見出し画像

紫君子蘭


すこしだけ、ほんのすこしだけ遅かった。
君の耳に囁けば届くくらい近かったのに。失うときは近くて、呆気ない。その日が来るまで二人三脚で、ガラスの破片を集めていたのに。君を守りたい、君と一緒にいたい、その一心で流した涙が君の庭を肥やす。春が来て、まいた種が花を咲かせた。皆んなが君の存在を知らないと言うから、感情の種が舞い散って君を消そうとしてしまう。けれど君は笑って、「モウイイヨ(       )」と言うから僕に何も出来ることなんかって自嘲した。君がいなくなって、というより僕が君を消してから、花道と化したスーサイドラインが見える。もう失うものは何もないのかもしれない。いや、最初から何も無かったのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?