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データ戦略の会社が考える「地域ブランディングのポイントと効果測定」

以前の記事「マーケティングとブランディングの違い」「ブランディングと効果測定」がTwitterやNewsPicksなどで広く読まれ、大変好評を頂きました。

読んで頂いた方のうち、地方創生に関わっている方から「地域のブランディングの場合はどう考えたら良いのか」というリクエストがあったので、今回は地域ブランディングについて考えてみたいと思います。

民間企業との違いを踏まえた、地域ブランディングのポイント

マーケティングとブランディングの定義は、前回記事でも書きましたが以下のようなものでした(スーパーショートバージョン)。

・ブランディング ⊂ マーケティング
・「マーケティング」顧客の行動を変化させることに関わる活動の総称
・「ブランディング」顧客の行動を起こすため、顧客の認識を変化させることに関わる活動の総称
・マーケティングとブランディングの成果はどちらもデータで計測できる

この定義を踏まえて、地域ブランディングを行う場合にどのような点に気をつければ良いでしょうか。民間企業であればブランディングを行う対象が特定のブランドやプロダクトであり明確ですが、地方創生の場合は「XX温泉」「XX市」「XX県」あるいはもう少し広域だと「東北」「四国」、場合によっては「日本」だったりもします。すると、民間企業のブランディングとは異なるポイントもいくつかあるのではないかと思います。

ここでは、以下の5点を、民間企業と異なるポイントとして挙げたいと思います。

①購買行動を定義する
②購買行動に繋がりやすい Strategic Target を決める
③効果測定 - 認知・購買意向・購買結果を測定する
④購買行動に基づく、再投資の循環を作る
⑤意思決定構造を明確にする

では、以下順番に見ていきたいと思います。

① 購買行動を定義する

よくあるのが「地域の名前を知ってもらう」ことを目的にしたブランディングです。

認知を広げる、つまり認知率が高まれば、その後に獲得につながりやすくなります(ブランドの認知率が高ければ購買に繋がりやすくなります)が、「広告は見たことあるんだけど、あれなんの広告だっけ?」状態にも陥りやすいです。

重要なことは、内容を「顧客視点で見て意味のある地域の特色」と紐づけることです。例えば、温泉、海産物、新鮮な野菜、山・自然、綺麗な海、寺社仏閣、これらは日本全国色々なところにあるので、それだけでは「意味がある特色」になりません。最近では外国人観光客に向けたプロモーション動画を作る自治体も多いですが、「地域にある綺麗な風景」を編集しているだと他の地域との違いが分からず「綺麗な風景だったね、で、何の動画だっけ?」になりやすいです。

こうした事態を避けるためには、

・地域資源の歴史を踏まえた、差別化の源泉となる独自資源の深掘り
・顧客目線を取り入れるための、マーケティング経験者による調査等を含めた意思決定プロセスの構築

が重要になります。

そしてこれらを実行するためには、単純な「名前を知って欲しい」ではなく、

・「名前を知って、XXをして欲しい」という購買行動を決める
・その上で、XXをするときに何を知って欲しいか(=何が顧客からみた独自資源なのか)をクリアする

というステップが必要になります。ここで言う購買行動は「顧客に取って欲しい行動」であり、例えば観光訪問、移住、ふるさと納税の寄付などが該当します。当然、多くの地域がこうした行動を期待して何らかの情報発信を行なっていますし、「自然がいっぱいあります」だけでは他地域との意味のある差別化が出来ないので、その後の行動には繋がりません。

また、購買行動を定義することで、「再投資の循環」も作りやすくなります。後述しますが、購買行動の増加は、翌年にどの程度マーケティング予算を増やしても良いのかの一つの目安になります。

② 購買行動に繋がりやすい Strategic Target を決める

購買行動を定義した上で、その行動につながりやすい Strategic Target (戦略的ターゲット)を決めます。これは民間企業のブランディングと同じです。

Strategic Target は、戦略的に獲りたい(獲りやすい)ターゲットです。例として、移住の例を考えて見ます。この時、どのような人をターゲットにすれば良いでしょうか。

よくあるのが 「都市部に住む人」です。ただ、都市部に住む人と一口に言っても様々な人がいます。20代後半の独身男性と、40代半ばで子供がいる男性では当然生活スタイルや価値観も異なります。また、移住の場合は子供の年齢や進学のタイミングも重要になるでしょう。つまり「都市部に住む人」では粒度が粗すぎます。

