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イ・ラン&七尾旅人 @WWW

10月13日、渋谷WWWでイ・ランと七尾旅人のツーマンライブが開催された。

イ・ランは韓国出身のフォークシンガーで、2011年にシングル『よく知らないくせに』でデビュー。翌年にファーストアルバム『ヨンヨンスン』、2016年にはセカンドアルバム『神さまごっこ』をリリースしている。また2017年には、韓国大衆音楽賞で最優秀フォーク・ソング賞部門を受賞。表彰舞台上でトロフィーをオークションにかけて売りさばいたことで、良くも悪くも話題となった。近年、日本のインディーシーンにおいても高い人気を得ている。

今回のライブでは七尾旅人の演奏から始まり(すべてが素晴らしかった)、イ・ランのステージは後半。ステージバックの幕には、全曲で日本語訳が映写された。外国語の歌詞だからといって他のアーティストがそうした演出を行うのは稀なので、言葉遊びや物語を思い起こさせるものが多い彼女ならではの演出だと思った。実際に日本語訳があったことで、彼女の世界観はさらに伝わってきた。

彼女の曲で描かれるのは、煌びやかな世界とは無縁の“平凡”な人物ばかり。ちょっと“風刺的”な毒を盛ることで心の琴線に触れながら、湿っぽくならないのが彼女の音楽の魅力だ。ステージをみながら「シリアスなことを軽やかに流していくことの格好良さは、思春期を超えてから身に染みてわかってきたことだ」と、思ったりもした。

近年のK-POPの盛り上がりが凄まじいので、こうした“地味”で率直であるがゆえにアイロニカルに感じる曲が韓国音楽シーンでもあるというのは、当たり前だけど、その当たり前さを忘れていたことに気がついて、はっとする。それとともに、経済苦を理由に行われた先述の「即席トロフィーオークション」が、世間に対する自立音楽(韓国ではインディーミュージックのことをこう呼ぶようだ)の危機的状況に対する挑発的な問題提起だったことについて、強い興味が湧いてきた。

エンターテイメントは麻薬のように魅力的だけど、そればかりが強固な世界はある一定の人たち(集団行動が苦手だったり、右と言われたらなぜ右に行かなければならないのかと悩んでしまうような人たち)にとって呼吸することもできないような世界だと思う。エンターテイメントはあらゆる世界を越えて、人を繋げていくことができるものだと思う。それでも、その中でこぼれ落ちてしまう声がある。

ライブで、彼女は「イムジン河」を歌った後「韓国が南北で統一した後に朝鮮と日本も統一した方がいいと思う」と言った。それは、彼女が来日する上でビザを取ることの困難さからきた発言だったけど、ちょっと息を飲むような言葉だった。韓国と日本は政治的な対立がいろんなところで見えてくるから、なんだか素朴な言葉でさえもヒヤリとして笑って流したくなるのだ。彼女はそんなこともサラリと言ってのけてしまう。

落ちてしまった声を拾い上げていく人たちは必ず存在する。韓国のミュージックシーンで彼女がいることを思うと、頼もしくて、少しだけ泣きそうになった夜だった。

#七尾旅人  #イラン #langlee #kpop #音楽

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