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実在しない番組の構成を考える遊び

九州の『N県』にある、ラテ兼営の放送局『TRN』のラジオで、平日の午前0時から3時間に毎晩放送されている『若手局アナとかわいいアシスタントが担当』しているラジオバラエティ(昔風に言えばディスクジョッキー)番組。タイトルは『ミッドナイトレディオステーション』。

早い話が『午前0時のラジオ局』の舞台となるラジオ番組なのだが、作者の村山仁志さんは、このラジオ局も、番組についても、一応、モデルはない、とおっしゃっており、完全なるフィクションという事になっております。

読者としてはあれこれ実在のNで始まる県や、その県唯一のラテ兼営局のことや、その局の過去の名物バラエティ番組などと照らし合わせてモデル探しをしたりするのですが(そりゃ一番楽しいわサ!)、フィクションと断言されているのを逆手に取って『架空のままリアリティを築いてゆく』という遊びもできるのです。

ラジオ番組の『育てゲー』ですな(笑)。

放送作家ならぬ『妄想作家』であります。

さて『ミッドナイトレディオステーション』ですが、幸か不幸か、ラジオドラマ版の『午前0時〜』を聴いていないので、イメージ素材は、小説本編三巻プラス『星乃さやか〜』と、この唄だけです。

ご存知の方ばかりだと思いますが、番組のテーマソングです。

『妄想(放送)作家』の私としては、まずこの唄が生まれた経緯を勝手に妄想します。当然、番組スタートからこの唄があるわけがない。佳澄さんは新人ですからね。そうなると、この番組と佳澄さんの人気がでてからの事になります。きっかけは、番組スタート一周年あたり?才能湧き溢れる蓮池ディレクターですから、伴奏を打ち込んで(あるいは依頼して)カラオケを作り、いつものスタジオで、番組本番前にレコーディングしたのかもしれません(私は、そういう現場に立ち会ったことがありますが、ラジオ局のスタジオでも、唄は録れます)。

歌詞は、もしかしたら、リスナーからファックスで集めた言葉を、番組であれこれいいながら組み立てていったのかもしれません。ということは、人間さんたちと幽霊さんたちの競作かもしれません(驚)!

さて、出来上がった曲ですが、どう使われるでしょうか。テーマ曲にするのはステキな方法ですが、それなら鴨川アナとのデュエットにしなきゃなりません(そうか?)。それはリスナーとしてもあまりに照れ臭いではありませんか。

もちろん、毎晩のようにこの曲はかかるんですが、正式にテーマ曲となる前に、まずは、次のような使い方でレギュラー化するでしょう。


1 CMフィラー

CM枠に時間分のCMが入らなかった場合、残り時間に音楽を入れます。夜中のネットワーク番組だと、枠に全くCMが入らず、フィラー音楽だけが2分間くらい延々と流れていることがあり、それでリスナーの耳に定着することもあります。

しかし、延々とフィラーが流れているということはCM枠げ売れていないことになります。いや、そんなはずはありません。小説の中でも、結構、自宅だけでなく、夜中働いている人々までこの番組を聴いているのです!この番組、実は人気番組なのです!

夜中働いてる人々が聞いているというのはすごいですよ。平成の怪物番組『ラジオ深夜某』や、昭和の怪物『オールナイト某ッポン』と対等に勝負して、結構いい勝負をしてるんです。

さらに、局のアナウンサーが担当する深夜の番組なんて、今や貴重です。かつて、東京のネット番組を受け付けなかった関西の二大深夜番組『MBSヤングタウン』『ABCヤングリクエスト』は、どちらも局アナウンサーがメインの怪物番組でした。また、伝説の深夜番組『パックインミュージック』も、林義雄、小島一慶、宮内義雄、久米宏…若手局アナウンサーが大活躍しました。『オールナイトニッポン』や『セイヤング』も、初期は局アナウンサーの活躍があったのです。

しかし、時代もかわり、いまや深夜放送は、タレント、アーチストとファンを結ぶライフラインのような存在になりました。

そんな中での『局アナと無名の新人』のローカル番組です。それが、世代を超えて愛されている。ラジオ愛好者にとって『ぜひ実在していただきたい奇跡』です。

(そうそう、昨年末の『オールナイトNBC』を聴いたときも、同じ事を思いましたよ)

で、何の話じゃ(笑)

