記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

ミスター・バンティングと「想像し続けることを自分に課した」大人

『屋根裏のラジャー』を観てきたので忘れないうちに箇条書き……。
※映画のネタバレしかないです。なお、原作は未読です。

脳筋的に「好き!」と思ったところ

一龍斎貞友さんと大谷育江さんの声が良かった。忍たま乱太郎も名探偵コナンも大好きな身としては、あのお二人の声があるだけで安心感があるというか、癒された。

映像が美しいなと思って観ていましたが、なぜか一番グッときたのはジンザンの目の描写。日が当たって細くなっていた瞳孔が影にはいっていくと片目からゆっくり大きくなっていくのがなんとも印象深かった。あと、イケボと猫、最高のマリアージュですね。

キャラクターとしては、エミリが一番好き。いろいろな理不尽を経験して消化しきれないなりに呑み込んで糧にして、後ろより前を見てここまでやってきました、みたいなキャラクターは全般好き。
それだけに、あのラストはちょっと残念というか。ああするならもうちょっと観客側に悲しみを引きずる時間をもらいたかったなぁと。ラジャーが引きずってくれるかと思ったものの、わりとすぐに次の騒動に話が移ってしまったので……。尺的に仕方ないかなと思いつつも、原作だとどう描写されているのかちょっと気になった。

大人のための物語

この作品、(原作がどうなのかは置いておいて)対象顧客を子どもと大人のどちらに据えているのか非常に気になった。個人的に、このアニメは大人を対象に据えていそうだなと思う。
最後の病室のシーンのキーマンがアマンダでもラジャーでもなく、リジーと冷蔵庫になっている点。子どもたちのための映画なのかなーと思いつつ観ていたので、「あ、そこ、大人が直接的に関与しないと事件が収束しない形にするのか」とちょっと驚いた。
ただ、一番涙腺にきたのはリジーが傘を手に泣き崩れるシーンだったり、グッときたのはリジーと冷蔵庫の関係性だったりしたので、個人的に主人公はリジーでいいと思う(というか、リジーがアマンダを通して過去の自分を思い出し、励まされつつ胸を張って前に進み始めるまでの物語だったのだと解釈した)。

ミスター・バンティングをどう捉えるか

上述のようにこの作品を大人のための作品だと解釈した場合、ミスター・バンティングをどう解釈するか、難しそうだなと思う。リジーのようにイマジナリを忘れてしまう大人と、忘れられずに執着する大人を対比させて、後者を悪しきものととらえるなら解釈が楽そうではあるけど、まあそうではないよね……。小児愛的な描写のされ方をしているので、生理的に気持ち悪いとは思うものの、この作品を解釈するにあたって、彼のようなイマジナリを手放せない大人を単純な悪として捉えるのは嫌だなと思う(まあ、それは、私自身が子どものころのイマジナリーフレンドをはっきり覚えているのも影響しているとは思うけど……)。

あまり根拠はないけど、ミスター・バンティングを「作者(=物語の作り手である大人)の執念」と解釈すると面白い考察ができるのではないかなと思う。想像することを生業として、現実に身を置きながら、「想像し続けることを自分に課している大人」を煮詰めていった結果をミスター・バンティングとして描写している……みたいな感じかな。
※なお、私は原作未読なので、「作者」は原作者のような特定の個人ではなく、「物語ることを生業にする不特定多数の大人」くらいのつもりで書いています。

「想像し続けることを自分に課している大人」はミスター・バンティングを否定しにくいんじゃないかと思う。手段(他人のイマジナリを捕食する)は間違えてしまったけど、イマジナリを手放したくないという目的は「想像し続けることを自分に課している大人」にも共感の余地はあるんじゃないかと思う。そんな彼を頭ごなしに否定したら「想像することに執着」した自分自身を否定することになる。ただ、彼のようにはなりたくない。そんな存在としてミスター・バンティングが矛盾をはらんだままあの物語の中に存在していたらいいなぁなんて思う。

上のようにミスター・バンティングを捉えた場合、彼は最後、自分の執念(イマジナリ)を取り込んで、消えていくけど、彼自身もまた、現実側にいる「作者」に取り込まれたから消えたと解釈することもできそうだなーと思う。

最後に本編と関係ない蛇足

ちなみに……
これを書きながら「イマジナリーフレンド」についてwikiで調べてみたら、イマジナリーフレンドを扱った作品として『初恋ゾンビ』が紹介されていてびっくりしました(少年サンデー連載当時から好きで単行本も持っている)。
ただ、確かに初恋ゾンビも初恋相手の形をしているだけで、イマジナリーフレンドですね。『初恋ゾンビ』の最終巻とミスター・バンティングの最後のシーンに共通性は少なからずあるので、そのへんを対比させながら読んでも面白いかも。
少年漫画なのでマイルドとはいえ、男の妄想丸出しのイマジナリがでてくるので、好き嫌いは分かれると思いますが、人間の二面性とか理想と現実とか、そう言ったものがふんだんに詰め込まれた読み応えのある作品なので、ご興味のある方はぜひ(サンデーうぇぶりのアプリ版なら無料で読めるみたいです)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?