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『ちょっとの違い』が作る飽きない戦闘システム

人間ね、同じことばっかりやっていると飽きていきます。
これはゲームデザイナーとしては避けられない問題です。5時間遊んで面白いゲームが、50時間遊んで面白いとは限りません。

せっかく面白い戦闘システムを作っても

最初は面白かったんだけど……
結局、おんなじ事を繰り返してばっかりで飽きちゃった。

とか言われちゃうと悲しいか苦しいというか、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ー!!!

なので、じゃんじゃん新しい要素を追加していって飽きさせないようにしたいわけですが。
しかし新しい要素の追加というのは工数がかかります。金も時間もかかるわけですが残念ながらそれは有限です。湯水のようには使えません。私にソレを使わせてくれる人は常に募集しております。くれ。

ではどうするのか?
追加追加でやっていけないことを考えると理想を言えば

1つのコアとなるシステムが飽きずにずっと遊べる

という状態ですが、重要なのは「んなもんどうやって作ればいいんじゃい」って話です。
なのでこの記事では、既存のゲームを参考にしつつそこを考えていこうかと思います。

※RPGとかシミュレーション寄りの作り方をベースに考えていきますが、基本的な所は他のジャンルでも応用できるんじゃないかと思います。


◆飽きないために必要なもの

◇飽きる時って言うのはどんな時か

飽きさせないようにどうすればいいのか……を考えるために、まず「どんな時に飽きちゃうのか」というのを考えましょう。

シンプルに考えると、個人的には

何か毎回やっていること同じだなぁ……

と思ったら飽きます。
選べる手法が100万通りでも、最適解が1つで序盤からずっとそれを擦っていればいい……みたいな話になれば終わりです。

じゃあ毎回やっていることを変えればいいじゃん、と言うのは簡単ですが。冒頭で話した通り、

1つのコアとなるシステムが飽きずにずっと遊べる

を目指すとなれば、その戦闘システム1つで「毎回やっていることが違う」と思わせる必要があります。実際に組み上げるのは中々に大変です。

でもこの「違う」って、何がどのくらい違えばいいんでしょうかね?
その謎を探るべく、我々はアマゾンの秘境へと旅立ちました。


◇「状況」が「ほんのちょっと」違う

戻りました。アマゾンには答えはありませんでした。
この答えはアマゾンで探すよりも世にある名作を参考にしていった方が見つかるのかなと思います。

幸いなことに参考になりそうな名作はいっぱいあります。
私が遊んだことのあるゲームでも、コアとなるシステムで飽きさせずに何十時間と遊ばせているようなゲームはいくつか思いつきますね。
※戦闘システムの記事ですが、参考に戦闘システム以外の話もここでは取り上げます。

例えば

・デッキ構築型の『Slay the Spire』
・ローグライク系の『トルネコの不思議なダンジョン』
・最近のRPGだと『Sea of Stars』
・育成シミュレーションだと『パワフルプロ野球』
・生産系のシミュレーションだと『Factorio』
・ターン制ストラテジーだと『Into the Breach』
・ボードゲームだと『将棋』

とか。

詳細な説明は後述しますが、これらのゲームを思い返してみて共通して存在するのは

やれること(システム)は同じ。
でも毎回、その場の状況と最適解がほんのちょっと違う。

ってことです。
分かりやすいのはデッキ構築型のゲームで、毎ターン手札が変わるので取れる選択肢(状況)に変化が起き、最適解も変わっていきます。

また、何年か前にウマ娘が出た際に「パワプロ型の育成シミュレーションは生き残っているけどモンスターファーム型の育成は生き残っていないな」みたいな話をしたんですが、それもこれに関連する所があります。

(興味ある人はツイートを辿ってください)
ざっくり簡単に言うと、

◆パワプロ型
どのキャラがどのトレーニングを手伝ってくれるのかが毎ターン変わる。
それによって、どのトレーニングが一番良いのかが毎ターン変化する。
  ↓
「トレーニングを選択する前」のランダム性

◆モンスターファーム型
選択したトレーニングの結果(失敗~大成功)によって上昇量が変わる。
  ↓
「トレーニングを選択した後」のランダム性

という違いがあって、トレーニングを選択する前にランダム性があると毎ターン考えることに変化が起きる(最適解が変わる)んですが、選択した後の変化だと「何を選ぼうかな」って考える所に変化が起きないので飽きやすいよねって話。
※念のため言うと、私はモンスターファーム自体は大好きですよ。
※ただ育成システムとして上手いのはパワプロ型だな~っと。

