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岡口裁判官の民事裁判・控訴審判決

岡口裁判官に対する民事裁判の、控訴審判決を掲載する。

これまで、雑誌やデータベースに公開されておらず、果たしてこれから先も公開されるか不透明であるため、ここに公開することにした。
判決を読み、疑問を抱いた。詳細な検討は後に譲るが、若干書かせていただきたい。
 なぜ投稿1を不法行為としたのか。根拠の説明は、甚だ曖昧である。理由説明として、これで良いのだろうか。また、説明部分は、令和2年8月26日の最高裁決定と、極めて酷似している。
 それでは、以下が控訴審判決文である。研究の一助となれば幸いである。


令和6年1月17日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官■■
令和5年(ネ)第956号 損害賠償請求控訴事件 (原審・東京地方裁判所令和3年(ワ)    第7820号)
口頭弁論終結日 令和5年11月1日
判決
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控訴人 岩瀬正史
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控訴人  岩瀬裕見子
上記両名訟代理人弁護士  山本剛
江藤里恵
中澤康介
多田幸生
仙台市青葉区(略)
被控訴人 岡口基一
同訴訟代理人弁護士  大賀浩一
小倉秀夫
西村正治
野間啓
主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人らの敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人らに対し、それぞれ60万5000円及びこれに対する令和元年11月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(以下、略称は、別途定めるほかは、原判決の例による。)
1 本件は、17歳の女性が性犯罪に遭い殺害されたという本件刑事事件に係る被害者遺族である控訴人らが、現職の裁判官である被控訴人がインターネット上に本件刑事事件及び控訴人らに関する記事を投稿したことにより、名誉権等の人格権が侵害されたと主張して、被控訴人に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、それぞれ82万5000円及びこれに対する令和元年11月12日(不法行為の最終日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は、控訴人らの請求について、被控訴人に対し、それぞれ22万円及びこれに対する上記遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却したところ、控訴人らは、上記棄却部分を不服として控訴を提起した(なお、被控訴人は、控訴権を放棄した。)。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1から3まで(2頁12行目から9頁6行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁24行目の「なお、」から同頁25行目の末尾までを「被控訴人は、ツイッターで、1日20回程度のツイートを行っていたところ、そのフォロワーは約4万人に達していたほか(ただし、そのアカウントは、平成30年6月、ツイッター社により凍結された。)、被控訴人が利用していたフェイスブックも、令和4年4月の時点で1万4000人を超えるフォロワーを擁していた。また、平成30年7月以降、被控訴人がブログ等に投稿した記事のタイトルが、氏名不詳の第三者が開設した「岡ロ基一BOT」というツイッターアカウント(以下「BOT」という。)に自動ツイートされていた。(甲14、41、弁論の全趣旨)」に改める。
(2) 原判決3頁20行目の「この投稿と本件投稿1-1」を「この投稿を「本件投稿1-2」といい、本件投稿1-1と」に改める。
(3) 原判決4頁11行目の末尾に改行の上、次のとおり加え、同頁13行目の「原告らの被告に対する」を「本件請求債権のうち」に改める。
「 控訴人らは、令和3年3月29日、被控訴人の本件各投稿により名誉権等の人格権が侵害されたとして、被控訴人に対し、不法行為による損害賠償を求める本件訴訟を提起した。」
(4) 原判決5頁20行目の「本件投稿2がされた時期」を「本件投稿2の記事は、被控訴人が削除したため、閲覧することができないが、BOTに、「遺族には申し訳ないが、これでは単に因縁をつけているだけですよ。」というタイトルが自動ツイートにより転載されているところ、この投稿がされた時期」に改める。