あ、少なくとも人気番組だから深夜のCM枠は完売で、フィラーとしてこの曲を使うことはない!と、断言できます。


2 時報開けテーマ

NHKラジオ深夜便をきいていると、テーマ曲以外に、時報の後の時間帯テーマ曲が用いられています。これはどうでしょうか。

『ミッドナイトレディオステーション』の時間帯にTRNラジオが時報を打っていたかどうかがポイントです。

ラジオの時報は多くの放送局で、スイッチオフできない『割り込み』送出です。だから、番組上は、時報のために区切りをつけるか、時報が鳴っても無視してすすめるか、という選択にぬります。蓮池Dなら、どうするでしょうね〜。

まず、TRNラジオの時報がどんな時報か、という問題があります。

日本や韓国は、世界でも珍しい『ラジオ局によっていろんな時報が流れる国』です。

一番有名なのはNHKが採用している『4点時報』。ピッ、ピッ、ピッ、ポーンですね。同様のものとして、TBS他で使われる『3点時報』もあります。世界を見ると、旧ソビエト連邦の国では『6短点時報』、イギリス系のラジオ局は『5短点1長点時報』


イギリス系の国のテレビには、59秒だけ無音になる『空白いり時報』もあります。

次に有名なのは、時計見たいなチャイムを事前に鳴らす『時報チャイム』です。これも歴史が古く、民間放送開始の頃、服部時計店(SEIKO)が、各局にお祝いとして、時報用チャイムを贈り、そのかわり『SEIKOの時計が◯時をお知らせします』などのタイアップ・アナウンスをしたという時期がありました。それ以外にも鐘の音を時報の前打ちに使う局は、くすなくありません。


日本の場合、鐘と時報(ポーン)の両方を打ちますが、世界のうち、ドイツだけは、00秒に鐘やドラを打つ伝統があります。戦前の録音を聴いても、ものすごい勢いで『ポワーン』とドラが鳴っています。また、それから100年近く経ったいまでも、ドイツ第一テレビのニュースは『ゴ〜ン』という厳かな鐘の音で始まります。


日本でも自動報時装置ができる前、アナウンサーが時計を見ながら『30秒前、20秒前、10秒前、あと5秒』とアナウンスして、スタジオに吊られたチューブラーベルをハンマーでカーンと鳴らしていた時代がありました、


当然、誤差もでるわけで、毎回の誤差を記録する係もいたそうです。また、空振りしてハンマーをどこかにやってしまい、仕方なく口でカーンと叫んだという伝説もあります。戦後、東北放送開局の頃、ミュージカルチャイムの到着が間に合わず、しばらくテーブルチャイムを手でならしていたという記録もあります。

もう一つは、日本ではニッポン放送と秋田放送ラジオだけで使われている『電子鳩時計』。『パポ、パポ、パポ、ピーン』という電子音の時報で、半世紀以上おなじみです。

短い時報としては、大阪・朝日放送の『一点時報』があります。全く予備うちなしに『ボー』と低い音が鳴るだけです。これは珍しいです!

TRNラジオでは、どれが使われてるんでしょうね。

時報を番組の中でどう扱うかは、ディレクターの考えかたにもよります。つまり、トークと音楽だけで自由にすすめる夜中の3時間番組だから時報は勝手に打たせればいい、という考えかた。もう一つは、ついつい展開しすぎてしまう番組のリズムを建て直すために、時報や、時刻の確定したCMなどを『建て直し用のリカバリーポイント』としてわざと利用するディレクターもいます。こうすると、かえって、喋り手のキャラクターが浮き立つという良さもあります。蓮池Dは、どちらなんでしょうね。

三冊プラスワンの『TRNラジオシリーズ』(勝手に命名してしまいました)を手にすると、私のようなラジオ局そのものを愛してやまない人間は、それだけで一日遊べます。2巻、3巻、、星乃さんをお持ちでないかた、ぜひ四冊揃えて、この『日本一小さくて美しい放送局』の『描かれていないところ』を考えてみようではありませんか。これから第4巻などが出た時に違っていたら、それはそれで面白いのです。

イギリスのBBCラジオには『The Archers』という、小さな農村を舞台にした連続ドラマがあり、もう70年も毎日、毎日、放送しています。もともとは、戦争で疲弊した農村に新しい技術を紹介したり、元気を与えるために始まったドラマでしたが、やがてドラマとしての人気が高まり、愛あり、恋あり、生老病死あり、まるで実在の村を国民みんなで見守るという状態が続いています。公式のファンサイトもあり、そこには、長年の出来事やら、詳細な地図、妄想写真集まであります。一つの物語を中心に、心安らぐ理想郷を共有するなんて、素敵ではありませぬか!

妄想作家の仕事は、まだまだ続きます。しかも勝手に(笑)

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