残忍

母親をレイプしている途中で
犯人は赤ん坊にミルクを飲ませた
ぎゃあぎゃあうるさいから静かにさせろ
犯人の顔は見てしまっている
おそらく自分は殺されるだろう
これが最後のミルク
これが最後の抱っこ
いい子いい子泣かないで
この子が泣き止んだら
またレイプされたのち殺される
でも泣かないで
お母さんいなくなっちゃうけど
あなたは元気に育ってね
小さな温もり愛おしい重み
全部これが最後
それはどれほどの想いだったのだろうか
その子が成長して母の最期を知る時が来たら
どれほどの悲しみと憎悪に苛まれるだろう
ひとりしか殺していないから
犯人は死刑になどならない
それどころか十数年で出てくるだろう
殺してやりたいだろう
八つ裂きにしてやりたいだろう
母の仇をうってやりたいだろう
でもそれは許されない事なのだ
世の中には修復不可能な心が溢れている
もう二度と心から笑えない人たち
私はどうすればいい
何もできることなどないのだ
話ならいくらだって聞くけど
もう言葉を失い発することのできない人だっているだろう
悲しみには底がない
その触手に捕まってしまえば
あとは落ち続けるしかないのだ
彼は毎週墓参りを欠かさない
命をかけて自分を守ってれた母に会いに
近くの花屋で顔を覚えられた
お花がお好きなんですね
店員は無邪気に笑う
それに笑い返すことができなかった
もっと甘えたかった
反抗期で困らせたかった
国立大学に入ったことで
恩返しがしたかった
犯人は今ものうのうと暮らしている
僕の笑顔を返して
もう何もかもが手遅れなんだ

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