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<期間限定公開>第12章:メンバーの増加にどう対応するか

組織の成長と階層組織

組織の成長とメンバーの増加

誕生してして間もない組織は、創業者及びそれに近いメンバー同士の直接の相互関係によって、 人々の目標と組織の目標をすり合わせていることがほとんどです。 そこにはまだ組織をコントロールするためのルールや制度等なく、また彼らの間には「命令する人/される人」といった階層関係もありませんでした。この段階において彼らは、それぞれの日常的なやり取りによって、各々の目標のベクトルを合わせ、自分たちの行動を規制しています。

組織を構成するメンバー 一人一人が持つ人間としての人格は、本来個別様々ですが、それらをそのまま組織の中に持ち込まれると、組織のマネジメントは混乱をきたしかねません。 そこで、経営者は、各メンバーが本来持っている人格を、組織としての目標達成にとって好ましい人格へと近づけていく必要があります。しかし、このようなすり合わせも、誕生して間もない小規模組織であれば、さほど難しくはありません。少人数である限り、シンプルなコミュニケーションによる問題解決は可能なわけです。また、仮に誰かが
仕事をサボったとしても、自分の目標だけ追いかけていたとしても、そうしたことはたちどころ全員の知るところになるため、厳格なルールや制度などじゃなくても、メンバーは誠実に働くことが期待できます。少人数組織では、ルールや制度は愚か、上位者すらいなくても、組織人格と個人人格のすり合わせは比較的容易なのです。

メンバーの増加が上位者を出現させる

組織が成長し、それに伴ってメンバーの数も増えてくると、コミュニケーション経路の複雑さは増していきます。 メンバーの増加に対して、多くの組織が取る対応の1つが、少数の上位者を立て、その下に他のメンバーを従属させると言うものです。一定以上のメンバーを抱えるほぼ全ての組織に、一人もしくは複数の上位者がいる最も重要な理由は、コミュニケーションコストの削減にあります。

では、上位者を立てれば、問題は解決するのでしょうか。上位者が建てたからといって、組織がうまく回るといういうわけではありません。上位者にも、管理できる最大の人数が決まっているからです。一般に、一人の上位者がコミュニケーションを効果的に取れる部下の数は、経験的に15人以内とされており、このことを統制範囲の原則といいます。この原則が故に、メンバーが増加すると、上司を頂点とした組織は、どうしてもコントロールの限界を迎えてしまうのです。

階層組織の登場

コントロールの限界を理由に、多くの組織では、メンバーの人数が増加していくと、大きく分けて2つの対応策が求められます。一つ目は、ピラミッド型の階層組織を作るというものです。メンバーを何らかの基準によって分割することで小さな組織にまとめ、その組織間での情報伝達をスムーズにするための調整をするために、さらに上位者を一人立てます。もちろん、組織が大きくなると、新しい上位者でもコントロールが不可能になるので、調整するための別の上位者を立てることになります。このように多くの組織では、メンバーの増加への対応策として、少数の上位者と多数の下位者からなる階層組織を選択するのです。

マネジメントコントロール

マネジメントコントロールとは何か

企業規模が拡大し、分業が進むと、組織に多数かつ多様なメンバーが所属することになります。こうしたとき、上述のような統制範囲の原則によって経営者のリーダーシップはどうしても限界に突き当たるため、それぞれの現場を理解するマネージャーたちに権限を委譲し、各人の役割に沿った目標と責任を与えて結果を評価するようにしていかなければなりません。またさらに、そのマネージャーたちも統制の原則は働くので、彼らも個別具体的な業務を担当する責任を与えて結果を評価しなければなりません。このようにすることで、組織内に分散したメンバーたちを全体の目標と矛盾することなく動かすためにマネジメントする仕組みが、マネジメントコントロールです。これがメンバー増加に対する二つ目の対策です。

