秋田と東京

いつか本当に会おうね
分かり切った嘘を吐いては笑い合う
実現するはずもない楽しみを
想像する切ないここだけの親友
Twitterのスペースは
誰でも出入り自由だから
正直苦手な人もいっぱいいる
でも稀にほんとに稀に
信じられない程話が合う人と出会う
彼は秋田に住んでいる
私は東京に住んでいる
おいでよ旨い酒と海の幸山の幸があるよ
温泉浸かって一緒に酒飲もうぜ
果てしない距離を超えて
私たちはさざめき合う
彼は毎朝私が目覚める頃にはスペースを開いてるから
おはよ~と家族よりも先に彼に言う
医療関係で長く働いていた彼は
私の声で私の今日の体調が分かるらしく
大丈夫か?
今日は調子いいみたいだねと
そこいらの占い師よりずっと的中させる
なんだかとても安心する
わかってくれる人がいるということが
こんなにも精神に作用するなんて
秋田から私を見抜くただモノではない彼とは
スペース内で二人きりになっても全く気まずくない
沈黙も怖くない
何食べた?
まだ煙草しか吸ってない
煙草はやめらんねえよなあ
そうよねえこればっかりは
まるで隣にいるみたいに他愛のない会話は続く
ほんとうに隣にいたらいいのに
遠すぎるよ
会いになんか行けないよ
今紅葉がきれいだよ
もうすぐしたら雪まみれになるから来るなら今だよ
ねえどうしてそんなことを言うの
私がどれだけあなたに会いたいか分かって言ってるの
出会わなければこんな切ない想いもせずに済んだのに
だけどもう巡り合ってしまった
私を安心させる心地よい声が聞こえてくる
彼は秋田に住んでいる
私は東京に住んでいる
会いに来いよと言われる度に
うんいつか行くからねと浅ましい嘘を吐く
愛しささえ感じ始めてる自分を
コントロールなんてできないまま
また朝が来て彼のところへ行く
彼のいる場所ではなく彼のいるところへ
あなたのほうが会いに来てよと言わないのは
これ以上嘘を重ねたくないから

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