(5) 原判決6頁6行目の「被告が、その引用をもって上記記載の(ア)事実」を「被控訴人が控訴人らから度重なる抗議を受けた後のタイミングで、第三者のツイートを奇貨として、その引用をもって、「本件刑事事件に係る控訴人らの被控訴人に対する抗議には理由がなく、控訴人らが無理に理由をこじつけて被控訴人の非を責め立てている」という事実」に改める。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
当裁判所が認定した事実の経過は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」(以下「原判決判断」という。)の1(9頁8行目から17頁25行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決10頁15行目の「連日報道され、」から同頁18行目の末尾までを「連日報道されていたところ、控訴人らが被害者参加制度を利用して出廷し、論告求刑公判で、「家族は一生苦しむ。反省や更生は望まない。」などと意見陳述をして死刑を求めたことなどの記事が掲載されていた。(乙3の4~8)」に改める。
(2) 原判決10頁26行目の「本件刑事判決の」から11頁2行目の「処理されていた。」までを「本件刑事判決の判決書について、仮名処理を施した上で、その全文を裁判所のウェブサイトに掲載した。」に改める。
(3) 原判決12頁14行目の「削除した。」を「削除したが、自己のフェイスブックに掲載していた本件投稿1-2については、控訴人らから削除要請がなかったという理由で、削除していなかった。」に改め、同行目の「3〔2〕」の後に「、38」を加える。
(4) 原判決12頁15行目から16行目にかけての「「要望書」を提出し、本件投稿1-1について被告に」を「要望書をもって、本件投稿1-1は、被害者の尊厳に対する配慮が全くなく、本件刑事事件を軽視し茶化していると感じさせる書き込みであり、強い憤りを覚えたなどとして、被控訴人の」に改める。
(5) 原判決13頁18行目から14頁18行目までを削る。
(6) 原判決14頁19行目から同頁20行目までを次のとおり改める。
「ウ 他方、被控訴人は、ツイッター上では、上記のとおり自己の半裸の写真や性関連の記事を投稿していたものであり、これに関して厳重注意処分を受けたこともあって、一部メディアでもこの話題が取り上げられ、白ブリーフ裁判官と呼称されるなど、司法関係者のみならず、社会一般の耳目を集めていたところ、あるテレビ番組で平成29年7月以降の被控訴人のツイートを調査した結果、半裸や性関連の記事の投稿数が司法関連の記事の投稿数を上回るものであったとの報道がされた。また、被控訴人は、ツイッター上で、司法関連の記事であっても、関係者を揶揄する内容の投稿をしていたこともあった。(甲23、27、28、33~36)」
(7) 原判決15頁21行目から22行目にかけての「行った。(前提事実(4)、争いがない。)」を「行ったところ、その後程なくして自らその記事を削除したため、当該記事の内容を確認することができないが、そのタイトルに「遺族には申し訳ないが、これでは単に因縁をつけているだけですよ。」と記載した部分は、BOTに自動ツイートによって転載されていた。(前提事実(4)、甲5、弁論の全趣旨)」に改める。
2 争点(1)ア(本件投稿1の不法行為該当性)について
(1) 犯罪被害者等基本法は、犯罪等の被害者及び家族又は遺族(犯罪被害者等)は、犯罪等による直接的な被害のみならず、その後も副次的な被害に苦しめられることが少なくないことに鑑み、犯罪被害者等は、個人の尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有するとともに(3条)、国民は、犯罪被害者等の名誉又は生活の平穏を害することがないよう十分配慮しなければならない(6条)旨を定めている。本件刑事事件は、17歳の女性が性犯罪に遭って殺害されたというものであるところ、このような犯罪により我が子を失い甚大な精神的苦痛を受けている遺族において、事件が好奇の目にさらされて被害者の尊厳がこれ以上傷つけられることのないよう願うのは当然のことであり、上記各規程は公法上のものであるものの、その趣旨に鑑みれば、こうした遺族の心情は、不法行為法上も保護に値する人格的利益であるというべきである。他方、このような重大な刑事事件に関する記事をインターネット上に投稿して紹介する行為は、広く社会一般の関心の対象となる事柄であり、また表現行為として表現の自由の保障を受けるものである。そうすると、こうした投稿が不法行為法上違法となるのは、当該投稿の表現や意味内容及びこれが及ぼす影響等を考慮し、社会通念上受忍すべき限度を超えて上記人格的利益を侵害したというべき場合であることを要すると解される。
