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データ戦略の会社が考える「IBMのAIが人間をディベートで負かす?AIの得意なこと・苦手なこと」

実は私は慶應大学在学時代に英語ディベートサークルに参加しており、昼夜を問わず練習や準備に明け暮れていました。少し前にIBMが開発したディベートを行うAIが、人間のディベーターを負かしたというニュースが話題になっていて、私が深く関わってきたディベートとAIの話題だけに、記事にしたいと思っていました。

<参考記事>
IBMのAI「Project Debater」、ディベートチャンピオンを打ち負かす
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1806/19/news135.html

Man 1, machine 1: landmark debate between AI and humans ends in draw
https://www.theguardian.com/technology/2018/jun/18/artificial-intelligence-ibm-debate-project-debater

IBMの新しい人工知能は、人間を「論破」する能力を身につけた
https://wired.jp/2018/06/28/computer-can-argue-with-you/

BloombergによるIBMのSVP Arvind Krishnaへのインタビュー
https://www.youtube.com/watch?v=6mJqTC0G2Jw

ディベートを学ぶ際に、最初に登場するのが「主張と根拠」の考え方です。これは、議論は「主張 Claim」と、その「根拠 Reason/Evidence」から構成され、何かを主張するときには必ず根拠をつけましょうというものです(根拠にも複数のパターンがあったり、主張と根拠を支える「隠れた前提」という概念もありますがここでは詳細は割愛します)。

IBMが発表したディベートの技術は、大規模な文章のデータセット(こちらのプレゼンテーションによれば60億の文から構成されるデータセット)を準備して、そこからトピックに関連する主張と根拠を抜き出すというアプローチが用いられています。こうした大規模な文章のデータセットを探索する技術は、IBMのWatsonが少し前にPRしていた「Watsonがクイズ大会で優勝した」という技術とも基本的な発想は同じです。文章のデータセットからトピックに関連する主張と、過去の研究や専門家の意見などの根拠を抽出します。そして、抽出された主張がPros/Consのどちらに属するかを分類するアプローチがとられています。

例えば、抽出された主張と根拠は、以下のような形で構成されます。

Topic: 未成年者への暴力的なテレビゲームの販売を禁止すべきだ
Claim: 暴力的なテレビゲームは子供の暴力性を助長する (Topicに対するPros)
Evidence: 過去のXXXという研究成果が存在する

こうして抽出されたPros/Consをもとに、スピーチを組み立てて、発話するというのが大まかな流れのようです。

英語ディベートとして実施されているものの多くは、こうした主張と根拠を述べることだけでなく、

・相手が出した主張と根拠の前提を明らかにして否定をしたり、
・相手が出した主張と根拠を認めつつ共存する形で否定をしたりしながら、
・最終的には「双方の議論のロジックが正しかったとしてもXXすべきだ」という議論に落とし込んで行く

プロセスがあります(なので、特定のトピックに対して賛成・反対の両者が交互にスピーチを繰り返し、全部で6-8回のスピーチから構成されるスタイルが一般的です)。

実は、今回IBMに実現されていることは、AIの得意なこと・苦手なことを如実に表しています。

すなわち、実現されていることは「論題に関連性の高いPros/Consと、それに対する反論を引っ張ってくること」であり、それは技術的にいうと「大規模データセットの探索と分類」です。
一方、本来ディベートにおける極めて重要な要素であるにも関わらず、実現されていないことは「2つの相反する主張を聞いて、どちらがより確からしいか判断すること」「経済・治安・表現の自由など、異なる論点に対して文脈に基づいて重み付けをして、総合的な判断を下すこと」であり、それは技術的にいうと「価値観を考慮した判断」です。
AIの「判断」へのアプローチは、過去データに基づくパターン認識としての判断が主流で、価値観など抽象的な概念を踏まえた判断は技術的にはとても難易度が高い領域だと思います。

個人的な感想としては、今回のIBMのアプローチとして

・開発者が期待を煽りながらも、嘘にならない形であくまでAIの得意なことにフォーカスした形でその意義を語っていること
・これまでもAIが一定できていたことを、センセーショナルな形でラベリングをして(ディベート・クイズなど)、興味を引くこと+将来的なビジネスにおける可能性を示唆すること

などを明らかに意図的に行っているのは、マーケティング手法としては面白いと思います。一方、煽り方としてはそれなりに攻めているので、ある程度のAIやディベートのバックグランドのある方の中には、違和感を覚える人もいるかもしれません。

今後も、こういった人間にとっても限られた人にしかできない高度な意思決定や、価値観を伴う意思決定の場合などの場合は、少なくとも予見しうる未来(foreseeable future)においては、AIはあくまで人間が扱いやすい形で情報を提供するサポーターとしての立場で進化をしていく可能性が高いです。

そしてそれは、おそらく大多数の人々が望む進化(意思決定自体をAIに委ねたいとは思っていない)でもあるはずで、その意味で、人類は正しい方向に進んでいるんじゃないかなと思います。

ということで、以上自分でもびっくりするくらいざっくりした感想で終わります。

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