また、最適解が変わる(何をするのが一番いいのか考える)のが重要なのであって、それを探る難易度自体は簡単でも良いです。
スピードのトレーニングにキャラがいっぱい集まってるから今回はスピードのトレーニングを選ぼうとか、そのレベルでも。

なので変化自体は「ほんのちょっと」でもいいんです。それによって「どれが一番いいのかな」って少しでも考えさせることができるのであれば。

※もちろんこれらのゲームにも要素の変化・追加自体は存在しますが、味付けを変えるような範囲です。
例えるならラーメン屋のトッピング。基本はラーメンで、そこから好みでチャーシューなり煮卵なりつけておくんなまし、と言う感じ。ラーメンばっかじゃ飽きるからってプリンは出しません。

ちなみに余談ですが、アクション性のあるゲームの方がこの辺りを気にしなくて良い所はあります。コマンドを選ぶようなゲームの方がシビア。

アクション性があるとプレイヤーの操作の成否(敵の攻撃を上手く避けれたか…とか)で勝手に状況が変化したりするので元々ランダム性を孕んでたりはします。


◇どこに変化をつけるか

さて、状況をほんのちょっと変えて最適解を変えると良いよねって話をしましたが。それだけだとフワフワしてます。
そこからもうちょっと先に踏み込んでみましょう。

今の自分のゲームに対して、何が十分にあって何が足りていないのかを探るにはある程度のパターン化、分類分けをしていると考えやすいです。
つまりは今回のやつだと

戦闘システムとして、「どこ」の状況を変えるのか?

というのをパターン化して詳細に考えられるようにします。
個人的な分類としては以下の3つです。

①「自分の状況」の変化
②「相手の状況」の変化
③「積み重ねた共通の盤面」の変化

※③は少し特殊なので、存在しないゲームの方が多い

次の項目ではこれらについて、既存のゲームではどういうことをしているのかその手法を詳しく見ていきます。




◆「自分の状況」の変化

HPが減ってきたら攻撃よりも回復を優先しなきゃ……みたいな「状況の変化」もありますが、戦闘システムの話なのでここでは別の所にスポットを当てます。

スポットを当てるのは「プレイヤーができること」です。
そもそも今プレイヤーが何ができるのか(使用可能な手札に何があるのか)で、その場の最適解も変わっていきます。

①手札の追加:強行動専用コスト

戦闘中にゲージがたまると超必殺技撃てるようになるぜ!的なやつ。
時間経過や攻撃をした時、攻撃を受けた時などでたまっていきます。

RPGでいくと、パターンとしてはまず旧FF7のリミットゲージのようにキャラ個別で用意しているパターン。攻撃を受けたキャラから溜まっていくので発動できるタイミングがバラけていきます。

あとはSea of Starsの合体技ゲージのようにパーティ全体で共有するパターンもあります。こちらは状況に合わせて誰の大技を使うのか?という選択に重きを置いています。

なお2D格ゲーではもはや必須機能の如く当たり前のように存在してますね。スパコンゲージ的な。

例えばストリートファイター6のゲージ消費技は無敵がついていることも多いです。通常、相手をダウンさせたら一気に攻め込む方が有利ですが、相手のゲージが溜まっている時に不用意に攻め込むと手痛いカウンターが待っていることもある。逆にそのカウンターをガードしてしまえば大きなチャンスになり……

と、こうした「ゲージがたまる前」と「ゲージがたまった後」で状況が変わって駆け引きに変化が生まれるのは上手く使えている例ですね。

単に「ゲージが溜まったら大技が撃てる」だけでも変化はありますが、「ゲージが溜まったことで考えることが変わる」という方向をより強くできれば飽きにくいゲームになっていくのかなと思います。

それと後述するMPみたいな制限系の話と違うのは、戦闘中に使えるようになる、すなわち「戦闘開始時からぶっ放すことはできない」という点が大きいです。
最初から使えるとどうしても開幕に大技を撃ちまくって短期決戦で、という話になりがちですが、最初からは撃てないと溜まるまではどう繋いで、溜まったらどうそれを最大化して……みたいな変化が生まれやすくなります。