(2) これを本件投稿1についてみると、被控訴人は、本件刑事事件に含まれる論点に言及することなく、「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男」などという被告人の異常な性癖や犯行の猟奇性に着目した表現で本件刑事判決を紹介したものであるところこのような紹介の方法に照らせば、本件投稿1は、被控訴人が主張するような、刑法上の重要論点を含む本件刑事事件を法律家に周知するためのものとみることはできず、閲覧者の性的好奇心に訴え掛けて、興味本位で本件刑事判決を閲覧するよう誘導しようとするものというほかない。
(3) そして、被控訴人は、従前からツイッター上において、自己の半裸の写真や性関連の記事を投稿するなどしていたものであり、その職業が現職の裁判官ということもあって、司法関係者のみならず、一部メディアでもこの話題が取り上げられるなど、社会一般の耳目を集めていたところ、そのフォロワーは約4万人に達していたのであり、このように被控訴人が自己のツイッターアカウントで行っていた投稿の影響力は大きいものであったということができる。被控訴人が上記の投稿に関連して厳重注意処分を受けて以降も、被控訴人のツイッター上における投稿は、自己の半裸や性関連の記事の投稿が相当数を占めていたものとみられ、司法関連の記事であっても関係者を揶揄する投稿が含まれていたのであり、従前から、こうした話題について好奇の目を集める実態があったことは否定できない。
(4) このような状況の下で、被控訴人のツイッター上において、本件刑事事件について、上記のとおり被告人の異常な性癖や犯行の猟奇性に着目した表現で、閲覧者の性的好奇心に訴え掛けて本件刑事判決を閲覧するよう誘導しようとする投稿がされたことについて、被害者遺族である控訴人らはその心情をひどく傷つけられ、これにより受けた精神的苦痛は少なからぬものがあったことはいうまでもない。他方、掲載されていた本件刑事判決については、仮名処理がされていたが、当該犯罪の特異性等から、これを閲覧する者において、被害者について実名報道されていた本件刑事事件を対象とするものであると識別することは容易であったことからすると、この点は、上記の判断を直ちに左右するものということはできない。
(5) こうした事情を考慮すると、被控訴人の本件投稿1は、控訴人らに対し、社会通念上受忍すべき限度を超えて上記人格的利益を侵害したものというべきであり、不法行為を構成すると解するのが相当である(なお、本件投稿1には、上記のとおりツイッターにされた本件投稿1-1のほか、フェイスブックにされた本件1-2が含まれるが、両者は投稿の内容・時期が同一であることからすると、一体の不法行為とみるべきである。)。
3 争点(1)イ(本件投稿2の不法行為該当性)について
この争点に対する判断は、次のとおり補正するほかは、原判決判断の3(23頁2行目から25頁24行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決24頁22行目の末尾に改行の上、次のとおり加える。
「 しかしながら、被控訴人の本件投稿2が、本件投稿1に関して控訴人らが抗議していることについて言及したものであったのであれば、控訴人らの感情を甚だ傷つけるものであったというべきであるが、控訴人裕見子は、その供述によると、平成30年10月5日に本件投稿2がされた後、程なくしてその記事が削除される前に当該記事の内容を読んだというのに、その後、控訴人らにおいて、被控訴人に対してこのような投稿をしたことについて講義をした形跡はなく、また、控訴人らが同月22日に東京高等裁判所に対して提出した抗議文書にも、被控訴人の分限裁判の期日後の会見等についての抗議の内容が記載されているものの、本件投稿2については何らの言及もされていない。そうすると、本件投稿2が投稿先のブログごと削除されているため、その本文の内容を確認することができず、また当該ブログにおける前後の投稿の内容も不明である状況の下で、上記の経緯のみから直ちに本件投稿2の「因縁をつけている」という記載が本件投稿1に関して控訴人らが抗議していることを対象としたものであると認めることはできない。」
(2) 原判決24頁23行目の「しかしながら、他方で、」を「他方、」に、同頁25行目の「表明していた(上記(1)ア)。加えて、」を「表明していたところ(上記(1)ア)、」に、25頁8行目から9行目にかけての「記事にしたものである可能性が大きいというべきである。」を「記事にしたものであることについて、山口弁護士の当該ツイートが現存していないことを踏まえても、その可能性は相当程度あるというべきである。」にそれぞれ改める。