ここでは、マネジメントコントロールを、「上位者の管理者が、組織目標や戦略の達成に向け、より下位の管理者あるいは現場社員に対して影響を及ぼす体系的なプロセス」と定義しています。すなわち、個人人格が持つ管理者や現場社員を、体系的な仕組みを通じて、組織目標の実現に向けた行動へと導くためのプロセスだということになります。個人が組織に持ち込む個人人格と、組織にとって望ましい行動原理をもつ組織人格とをつなぐ、重要な仕組みだと言えます。

マネジメントコントロールのサイクル

実際のマネジメントコントロールには、予算、業績の評価、報酬の決定、組織内の資源配分などといった様々な活動が含まれています。管理会計学者ロバート・アンソニーが、マネジメントコントロールシステムとして示したプロセスを参考に説明していきましょう。

・目標の設定
トップが設定した組織目標と戦略を受けて、組織を構成する部門のトップであるマネジャーの目標が、まず設定されます。次にそのマネジャーの目標が、部門を構成する個々のメンバーの目標へと分解されます。そして、個々のセールスパーソンに目標が次々と分解されていきます。そうすることで、メンバーが自らの目標を達成すれば、組織全体の目標達成につながっていきます。

・計画
目標が「絵に描いた餅」にならないためには、その実現に向けた現実的かつ周到的な計画を立て、その計画の進捗具合を管理する必要があります。ここで計画とは、将来取るべき行動のレパートリーや順序を、事前に決めておくことを指します。ここで計画とは、将来取るべき行動のレパートリーや順序を、事前に決めておいておくことを指します。マネージャラーレベルであれ、現場レベルであれ、人々が従事するには変化がつきものであり、しかも、どのような変化でいつ起こるかを事前に予測することは難しいのが現実です。このような状況下で、個々人が様々な変化に勝手に対応していては、組織目標の達成はままなりません。だからこそ、メンバーの行動の大枠をあらかじめ決定する必要があるのです。では、どのように計画を立案すれば良いのでしょうか。少なくとも5つの点を考慮する必要があります。

・計画の策定に関与するのは誰か
・計画の内容と範囲
・計画の実行に必要なリソースは何か
・業績とどのように連動させていくか
・成果報告の手続きとフォーマット

・計画の管理と実行
とはいえ計画は、あくまでそれを立てた時点での情報に基づくものでしかないわけですから、それを実行する段階になると、どうしても当初の想定通りに進まない部分が出てきます。そこで、進捗具合をチェックし、必要に応じて当初計画を修正する必要になります。それが計画の管理と実行です。
計画の管理のあり方には、大きく分けて2つあります。一つ目は、その計画を実行している当の本人が、自分自身で何らかのコントロールを行うものです。二つ目は、上司の介入によるものです。問題が起こった場合などにリアルタイムで上司が仕事プソセスへ直接介入するタイプと、業績評価などを通じて事後的かつ間接的に介入するタイプとに分類されます。

・業績評価
マネジメントコントロールの中でも、最も基本的となる活動であり、最も難しいのが、業績評価です。業績評価とは、個人の仕事の成果を何らかの基準と比較することによって、その出来不出来を決定することを指します。組織おける給与やポジションは多くの場合、有限です。経営者は有限な資源をどのように配分するかを決めなければなりません。業績評価は、この情報収集の側面を担っています。
また、業績評価には何が評価されるかを明確化することによって、当人の関心や努力を方向づける、という重要な役割もあります。会社がメンバーに何を求めているかを伝達するという役割も業績評価は担っています。

・業績評価と報酬のリンゲージ
業績評価を機能される当人が、評価されているということ自体に十分な注意を払い、それを重要なこととして受け止めなくてはなりません。業績を報酬に反映させることで、業績評価に対する関心を高め、かつ仕事行動への動機を高めることができます。業績評価の結果をどのくらい報酬に反映させるかということは、組織にとって重要な選択事項です。

