3-12. 旅の裏(怪しいドライバー)


※写真は本文と関係ありません。

日常から離れて
くたびれた体も心もリフレッシュする為出る
旅ですが、
たまには不幸な事件や事故に巻き込まれてしまう事もあります。
お客様も、乗務員もできるだけ避けたいですが、
なかなか予測出来ない事が多いです。

重ねる仕事のせいか疲れては見えたけど
40代半ばくらいで大人しく見えるドライバーさんは
とこでも会える普通に良い印象の方でした。

添乗員になってから初めて迎える8月はとりわけ暑かったです。
埼玉の○○市出発の1泊2日バスツアーでバス1台の40人あまりのお客様に添乗員として付く旅でした。

主な行き先は上高地、
いうまでももない日本を代表する
大自然スポットです。
シンボルであるかっぱ橋を背景にした絵の様な
万年雪が望める穂高連峰の美しさは
スイスのアルプスにも負けない絶景です。
帝国ホテルで味わうケーキやスイーツも有名です。
もちろん心まで爽やかになるお水も美味しいです。
自分に合わせて楽しめる様々な散歩コースもワクワクです。

長いトンネルやくねくね道も多くて
行く道は大変ですが、
やっと神秘的な大正池が見えはじめると
今までの苦労は一瞬、
遠い青空まで飛んで行きます。

日本の8月はとてもとても住みづらい時期ですが、
上高地の8月はいわゆる別の世界であります。

原点に話が戻ります。

皆ワクワクとしたこのツアーは
実は
最初から異変が起こっていました。

がらがらの中央道にバスが約20キロで走っていました。
???
そうです。
事故も渋滞もないがらがらの高速道路で20キロです。

以後速度は加速しましたが、
今度は
車線を真っすぐ走るべきのバスが
まるで蛇に様な運転

まさに誰でも感じる不安定な運転でした。
しかも居眠り運転まで…
先から異変を感じた(特に前方席)お客様にその様子が前方ガラスから反射して
まるごと映って見えました。

当惑でした。

……

バスツアーでドライバーの存在はツアー自体を左右するほど絶対的です。

特に2日間のツアーなので最後までスムーズなツアーになる為に
添乗員はこういう場合積極的に務めなければなりません。
ガイドが付いてないツアーなので僕の責任はもっともっと重ねます。
40人あまりのお客様の前でドライバーとげんかするわけでもないので
とにかく、本日泊まる宿までにはどうかドライバーさんをケアするべきです。

もちろん、代わりにバスハンドルを握ることも出来ないので居眠りしないように
僕はお客様にも明るい話をしながら
ドライバーさんにもかなりの気配りをしました。

やはり頑張りすぎて仕事で疲れたわね。

途中でSAを寄って数ヶ所経由地を寄り、
夕方には穂高の温泉宿までたどり着きました。

やっとです。

良かった…

とホッとしたため息は自分だけではなく
車内あちこちから聞こえました。

お客様の夕食案内を終えて
ドライバーさんと別食。
普通に良い人でした。

「夏のシーズンだからお仕事大変ですね。
今日はご苦労さまでした。
ゆっくり休んでください。」

ドライバーさんから缶ビールももらいました。

……

翌朝
誰も想像出来なかった運命の日がはじまりました。
山々に囲まれた穂高の朝はとても快適でした。

お早うございます。
今日はこのツアーのハイライト上高地ですね。
今日も宜しくお願いします!

昨夜温泉も入ったし
ぐっすりと寝たから
ドライバーさん今日はお元気かなあ…

という皆の願いはまもまく破れました。
添乗員も人間なので
全てのところへ行ったわけではありません。
初めての所もあります。

当時1年目の僕としては
苦しい事でした。
特に看板も特に少ない
地図にもあまり出てない
いわゆるB級のスポットは…

お客様に

「知りません、
行ったことないです。」
とは言えないのも事実です。

こういう場合ベテランのドライバーさんは
だいたい知っていますが…

上高地へ行く途中にあるあまり有名ではない○○滝を寄るコースでしたが、
自分もドライバーさんも知らず、
バスのナビーに頼って不安な気分でバスは
進みました。

「よし、着いたぞ!」
ドライバーさんはバスのエンジンを切って前方扉を開けました。

あれ!!!!!!