②手札の強化:ブーストによる強化

専用のコストを使って既存の行動を強化するやつ。
分かりやすいのはオクトパストラベラーのBPでしょうか。

毎ターンBPが各キャラ1ずつ溜まっていって、ブーストを重ねた分だけ次の行動が強化される。コストの大きな大技はブーストをした状態で撃った方が効率がいいので、BPが溜まった状態と溜まってない状態で行動の最適解が変わってくる……ってやつです。

またBPの上手い所はダメージの上昇だけでなく、バフだったらターン数が延びるとか各行動にちゃんと強化軸が用意されている所ですね。どの状況で何にBPを使った方がいいのか、みたいのが広がる仕組みになっています。

※ちなみにオクトパストラベラーのBPは①の強行動専用コストの役割も兼ねてます。奥義はBPを最大消費しないと撃てない。

あとオクトパストラベラーのは「次の行動の強化」という考えた方ですが、アクションゲームなんかだと「一定時間強化モードに入る」みたいのが多いですね。例えばデビルメイクライの魔人化とか。


③手札の制限:クールタイム

このスキルを撃ったらしばらくは使えないよってやつ。
アクション性の有るゲームとかソシャゲ・MMOに多いですね。
私のRPGでも採用しています。このスキルを撃ったら次に撃てるのは3ターン後だよ、とか。

考え方としては

戦闘開始時から色々と選択できるけど、戦闘中に制限がかかって手札が絞られていく

みたいなやり方でしょうか。

クールタイムなしだとただ最もコスパの良い優れた1つの技を擦っているだけになる状況でも、クールタイムがあれば「そのスキルが使えない」状況が出てくるので、色んな技を使う必要が出てきます。


④手札の制限:共通消費コスト

例えば、皆大好きまじっくぱわー。MP0だったら魔法が撃てないよ、的なアレです。

ただ戦闘中にMPが十分にある状態の方が多く、制限としてはけっこう緩くなりがちです。今回の「手札の制限」という話の中では一番弱いかも。手札の制限による変化をかけたいならMPはキツめに設定した方が良いですが、難易度の高い大変なゲームになりがちですね。

また色んなスキルと共通したコストで運用するので、MP切れを起こすと極端に手札が減るなど使い方によってはピーキーな性質を持っています。

最も採用されていて最も汎用的に使えるけど、意外と制限として使いこなすのは難しい存在かなと思います。


⑤手札の制限:使用回数

なお、MPじゃなくてスキル毎に使用可能な回数を設定するやり方もあります。

例えば『Into the Breach』でも、強力だけど戦闘中に2回しか使えない兵装とか、『Slay the Spire』みたいなデッキ構築型のゲームでも廃棄(1回使ったらその戦闘中は消えて使えなくなる)の特性があるカードがあったりします。

スキル毎に制限がかかるので、共通コストよりも一気に何もできなくなるみたいなピーキーさはありません。
どちらかというと奥の手的な強力な手札をいかに制限するか、という所に対して使いやすい存在です。通常スキルは基本的に制限かけずに使えるけど奥の手は制限あるから使い所を考えてね、みたいな。

ただ物によっては直観的じゃなくなるので注意です。魔法なんかはMPみたいなスキル間の共通コストにしてしまった方が分かりやすい。小魔法はもう撃てないのに大魔法はまだ撃てるぜ!もよく分からないし。
(ウィザードリィは呪文に対して使用回数で制限かけてますけども)


⑥手札のリロード

TCGやデッキ構築型のゲームで採用されているやつ。
要はカードゲームタイプの、「手札」と「山札」の概念が存在するアレです。

Slay the Spire では、毎ターン手札が変わります。
ターン開始時に複数枚を一気にドローしてターン終了時に全部破棄する形。

シャドウバースみたいなTCGだと、ターン終了時に手札は残って、ターン開始時に1枚だけドローするような形ですね。

どちらもランダム性が強く状況の変化をつけやすいシステムです。
ただ全破棄型のランダム性が強く、手札が残る方が戦闘全体に対する戦術性が出しやすい……といった特性があります。


◇戦闘中の消費と回復が鍵か?