(3) 原判決25頁16行目の「本件投稿1」から同頁21行目の末尾までを「被控訴人が控訴人らから度重なる抗議を受けた後のタイミングで、第三者のツイートを奇貨として、これを引用することにより、「本件刑事事件に係る控訴人らの被控訴人に対する抗議には理由がなく、控訴人らが無理に理由をこじつけて被控訴人の非を責め立てている」との事実を摘示したものであると主張する。しかし、山口弁護士が本件投稿2の引用元のツイートで言及したとされる原告裕見子ツイートは、亀石弁護士の投稿に関するものであり、控訴人らが被控訴人に対して行っていた抗議とは直接関係するものではなかったところ、インターネット上の投稿において、第三者の記事を引用し、またはこれについて言及する場合には当該第三者の投稿に係るURLを明示してされることが通常であることを踏まえると、本件投稿2は、これを閲覧する者において本件刑事事件に係る控訴人らの抗議について言及したものでないことを判別することができるものであったとみられる。そうすると、控訴人らの予備的主張も採用することができない。」
4 争点(1)ウ(本件投稿3の不法行為該当性)について
この争点に対する判断は、原判決判断の4(25頁25行目から27頁7行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
5 争点(2)(本件投稿1に係る消滅時効の成否)について
(1) 前記認定事実のとおり、被控訴人は、平成29年12月15日、本件投稿1を行ったところ、控訴人らは、翌16日、被控訴人に対し、このうちツイッターにされた本件投稿1-1について、抗議を行ったものであるから、同日には、本件投稿1について、被控訴人に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度に損害及び加害を知ったものと認められる(なお、本件投稿1-1と本件投稿1-2は一体の不法行為とみるべきことは上記説示のとおりであるから、控訴人らにおいて、被控訴人のフェイスブックにされた本件投稿1-2の存在を知らなかったとしても上記認定は直ちに左右されない。そして、本件投稿1-1は、被控訴人により同日中に削除されており、本件投稿1-2は、直ちに削除されなかったものの、引用元の裁判所ウェブサイトにおける本件刑事判決の掲載は、東京高等裁判所において控訴人らから同月26日付け要望書の提出を受けた後、間もなく削除されたものとうかがわれる。)。そうすると、控訴人らの被控訴人に対する本件投稿1に係る損害賠償請求権は、同日から起算して3年となる令和2年12月16日の経過をもって消滅時効が完成したというべきである。
(2) これに対し、控訴人らは、本件各投稿は、一個の連続した不法行為というべきであるから、当該損害賠償請求権は、最後の被害が生じた本件投稿3がされた時点から進行すると主張する。しかし、本件各投稿は、投稿の時期及び内容を異にするものであって、不法行為の成否も別個に判断すべきものであることからすると、控訴人らの上記主張は採用することができない。
(3) 以上によれば、控訴人らの時効の援用をもって消滅したというべきである。
6 争点(3)(損害の発生及びその額)について
この争点に対する判断は、次のとおり補正するほかは、原判決判断の5(27頁8行目から28頁15行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決27頁9行目から同頁10行目までを次のとおり改める。
「(1) 以上説示したところによれば、本件投稿3についてのみ控訴人らの損害を認定すべきことになる。」
(2) 原判決27頁18行目の「被告が令和4年6月頃時点で」を「本件投稿がされた被控訴人のフェイスブックのアカウントは、令和4年4月の時点で」に改める。
7 結論
以上によれば、控訴人らの請求は、被控訴人に対し、それぞれ22万円およびこれに対する不法行為日(本件投稿3がされた日)である令和元年11月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきであるところ、これと同旨の原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
 
東京高等裁判所第12民事部
 
 
裁判長裁判官 梅 本 圭一郎
裁判官 井 出 弘 隆
裁判官 瀬 田 浩 久


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