業績評価をめぐる新しい動き

業績連動型報酬の見直し

日本においても2000年以降、成果主義という名のもとに多くの企業がこの業績連動型報酬制度を導入してきました。しかし、多くの企業は業績連動型報酬制動はうまく利用することができませんでした。業績連動型報酬を機能させるためには、評価させる社員自身が自らの成果に対して十分に影響を及ぼせること、従って当人に十分な権限が委譲されていることが必要となります。しかし、多くの日本の組織では、十分な権限委譲がなされていません。成績の良し悪しが、景気変動などの外的な要因によって決まってしまったり、成果の良し悪しに関わる行動の選択がほとんど上司に決められてしまうにも関わらず、それに報酬が左右されるようでは、本人も溜まったものではありません。そのほかにも、業績連動型報酬制度に関してはいくつかの問題が指摘されています。

・社員の関心や努力の配分が、その測定しやすい部分に偏ってしまう点
・社員の関心が短期的な業績の最大化に向かってしまい、より長期的な行動が犠牲になってしまう点
・金銭的報酬を全面に押し出すことで人々の仕事に対しる内発的な動機づけが阻害されうるという問題

業績評価の廃止?

こうした反省を受けて、一部の企業では、業績評価そのものを廃止する動きが出始めています。こうした背景には以下の3つのトレンドが関連しています。

・知的労働者の重要性の高まり
・市場ニーズへの迅速な対応
・個人ではなく、チームによる働き方の台頭

こうした変化を背景に、業績評価を廃止した企業では、年に一回行われる業績評価に加え、上司と部下が仕事の進捗確認や能力開発などに関して頻繁にやり取りすることを通じて、メンバーの業績を訂正的に管理しつつ、彼らの視線を自身の成長や能力の伸長といった、より長期的な部分へと向けさせるような取り組みを始めています。

また、業績評価を復活させた企業があることもまた事実としてあります。こうした企業では、これまでのように数値によって人々の業績を単に管理するのではなく、上司が評価した結果を本人の成長に繋げるような形でフィードバックすることに重点が置かれています。従来のように年単位で行われる評価の場合、メンバーの年度ごとに評価し、その評価に基づいて給与やポジションを分配することになるため、メンバーの意識がどうしても短期的な業務の遂行や業務上のミスをなくすことに向けられ、反面、将来の業績向上や成長に向けた学習といった組織の長期的な存続につながる活動が犠牲になってしまうという反省があるからです。

業績評価にあたっては、「これが正しいやり方だ」というものはありません。いずれにせよ、単に部下をコントロールするのではなく、メンバーを成長させ、さらに能力を開発することへと、経営者の意識が向かいつつあるのは間違いないといえそうです。

診断型のコントロールと相互作用型のコントロール

業績評価を含めたマネジメントコントロールは、組織部門や個人の活動状況について、事前に目標を設定したり、計画を立てたり、実績値を測定したりしながら、いわば医師の診断のようなイメージに近かったかもしれません。このような形で行われるコントロールを、診断型コントロールと呼びます。

これに対し、診断というよりはむしろ組織内の人々の相互作用によって組織の秩序を保つというやり方もあります。こうしたやり方を相互作用型コントロールと呼びます。この場合、経営者や上司は、特定の業績指標に注目して、それを頻繁に測定し、その推移を注意深く見守りながら、組織内で何が起こっているかということをコミュニケーションを通じて把握しようとします。部下は経営者の問いかけに応えるべく、必要な情報を集めたり、その数値を高めるために必要な学習に取り組んだりします。このように、業績を測定することで上司と部下のコミュニケーションを活発化することとしたのが相互コントロールです。

二つのコントロールは、情報に応じてどちらも利用されます。いずれにせよ、明確な指標として測定できないものはコントロールすることができないという考え方が、極めて重要なのです。

見過ごせない個人目標の重要性

組織の個人の中には、組織人格と個人人格という二つの人格を持っており、それゆえに、個人が目指す目標もまた二重になります。そのため、マネジメントコントロールによって、個人の人格を組織人格へと近づけるのか、個人目標だけでなく組織目標の追求へと向かわせる必要が出てきます。

この二つの人格をどのように統合し、バランスさせるかということが、経営者や管理者の重要な役割です。まだ確定的な答えは出てきてませんが、経営学の最先端では、個人人格を犠牲にすることなく、ありのままを受け入れ、かつ、組織としての成果を同時に達成することはいかにして可能かという議論が始まっています。


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