MPのように戦闘間で継続するものや、使用回数のように最初から使えるけど使い所を考えさせるものは、「状況の変化」として見た時に戦闘を飽きさせないようにするためのシステムとしては弱いかな~っと思ってます。
戦闘やダンジョン全体に対して使い所を考えさせるのがメインで状況の変化を作るのは副産物というか。

どちらかというと「使えるようになった」「使えなくなった」というサイクルが激しく回っている方が戦闘中の変化としては飽きにくいかも。
他の手法はそう言う所が強く出ていますね。

ただ「同じ敵でも戦闘毎に違う展開が起きるようにする」みたいなことを考えると、「特定の条件で行動が追加・制限される」というだけだと苦しい気はしています。

もう少しランダム性が欲しいですね。「手札のリロード」の手法はその辺りをクリアしていますが、それが使えないゲームも多い。
そういったゲームは敵の方の状況変化で対応している印象です。ので次の項目でそこを見ていきましょう。




◆「相手の状況」の変化

相手への対応に対する最適解の違い

①敵によって最適な攻撃が違う

まずは、皆大好きで当たり前の如く採用されているアレ。属性耐性。
有効な属性が変われば何をするかも変わっていきます。

とはいえ「ここは雪原だから火属性の武器を使って……」みたいな話だと戦略性の部分に影響はあれども今回の話にはあまり当てはまりません。
どちらかというと、集団戦で敵がそれぞれ別の弱点を持っている時なんかに意味が出てきます。

例えば

前列:戦士系の敵。物理攻撃に強く魔法攻撃に弱い
後列:魔法系の敵。物理攻撃に弱く魔法攻撃に強い

とした時、戦士系の敵を狙っている時と魔法系の敵を狙っている時では最適解が変わっていきます。
戦闘の前半、戦士系を狙っている時は魔法系をアタッカーにして、前列を倒し終わった戦闘の後半では物理系をアタッカーに……みたいな変化です。

既存のゲームで分かりやすいのはオクトパストラベラーですね。
弱点属性が明示されていて、かつ敵の弱点を一定回数攻めれば行動不能にできるので「どの敵を狙う時に何をするか」の最適解が明確に変わっていきます。

他にもメガテン・ペルソナシリーズのプレスターン(弱点を攻めると行動回数が増える)など、敵の弱点を攻めることでダメージ以外にも何か良い効果を付けてあげるとこの性質がより強くなりますね。


②敵行動の情報開示

相手が攻撃しないターンであれば、守るよりも攻めた方がいい。
相手が攻撃をしてくるのであれば、攻めるよりも守った方がいい。
同じ手札であっても敵の行動内容によって最適解は変わっていきます。

例えばオクトパストラベラーではボスが大技を出す際にはド派手なオーラを出していて、ヤバい感を明確に出しています。

このヤバそうな感じが伝われば、プレイヤーはこのターンは防御を固めようかなとか、行動に変化が出てくるわけです。
戦闘にメリハリが出るわけですね。

もっと詳しくやっているパターンとして、『Slay the Spire』では敵の行動内容やその攻撃でのダメージが明示されており、それに合わせてプレイヤーが行動を考えるゲームデザインになっています。

また防御にもグラデーションがある(防御カード1枚につき4ダメージ軽減できるとか)ので、攻撃と防御が「1か0か」ではありません。
なので「今回はどれくらい攻撃して、どれくらい守って……」というのを毎ターン考える形になっており、「ちょっとした変化」を分かりやすくつけています。これに手札のリロードも相まって、何度も繰り返し遊べる戦闘になっています。


③大技への対処

敵の大技が来ると分かった場合、それにどう対応するか?というのがとても重要です。単純に防御を固めるだけでも変化はでますが、他の選択肢もあるとより飽きにくいシステムとなります。

例えば先ほどから紹介しているオクトパストラベラーのブレイクシステム。
弱点属性で一定回数攻撃すればブレイクして行動不能になるので、敵が大技を撃とうとしている時にブレイクすれば止められます。

そしてオクトパストラベラーでは、これまで紹介してきた

・BPによるブースト(通常攻撃の攻撃回数上昇)
・ブレイクによる行動不能
・大技の予兆(明確にブレイクした方が良い状況)

