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THE DEAD DON'T DIE・ジム・ジャームッシュ監督/ゾンビ映画の入門書的作品

映画の感想を書こう思っても、なかなか時間を作れないのは、きっと「良い文章を書きたい」というスケベ心があるから。スケベはもう辞めて、見た作品の感触を思い出すために書こう!と重い腰をあげてます。

だけど、見たときの感触なんて、良い文章じゃないとね…

という自分へのツッコミは脇に置き、コロナ禍後初の映画館鑑賞はジャームッシュ監督のゾンビ映画でした。怖かったら嫌だな、と恐る恐る見始めたけど、終始笑ってました。でも「面白かった」とはちょっと違うような…

「ジャームッシュが現代にゾンビを蘇らせた!」ということと、出演者の面々を調べれば大凡の内容は想像通り。けれど、映画館で見たからこそ完結するメッセージが、この作品にはありました。

✳︎肖像権や著作権の関係がアレかと思い、途中、絵を入れてみました。絵がアレなのはご了承下さい…

https://youtu.be/bs5ZOcU6Bnw

豪華俳優陣
キャストを「豪華」と呼んだとき、アダム・ドライブしか当てはまってないじゃん、と思うか、イギー・ポップのゾンビ姿に胸キュンするか、分化されると思う。少なくとも、ジャームッシュ監督作品を観てきた人にとっては「超豪華」だし、キャスティングも最高。冒頭からブラボー!と喝采したくなるほどでした。

見所はそこだけか、と言われれば「そこだけ」のような気もする。でも言い方を変えると、豪華俳優陣が「ゾンビ映画」に出演していることが重要なポイントなのです。

少し解説をさせていただくと『ゾンビ』というのはジョージ・A・ロメロ監督が70年代に発明した、普遍的な存在です。物欲的な人間の性を批判し、資本主義社会への問題提起が根底にあった。物を求めて、死んでいるかのような人間の増加…そんな社会背景があったと思う。

「デッド・ドント・ダイ」は、おそらくロメロ監督作品「Night of the Living Dead」を踏襲していて、ゾンビたちは生前、執着していた物を追っかける。しかも、ロメロの時代とは違い、今のゾンビたちが欲してるモノって、モールなんかで売ってる物だけでなく、インスタのイイねだったり、WiFiだったり分化している。

この作品は、ロメロ作品と比べると、説明的なセリフがあったり、ナレーションも所々入っちゃったりして、超わかりやすい「ゾンビ入門」として観られる。正直、オレはこのナレーションや説明的なセリフに興醒めしたけれど、「ゾンビ映画を見たことのない人」にとっては非常に親切で、面白いと感じるのかも。

…話がそれてしまったけど、なぜ、豪華俳優陣が出演しているのか。

思うに「豪華俳優陣=消費されまくって有名になった」資本主義のシンボルとも言えると思うんですね。特にアダム・ドライバー。そしてビル・マーレイは80年代に特に消費されて、今や脚本を選ぶ大スター。テルダ・スウィントンは、インディペンデント映画系の女神みたいな存在で、「テルダさま」と呼ばれて愛されている。彼ら含む出演者たちが映画内でゾンビとどう向き合うか、それがこの作品の本質かな、と思う。

(以下、ネタバレ含みます)

トム・ウェイツは世俗を離れた原始人。イギー・ポップはコーヒー大好きゾンビ。セレーナ・ゴメスは隣町の都会(と言ってもオハイオのシンシナティだけど)からやってきた可愛い女子。ブシェミは偏屈で性格の悪いジジイ。RZAは含蓄のある優しい郵便屋(言葉を運ぶ人)。などなど、みんな「なるほど!」と言いたくなる配役で、これが楽しい。

そして、最後に生き残るのは原始人とテルダさまのみ。テルダさまは刀を扱う無敵な葬儀屋で、せっかくめちゃくちゃに強いのに誰も助けず、なぜか安っぽいCGのUFOで地球からバイバイする。つまり「CGのUFO」と「原始人」のみが生き抜くのです。

それってどういうことかを考えたのだけど、CGのUFOはNetflixとかフルCGなど、最近主要になりつつある刺激多めのスナック菓子的作品、で、原始人はオールドスクールの古き良き映画作品を指しているのではないかと。

古き良き映画作品って何?というのはいつかまた書かせてもらうとして…

「映画とは何か」は、人によって考えが違うようで、Netflixで流れている2時間ドラマが映画である、と呼ぶ人も多く。もちろん、刺激的でキャッチーで面白い作品も沢山あるけれど、映画館で観る作品(あるいは映画館を目指して作られた作品)が映画だと思うのです。

コロナ禍で涙が出るほど映画の存在危機を痛感している最近の私。みんな死んで、原始人とCGだけが残るエンディングに、「ジャームッシュもゾンビに食われた」という風にしか解釈できず、悲しかった。

大いに笑ったのですが、すごく切なかったです。

トム・ウェイツ演じるハーミット・ボブのように、せめて自分は、原始人として「映画」を求め続け、アダム・ドライブやビル・マーレイが演じる「映画を守ろうとするけど、ゾンビになっちゃう人」にFuck you!と中指立てたいと思った。

駄作でも傑作でも、微妙な作品でも映画館でみよう。
反省する気持ちも湧きました。

…ちなみに
ジャームッシュ自身は原始人で、今の映画業界のお寒い状況を双眼鏡で見ているだけ、という図式かもしれない。どっちでも良いけど。

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