そこで例えば、「30歳前後の女性で、最初の子どもが産まれて健康的な食事が気になっている人」というように、戦略的に獲りたいターゲットを定めます。全員ではなく、Strategic target に刺さるものを作らないと、誰にも刺さらないものになりやすいです。

ちなみに、関西で有名な温泉地・城崎温泉がある兵庫県豊岡市では、「京都に行く予定がある外国人観光客で、温泉地を探している欧米豪の観光客」を Strategic Target に設定しています。このように設定することで、どこが競合か、競合との差別化ポイントは何か、が明確になりますし、ターゲットに刺さるコンテンツも検証しやすくなります。

③効果測定 - 認知・購買意向・購買結果を測定する

詳しくはこちらの記事「ブランディングの効果測定」でも記載しましたが、実際の購買行動に関連する指標としての認知率・購買意向・購買結果を、時系列で計測します。

購買行動の内容によっては、数字に反映されるまで時間がかかるものもあります。外国人観光客は実際に訪問するまでのリードタイムが長かったり、あるいは移住を獲得したい場合にはすぐに決断できないので年単位での変化を追う必要があるかと思います。実際には、広告施策の反応を都度モニタリングして細かい改善を積み重ねながら、トータルとしての来訪者数や移住者数の推移をモニタリングすることになります。

④ 購買行動に基づく、再投資の循環を作る

これは、地域が民間企業とは大きく異なる部分です。民間企業の場合は、「施策 -> 売上増 -> 施策への投資増 -> 売上増」というサイクルが明確で、施策によって売上が増えれば、さらに再投資をすることで施策が強化され、売上が増えるという好循環を構築することができます。ところが、地域ブランディングの場合は、お金の入りと出の主体が異なる場合もあり、入りの内訳も明確でなく、このサイクルが回しにくいという実態があります。

具体的に言うと、例えば「自治体が実施する観光プロモーションが上手くいった結果、自治体がマーケティングに使える財源は増えるか?」ということです。実際には、来訪者が増えても、お金は地域の事業者に落ちます。確かに地方税の税収は増えることが期待できますが、自治体の複雑な予算決定プロセスにおいて、地域の観光収入が増え地方税収が幾分か増えたからといって、その増分を元に自治体のマーケティング予算を拡充することは難しいのが実態です。

その一方で、望ましいケースもあります。例えば、観光協会やDMO(Destination Management/Marketing Organization)、観光施設等の収入に「来訪者が増えれば収入が増える」仕組みになっている財源を設け、そのうち決められた割合をマーケティング予算に再投資することをルール化するという方法です。米国ではESTAによる財源、日本でも一部地域では入湯税による財源のうち何%をマーケティングに再投資するという仕組みもあり、これらはルールとして分かりやすく、マーケティング・ブランディングの結果も見えやすい仕組みではないかと思います。

⑤ 意思決定構造を明確にする

地域には、多様なプレイヤーが存在します。多様なプレイヤーが存在することは、意思決定できないリスクが高くなります。

意思決定者がいないと、全ての資産を平等で扱うため、何も差別化要因がなくなってしまったり、議論で決定することに何ヶ月・何年間もかかったりすることがあります(実際には民間企業でも散見されることですが、地域の場合は関係者がより多く、一つの組織に止まらない為、意思決定構造の仕組み化や組織のガバナンスが効きにくいのではないかと思います)。

シャープに意思決定をしている例として、例えば

・香川県の「うどん県」:当然香川県にはうどん以外の観光資源も沢山あるが、差別化できる「うどん」に絞り込んでいる
・兵庫県豊岡市のWEBサイト「VisitKinosaki」:豊岡市が実施するが、あえて Visit Toyooka にせず、外国人観光客に知名度が高い Visit Kinosaki にしている。実際には Kinosaki 以外のエリアにも果実が配分される仕組みを作りつつ、ブランディングはシャープにしている

などがあります。ちなみに兵庫県豊岡市の Visit Kinosaki は、私もアドバイザーとして2年以上サポートしていて、こんな記事も以前作成しています。

ブランディングを展開する上では、やはり戦略的にシャープに、リスクがある意思決定をすることが必要です。シャープに意思決定をするために、民間企業のうち進んでいる企業では「ブランドマネージャ」「CMO (Chief Marketing Officer) 」などの役職がおかれ、その人がリスクをとって意思決定する仕組みができています(当然、成功・失敗すれば「XXはXXさんがCMOだった」という評判が良くも悪くも生じます)。いくつかの地域を見ていても、主体的にリスクをとって意思決定できる人がいたほうが、施策はシャープになるのではないかと思います。

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