのか?
こういう場合は、どんな風に対応したらいいのか?
ひとつひとつを自分自身に問いかけながら、仕事を進めることができるようになった。

また、上司の仕事の進め方の良いところが、見え初めてきた。
初めて、心から仕事が面白い!と思えるようになってきた。

そして、研修トレーナーとして、初舞台に立つ日がやってきた。

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