何となく道が違うと感じた自分とお客様達

着いたところは何もないただの農家でした。

「違います、ここじゃないです。再確認してください!」
忍耐力限界になった僕はドライバーさんに強く言いながらお客様たちに変わりに頭を下げてお詫びしまおた。

バスが再び出発しました。
道を分からず、
地図をみながらパニックになったドライバーさんは
神経質になり
地図の本を口に噛みながら
「俺、もう分からないんだ!」と叫びました。

昨日から生まれた緊張感、恐怖感の空気が車内を支配していました。

冷静にならないと…
落ち着かないと…

運転中のドライバーを興奮させっちゃ
事故に繋がります。

「ドライバーさん、
40人あまりの命がかけています。
僕も探して見るから落ち着いて行きましょう。
ゆっくりでも結構です。
皆の安全が優先です。」とホーローしながら
万が一の最悪事態に備えて僕はドライバーさん近く付いて
いつでも変わりにブレーキを踏む(?)準備をしていました。
そういうほど
緊迫な状況でした。

何となく滝までたどり着きました。

次は日本唯一2階立てで有名な新穂高ロープウェイでした。

騒ぎながらもバスは何となく進み
安房トンネルに入りました。

直線じゃなくてカーブも多い、
しかも狭い安房トンネルは運転しにくいところでもあります。

あああ…
壁にぶつかるぞ!

低速でしたが、
進入してから左に傾けたバスは
結局数秒、数回
壁にぶつかりました。
バスの横を構成する金属部と
暗いトンネルのセメント壁面の接触する

ガガガがガガガが…
という鋭い音が鮮明に聞こえました。

皆が恐怖を感じるこの瞬間一人だけ
何もなかった様な
平気な無表情でいるのは
非現実的な瞬間でした。

もちろんドライバーです。

「今、ぶつかりましたよね!」
「ドライバーさん、しっかりして!」

こんな事態まで来たら謝るのは
社会の常識ですが、

「大丈夫です、問題ないです」

「……」

もうお客様たちはツアーを諦めて
無事に家に帰る事を望む顔でした。

非常事態でした。

このままじゃ無理だ。
昨日からの事は偶然じゃない。
この人はやっぱりおかしい…

お客様たちは新穂高ロープウェイに着くまで
僕の目をずっと見ていました。
その目はこう言いました。

「添乗員さん、
お願いだから助けてちょうだい」

「何とかしてぐれよ!」

「……」

まだまだ新人でしたが、
命がかかっている今
添乗員としてツアーの安全を第一線で守るため
何をするべきかは
はっきり知っていました。

トンネルから抜けて
新穂高ロープウェイに着いた僕は
まずお客様を安心させました。

「あたし、とても心配だわ!松本からタクシーで帰る!」

「添乗員さん、俺怖くてあのバス二度も乗れない!」

「皆様、こういう事になってしまって本当にもうしわけございません、
皆様の今の心境私も同じく感じております。
一つだけご約束します。
本社へ連絡してドライバーの交代を求めrます。

大変だと存じますが、
せっかくの旅ですので
私を信じて
ロープウェイ展望台で穂高連峰のパノラマを満喫してください。

そして、先降りる方はバスに乗車せず、1階のお土産コーナーや散歩、足湯でもしながらお待ちください。」

こんな事があったにも関わらず、
展望台から望む絶景に魅了され
僕はお客様の写真を撮ってあげたり、
普通よりオーバーモードで
わざわざ明るい雰囲気を作る様に努めました。

そして、
会社へ報告しました。

「分かりました。バス会社に連絡して代替のドライバーを送る様にします。
添乗員さんはまず、お客様が動揺しない様に努めててください。
……

彼との旅程はここで終わりました。

緊急で上高地あたりの送迎ホテルのバスが到着し、
お客様たちは荷物を持って無口で乗り換えました。

その後ハイライトである上高地へ着きまして
お客様たちは今までの事をなるべく忘れて
リフレッシュする気分で大自然を満喫されました。

僕は一人で皆の荷物を預かってもらい
トイレーも行けずに何時間も守りました。

同じバス会社から代替のバスとドライバーが来ました。
その後もいろいろありましたが、
何となく僕と皆様は無事に帰りました。


後で
後で
仲間の添乗員さんから聞いたですが、

あのドライバーさんはその後警察が届いて
その場で捕まったそうです。

もう数回も前歴がある人で
皆推測しているそれでした。
それが何かはあえて言わない事にします。

大惨事であった軽井沢夜行スキーバス事故の
前の出来事なので
今は当時より
いろいろ環境が改善されたと思いますが、

このツアーは皆に大きいトラウマを与えました。
怖くてもうバスツアーはやめるというアンケート、
そして添乗員として当然するべきの事を努めた僕に
感謝するメッセージもありました。

もう数年も経ったエピソードですが、
もしあの時判断が遅くて東京まで無理有りして
運行を強行したら…

あんなくねくね山道で事故が発生したら…
考えたくもない事になり
今の僕もここで投稿もできないはずです。

社会的な影響を考慮し、
旅行会社も
表にあまり言わないことでしたが

これは旅行会社も
バス会社も
もっと責任感をもって
根本的に考えるべきの問題だと思います。

1年目からこういう経験をした
僕には
あまり経験したくない苦い事でしたが、
どんなことでも慌てない

成長するきっかけにもなりました。

<終>

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