というシステムが組み合わさってターン毎の状況の変化が上手く作られています。

また重要なのは、「対応できない時もある」というのを用意する事です。
例えば毎回ブレイクできるのであれば、ボスが大技を撃つことが出来ず弱い印象しか残らない……なんてことも起こり得るので。

今回はブレイクできそうだから攻撃回数を重視するぞ、今回はブレイクできそうにないから防御を固めるぞ……といった感じに、同じ敵の行動でも状況によって最適解が変わるとより飽きずに楽しめるシステムになりますね。

んで、オクトパストラベラー以外にこの辺りで上手くやっているのがSea of Starsです。

敵がスキルを使う際には以下のシステムがあってですね。

・敵がスキルを使う時に属性アイコンが出てくる。
・対応した属性を当てるとアイコンが1つずつ消える
・アイコンを全部消すと敵の攻撃を止められる
・止めきれなくても、消したアイコンの数によって威力が下がる
・同じスキルでも要求される属性が違う(数パターンある)
・複数体が使ってくる場合もあるので、止めきれない状況もある

敵がスキルを使わない時は純粋にダメージ重視で攻めればいいし、敵がスキルを使う時には対応した属性で何とか止める、止めきれない場合は可能な限り止めつつも何とか防御を固めて……

といった感じに毎ターン考えることが変わっていきます。
また出されるお題(属性パターン)も上手くスキルを組み合わせないと解けないようになっている事も多く、それだけでも「ちょっとした変化」として飽きさせない要素になっています。


④攻撃の対象

何を対象に攻撃するか、も最適解を変える一要素です。
ポイントなのは「誰を」ではなく「何を」な所ですね。

例えば『Into the Breach』では、自分が動かすキャラクターだけではなくフィールド上の建物も守る対象となっています。
(建物が攻撃されて画像左上の電力インフラが0になるとゲームオーバー)

フィールド上に点在する無防備なオブジェクトも敵の攻撃対象になることで、攻撃自体はかなりシンプルながらも

どのキャラのどの兵装で、どの敵に対処するべきなのか?
全てを守り切れない時には何を切り捨てるのか?

といった、毎ターン考えることがしっかり変化していくわけです。

RPGとかだと1人ターゲットを定めたらとにかくソイツを殴る事が多い(HPを減らしても倒さないとあまり意味が無い)ですが、このゲームの場合は倒せなくても敵の位置を1マスずらす(建物への攻撃を逸らす)だけでも大きな価値があるので……

どの敵に対処しようかな × 何のスキルを使おうかな

みたいな組み合わせで毎ターンに変化させてプレイヤーに考えさせることができ、飽きさせない仕組みとしては非常に効率よく効果的です。

このように、敵と味方だけでなく「戦闘フィールド」に目を向けるとゲームデザインも広がっていきそうですね。


◆「積み重ねた盤面」の変化

先ほど紹介した『Into the Breach』も盤面の遊びと言えなくもないですが。
より「戦闘フィールド」に着目して見ていきます。

①積み重て状況を枝分かれさせる

自分の行動のみで積み重なるわけではなく、相手の行動によっても大きな影響を受けます。RPGとかよりもボードゲームによく見られるやつですね。

例えば将棋なんかは、自分の駒の配置だけでなく相手の駒の配置によっても最適解が大きく変わってきますね。お互いが自分の都合が良い状況になるようにせめぎ合い、状況の変化が生まれるわけです。

将棋はデジタルゲームと違い1コマの性能は非常にシンプルです。
攻撃力も防御力もHPもなく、ただ「移動力」のみがパラメータとしてある。ただどのコマをどの場所に配置するのか、相手はどう配置しているのかで、シンプルな性能でも状況に大きな変化が生まれていきます。

こうして盤面を積み重ねるタイプのゲームは、初手や途中の1手でその後の展開が大きく変わっていくのが特徴ではありますね。
例えば将棋でも序盤で飛車を動かすか(居飛車)動かさないか(振り飛車)によってその後の展開も大きく変わります。(特性が違い、どこで攻めるか守るかも変わってくるので)

あんまり将棋の話をしても「使えねーよ」って言われそうなのでゲームデザインの話としてコレをもう少し抽象化すると、こうした遊びは

枝分かれのゲームデザイン

と言う事も出来ます。
起点は同じだけど、展開が枝分かれしていってやがて大きく変化していくイメージ。

デジタルゲームのジャンルとして枝分かれの要素が強いのは……
シャドウバースみたいなTCGとか、あとはフィールド上にキャラを配置して敵の進行を食い止めるタワーディフェンスなんかも強いですね。

