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【超短編小説】草みたいなバッタみたいな何か

 早朝に六本木の大通りを歩いていると、珍妙なものが落ちていた。

 最初、それは草の束に思えた。だが都会の一等地にそんなものが落ちているわけがない。いったい何だろう。見た感じは、そう、巨大なバッタだ。草みたいな形の巨大バッタだ。脚が何本もあり、剛毛が生えている。そんな異形なものが、道のわきに落ちているのだ。

 私は足を止めた。誰かに意見を聞きたかったが、早朝すぎるオフィス街にはまだ通勤客もいない。回避できたらいいが、駅に行くにはどうしてもその道を通る必要がある。

 剛毛が風に揺れているが、それは動いていなかった。もしかしたら死骸かもしれない。だから私は意を決して、それのそばを通過することにした。

 なるべく見ないようにしたが、どうしてもそれの正体が気になる。もしかしたら見て不快になるものかもしれないが、確かめずにいるとずっと怖いままだ。知らないで恐れるよりは、真正面から受け止めてスッキリしたいと思った。

 だから通り抜けた際、チラリとそれを見た。それは草だった。

 一気に耳が熱くなった。なんだか悔しくて、わざわざその場に戻って草を蹴とばした。草はすぐに吹っ飛んだが、悔しさは吹き飛ばなかった。耳の熱さはしばらく消えなかった。


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