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「私は宗教2世でした」 ー【自主制作アニメ 「ボクがボクであるために」】


プロローグ

2023年、信仰宗教に関連したニュースが数多く流れた。
統一教会問題。いくつかの有名信仰宗教のトップの死。そして、「宗教2世」にまつわる問題。
これまで、様々な宗教の名前が世間から注目を浴びることは何度もあったが、「宗教2世」という言葉がこんなにも世の中に注目をされたことはなかっただろう。

アニメーション制作プロジェクト「day of days -それぞれの日々-」の一作品目として公開した『ボクがボクであるために』。
この作品は、とある信仰宗教の2世として生まれた二人の人物の実体験をもとに制作した。今回は、そのうちの一人の体験談を公開する。


「私は宗教2世でした」(東京・20代)

物心ついたときから、何かに向かって祈る家族の光景が私の日常だった。
祈る理由を聞くと、「世界を平和にするため」「私たち家族みんなが幸せになるため」だという。
私も見よう見まねで祈ってみると、それはそれは褒められた。
大きな声で祈ると、父も母もとても嬉しそうな顔をしていた。

小学生になったばかりの時、一緒に住んでいた大好きな祖母が病気になった。
家族の中で唯一祈ることをしていなかったけど、誰よりも優しくて素敵な人だった。
信仰心が強い父は、病気が発覚した祖母に「祈っていないから病気になるんだ」と説教をした。
そのあと祖母は、泣きながら祈っていた。
父の言葉にとてもモヤモヤしたけど、私も言葉にできない恐怖と一緒に、ただ祈ることしかできなかった。

小学校3年生の時、発展途上国の子どもたちのために活動している人の話を聞いた。普段行っている活動を聞いて、この人は本当に平和のために頑張っていると思った。
世界平和のためと言いながら、祈るだけの両親に少しモヤモヤした。

小学校4年生の時、姉が受験することになった。受験の日が近づくにつれて、家族の祈る時間が増えた。
少し反抗期が訪れていた私は、祈っても意味がないと思っていた。
姉のことは応援していたから、姉が勉強をしているときは静かに遊んだり、テレビを見ることも我慢した。
そんなある日、「家族のために祈らないお前は最低だ」と父親に叩かれた。
その時の父親の顔はとても怖かった。
途端に姉に対して申し訳ない気持ちになった。それからは毎日家族みんなで祈った。
姉が受験に合格したとき、みんな大喜びだった。両親は「祈ったかいがあった!」とても嬉しそうな顔をしていた。
「もし私が祈っていなかったら...」そんなことを考えるととても怖かった。祈っておいてよかったと思った。

小学校6年生の時、初めて友達に「いやだ」と言った。小さな頃から、「人に信頼してもらえるように誰にでも優しい子でいなさい」「何か悩みがあったらとにかく祈れば大丈夫」と教わって育てられた私は、自分の気持ちや悩みを両親や友達に言えないようになっていた。クラスの「やさしい子ランキング」でもいつも1位だった。
だから、クラスの子にひどいことを言われて、初めて「いやだ」と言えたとき、とても嬉しかった。だけど次の日から、「やさしかったのに、やさしくなくなった」と仲良くしていた子たちに嫌われた。そのことを両親に相談しても、「祈ろう」としか言われなかった。それまで人前で泣いたこともなかったけど、このとき初めて涙が止まらなかった。「祈ろう」としか言ってくれないことが、とても寂しかった。

両親の希望で、中学受験をした。その中学校は、宗教がつくった学校だった。
でも、結果は不合格だった。両親は結果を見て、泣いていた。まさかこんなに落ち込むとは思っていなかった。私はそんな両親をみて、一人公園で泣いた。

公立の中学校に入学してからは、部活動に明け暮れた。
「祈ったうえで叶わなかった結果には、必ず意味がある」という宗教の教えのおかげで明るくなった両親は、「不合格だったことにも必ず意味がある」と言うのが口癖になった。
だから私は、意味を見つけることに必死だった。両親が落ち込む姿を見たくなかった。中学3年生のときには大会で結果を残して、両親は「意味があったね!」と大喜びしていた。
でも、"意味を見つける"ための日々は過酷で、両親と手を取り合って喜ぶ私の手首は傷だらけだった。家族の誰もそのことを知らなかった。

高校受験の時、行きたい高校があったけど、受験させてもらえなかった。
両親は私に「次こそ祈って成功した体験を得てほしい」と、私の模試で合格不可能な判定が出ているところしか受験させてくれなかった。奇跡的な体験を積んでほしいと言われた。
結果はもちろん不合格だった。

