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心が遠距離2000キロメートル【コンパートメントNo.6】映画♯105




コンパートメントNo.6
2023年/フィンランド、ロシア、エストニア、ドイツ



【ストーリー】

フィンランド人留学生のラウラはモスクワで考古学を学んでいる。
大学教授の恋人イリーナにドタキャンされて、古代の岩絵“ペトログリフ”を見に行く為にひとり、ムルマンスク行きの寝台列車に乗る。





【解説というか、レヴューというか、】

舞台はロシア。首都モスクワからフィンランド寄りの北極圏にあるムルマンスクとう町へ行くまでの列車の旅。北極圏というだけあって、モスクワから2000kmという想像以上に離れた所へ向かう。ざっくりと北海道から沖縄まで2500キロほどなので簡単に行ける場所ではない。

ラウラは留学生なので、ここロシアでは外国人。教養があって美しいロシア人のイリーナを愛している。だがイリーナ方は、一緒に行くはずだった旅をドタキャンしたりとラウラをおざなりに扱う。要はラウラは惚れている立場で、知識階級、いわゆるホワイトワーカーのイリーナに憧れを抱いている学生なのだ。

そこに列車で同室になったブルーワーカー(肉体労働者)のリョーハ。
イリーナとは正反対のリョーハに、何のためにペトログリフを見に行くのかと聞かれると、『人は歴史を知る必要がある』と返す。だけどそれは、イリーナの受け売り。誇らしい恋人がいる事で、自分自身の隙間を埋めようとしているラウラの空っぽさが垣間見えてしまう瞬間なのだ。



旅の道中、特にリョーハと大きな出来事は起きない。2人に何か起きたとすれば、目的地まで辿り着いたという体験だけ。まるで異なるタイプとの何でもない交情、ペトログリフに着いた時には、ラウラの空虚だった心は満たされている、2000kmは冷たいロシアの印象を暖かく変える旅だった。


程よい距離感を探り合う、半恋愛映画という部分が今っぽい。



知識を詰め込んだって虚しさは埋まらない。ただコンパートメントNo.6という列車に載り、普段出会わないような誰かと仲良くなる経験は何にも変え難い体験なのだ。






フィンランドとロシアは国境が1300キロも接しているのに国民性や気質の違いがしっかりある。それを考えると、日本でも近くて遠い国と言われる、韓国を思い浮かべた。なんだけど、ロシアも隣国やったわ。もっと遠く感じるなあ。

ロマンス映画だけど、べったりくっついたりしない、付かず離れずな絶妙な距離感が、このご時世のフィンランドとロシアを良好な関係にするのかも、と思う一作だった。

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