千年戦争アイギス

敵や自分の編成がまったく同じでも、誰をどのタイミングでどこに配置するのか、いつスキルを点火するのか……で大きく状況が変わっていきます。
高難易度のものになると、トライ&エラーを繰り返しながら「なんとか勝てる分岐」を探し出す遊びになったりとか。

対してRPGなどの戦闘は、その場その場の展開を考えていく向きが強いです。状況の変化はありますが、積み重ねて広がっていくというよりは1つの箱の中身が変わっていっている状態。

どちらも最終的に「勝利」か「敗北」かの2パターンに収束していきますが、積み重ねて枝分かれさせていく方が、1つのシステムでより多くの状況の変化を生み出しやすいのかもしれません。

将棋も同じシステムで百年以上は愛されているわけで、ある意味いちばん実績のあるシステムとも言えますね。

というわけで、戦闘システムを考える時に

どうやって状況を枝分かれさせていくのか?

というのを考慮に入れるのも面白いかと思います。

※「状況を積み重ねる」というのが大事なので、「戦闘フィールドの状況を積み重ねる」はその中の一例にすぎません。「戦闘フィールド」の概念が薄いRPGであっても、戦闘全体を通して積み重ねて変化させることができればその恩恵を得ることはできそうです。

余談ですが、『Slay the Spire』のようなデッキ構築型のゲームは「積み重ね」のゲームデザインを戦略性の部分を適用しています。
戦闘に勝利して新しいカードを手に入れて、それによってデッキを作っていく。カード同士のシナジーが強いので、ランダムで手に入ったキーカードを軸にどういう戦い方をするのか、何を手に入れるのが一番いいのかが変わっていって……みたいな。


②物理演算による配置

戦闘システムからはちょっと外れますが、物理演算を使ったゲームなんかも「毎ターン変化をつけて飽きさせない」といった意味では強力ですね。
有名なやつだと「どうぶつタワーバトル」とか。

このゲームではうまくバランスをとりながら積み上げていく必要がありますが、同じ動物でもちょっとした角度の違いで状況が激変します。

土台として積んでいた動物の重心が少し左に寄っているだけでも、その後の積み上げ方に変化が起きたりとか。
適当に逆さにして動物を置いたら、相手が動物の足と足を引っかけて変なバランスを作ってきて、そこからギリギリのバランスの取り合いになったりとか。

そうした物理演算の特徴が、

1つのコマが作り出す状況の変化・枝分かれ

という点で見るとかなりの効果を発揮しています。

物理演算でアレコレしないゲームにとっては関係ない話題と思われるかもしれませんが、物理演算を使って達成しているのは

選択肢としては同じもの(この動物を、この角度で落とす)でも、状況によってできる事や、そのコマの性質が違う。
(この状況なら無難に積むしかないけど、積み重ねた土台に引っ掛けられそうなものがあるならかなり攻撃的に積めるな、とか)

という点で、これは色んなゲームに適用できる話です。

同じ効果の物が状況によって意味を変わっていくなら、よりその場の最適解が変わっていく。それが1つのコアなシステムで飽きさせないような仕組みにも繋がってきます。思い返すと、これまで紹介してきたゲームの中にもそうした性質を持つのは多くありますね。



◆まとめ(ない)

面倒くさいので詳しくはまとめません。

とりあえずは……
同じシステムを使いながらも、いかに毎ターン変化をつけるのか?状況を枝分かれさせていくのか?というゲームデザインは、飽きさせない上でかなり重要なんじゃないかとね。思うのですよ。

今回は私が遊んだ中で思い当たるのを紹介しながら説明しましたが、他にも面白いことやっているゲームないですかね。
色々と目を向けてみると面白いかも。



◆宣伝

私はゲームデザイナーなのでゲーム作ってます。
まだアーリーアクセス版ですが、Steamで遊べるので興味ある方は遊んでみてください。この記事で書いたようなことも色々やってます。


あと他にも色々とゲームデザインの記事を書いているので、気になった方はドウゾ―。

今回の記事と関連性が強いのはこの辺りですかね。


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