この頃の両親はいつも「お金がない。お金がない。」と言っていた。
理由はわからないけど、我が家にはお金がないらしい。クラスで唯一、スマートフォンも持たせてもらえなかった。それならアルバイトをさせてほしいとお願いしたけど、父親は私が自分でお金を稼ぐことを拒んだ。
この頃、祈って受験に合格した友人は、大人たちの言葉を自然と信じるようになり、宗教活動に活発的に参加していた。
1人で生きていく力を持っていない私も、ただ両親の望むように宗教活動に参加することしかできなかった。
学校帰りに寄る、児童館だけが本当に好きなことができる場所だった。

18歳になった時、家にたくさんの大人が来た。選挙について話をされて、「この政党の議席が増えることが、世界平和に繋がる」と教えられた。
そういえば小さい頃から、家族旅行は選挙のシーズンだった。両親は旅行先の地元のお店をまわって、投票をお願いしていた。
18歳になった私ができる”平和のための活動”は、SNSのメッセージで友達に投票のお願いをすることなんだという。
「殻を破って!勇気を出して!今すぐやってみよう!」という大人たちの圧に負けて、友達にLINEを送った。大人たちが応援する議員さんのことを、私は何も知らないし、他の候補者のことも何も知らないまま投票先を選ぶことにすごく違和感があった。
大人たちが帰ったあと、送ったメッセージはこっそり送信取り消しをした。

大学受験の時、また宗教の学校を受験させられたけど、答案用紙に答えを書かなかった。三度目の不合格に対しても、両親は慣れたように「意味がある」と受け入れていた。
大学では、アルバイトを掛け持ちして、好きなように出掛けて、好きなように過ごした。政治や社会問題のことも、たくさん勉強した。
もうこの頃の私は、両親が信仰する宗教では世界平和を作れないことを確信していた。私には宗教の教えが必要ないことも確信していた。

成人した日、私は宗教を信仰していかないことを両親に伝えた。
父親は怒り、母親はただ黙っていた。

その後も私が信仰をしないことを、両親に受け入れてはもらえなかった。大学を卒業して就職をした私は、家を出た。生まれた家を失う方法でしか、自分の道を進むことはできなかった。

「私は宗教2世でした」

宗教2世の私には、何を学ぶか、どんな本を読むか、週末に何をするか、尊敬する人は誰か、将来の夢は何か、そういうことを自分で決めることができる人生が当たり前ではなかった。

大人になって教養を身につけた私は、こういった環境がどれほどの「人権侵害」であったかを痛感した。子どもの権利条約をはじめて読んだときは、この権利が守られる世界がどれほど理想的な世界かと思った。

宗教2世の子どもたちに降り注ぐ両親の愛情表現、それは宗教の教えだ。
子どもたちがそれを疑うことなど到底できるはずがない。
私がいくつになってもモヤモヤを消さずに考えることができたのは、そのモヤモヤを肯定できる機会がたまたまあったからだ。
はじめてモヤモヤしたあの日から、たくさん本を読んで、勉強をして、必死に外の世界と繋がった。外の世界で、たくさんの素敵な人に出会った。
だから私は、たまたま私自身の決断で、生きていく道を決めることができた。

子どもは生まれる家を選ぶことができない。一人一人の子どもが育つ環境を運に委ねるのではなく、宗教2世の子どもたちも含めた、全ての子どもたちの「子どもの権利」が守られる社会であってほしいと思う。

(東京・20代)


作品No.1 「ボクがボクであるために」

[あらすじ]
生まれてすぐに両親と同じ宗教に入信させられた主人公は、両親からたくさんの愛情を受けて育つ。両親にとって”宗教の教え”に沿って育てることこそ、我が子への最大の愛情表現だった。しかし、主人公は社会と触れることで両親が信じるその”教え”に違和感を持ち始める。


エピローグ

「宗教2世」
彼らを取り巻く環境に、どれひとつとして同じものはない。
同じ宗教でも、両親の信仰心の強さによって、家庭の状況は大きく変わる。
また、両親の態度だけではなく、「宗教の教えそのもの」で人権侵害を受けている人もたくさんいる。何より重要なことは、どんな環境に生まれた子どもたちも、子どもの権利条約が守られる社会であることではないだろうか。
2023年に明らかになった、「信仰宗教の問題点」。
またそんな宗教団体と癒着した状態で政権運営が行われていたことが明らかになった今、より良い社会にしていくためにできることはなんだろうか。

「宗教2世」に関連する記事・本・作品

記事『宗教2世770人の本音、「信仰を強制される」苦痛』東洋経済
漫画『神様のいる家で育ちました』著:菊池まりこ
本『みんなの宗教2世問題』編:横道誠
ドキュメンタリー番組『"宗教2世"を生きる』NHKスペシャル →WEB特集
小説『星の子』著:今村夏子→実写版映画


アニメーション制作プロジェクト[day of day -それぞれの日々-]

私たちの暮らす社会は、ひとりひとりの日常が重なり合ってできている。
同じ社会にある、あなたの知らない日々。
day of daysは、そんな日々を見つめて制作したアニメーションを発信しています。
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