今精一杯の希望を

カロナールはよく効く
21針縫った左手首に構わず
煙草が吸える
入院費はお前が払えと夫に言われた
当たり前といえば当たり前だが
死の淵から還ってきたばかりで
そういう話は避けてもらいたかった
今頃墓の下にいたかもしれない
そういうこともあるかもしれないと
覚悟した上で結婚したと言われた時には驚いた
夫は強い
私の100倍は
だから頼れるし
だからこそ心を開けない
宇宙人と暮らしてるみたいに
面白い事も寂しい事も味わわざるを得ない
もう行かなきゃと言い出すのは
私ではなく彼のほうなのではないか
ガラスの靴で月に帰るお姫様は
実は彼のほうなのではないか
彼は私を失っても生きていける
私には無理だ
夫を看取ることを想像しただけで
頭の中が真っ白になる
私が死に急ぐのは
それを回避する為だろうか
ここまで打って手首が痛み始めた
カロナールをカフェラテで流し込む
私の愛してやまない飲み物
また飲めるとは思ってもみなかった
こういうのも幸せのうちに数えていいのだろうか
宇宙人を愛してしまった埋まる事のない孤独を
20億光年の寂寞を
もしすべて受け入れることが出来たなら
おばあさんになるまで生きて
彼に花をたむける強さが
手に入るのかもしれないなんて
自殺願望者にしては随分
希望的推論だな

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